4.今後の展開
本技術は、ロボットによる高スループット実験と、機械学習による成膜条件の提案・データ解析を連携させることで、多次元の成膜パラメータ空間を効率的に探索し、その結果を人が理解・転用できる成膜ルールへとつなげる次世代AI駆動型ラボの基盤です。半導体材料、酸化物材料、量子材料など、条件探索が複雑な材料・デバイスプロセスへの活用が期待されます。今後は、複数の評価指標を扱う最適化や、材料物性・成膜プロセスの知識を取り入れたAIモデルの高度化を進めます。さらに、多様な材料や装置での検証を通じて実験プロセスの自動化・知能化を推進し、材料・デバイス研究の効率化を加速します。また、実験データの蓄積に伴う成膜条件の提案や科学知識の獲得を高度化・自動化し、より賢く実験を進めるAI駆動型ラボの研究基盤へと発展させていきます。
5.論文掲載情報
"Interpretable self-driving sputtering epitaxy reveals human-usable growth rules for β-Ga₂O₃ films"
Yuki K. Wakabayashi, Yui Ogawa, Franz Benedict Romero, Coleman Wagner, Takuma Otsuka, and Yoshitaka Taniyasu
Nature Communications (2026):
https://doi.org/10.1038/s41467-026-76533-0
6.関連する過去の報道発表
・2020年10月9日「世界で初めてエキゾチックな準粒子の量子的電気伝導を観測 ~超高品質SrRuO₃薄膜を用いて『磁性ワイル半金属状態』の存在を実証~」
https://group.ntt/jp/newsrelease/2020/10/09/201009a.html
・2025年5月2日「半導体薄膜の材料分析にAIを活用し、自動化に成功 ~光通信用デバイスの製造業務の効率化に貢献~」
https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/05/02/250502a.html
【用語解説】
※1 β-Ga₂O₃ : 約5eV の大きなバンドギャップを持つ半導体材料です。バンドギャップとは、電子が電気伝導に関わる状態へ移るために必要なエネルギーの大きさです。大きなバンドギャップを持つ材料は、高い電圧に耐えやすく、また波長の短い紫外光に対応できるため、次世代パワーデバイスや深紫外光デバイスへの応用が期待されています。
※2 スパッタ法 : 真空中でアルゴンなどのガスをプラズマ化し、プラズマ中のイオンを固体の成膜原料に加速させ衝突させることで、はじき出された成膜原料の原子や分子を基板上に堆積させる成膜方法です。大面積化や低コスト化に適しており、半導体・ディスプレイ・光学膜などの製造にも広く使われています。
※3 AI for Science : AIを活用して科学研究を高度化・加速する取り組みです。大量の実験データや計算データを解析し、材料探索、創薬、物理現象の理解、実験条件の最適化などを飛躍的に進展させる研究分野として注目されています。
※4 ベイズ最適化 : 実験を通じた観測データ数が限られ、実験条件と結果の評価指標の関係が未知な状況において、最適な条件を効果的に探索するために用いる機械学習手法の一つです。過去の実験結果をもとに予測モデルを構築し、結果の不確実性を考慮して次に試すべき有望な条件の探索を進めます。本研究では、温度、スパッタ電力、Ar流量、O₂流量の4次元の成膜パラメータに対して、薄膜品質を高める条件を探索するために用いました。
※5 自律成膜 : AIによる意思決定とロボットによる物体操作を組み合わせることで、成膜条件の探索・改善を自律的に行う実験手法です。本実験では、スパッタ装置内でのウェハ搬送、AIが提案した条件に基づく成膜、光学測定データの自動解析、次の成膜条件の決定を連携させました。なお、現行構成では、ウェハをロードロックへセットする作業および成膜後サンプルを光学測定部へ移送する作業の一部に人手を介しています。
※6 ランダムフォレスト : 多数の「決定木」と呼ばれる予測モデルを組み合わせるアンサンブル機械学習手法です。本研究では、成膜条件に対する薄膜品質の値を予測するランダムフォレストを構築し、どの条件が薄膜品質に影響しやすいか、また条件同士の組み合わせがどのように効くかを調べるために用いました。
※7 アーバックエネルギー : 半導体や絶縁体の光吸収スペクトルから求められる指標の一つで、材料中の欠陥や原子配列の乱れに由来する光学的な不均一性の程度を反映します。一般に、アーバックエネルギーが小さいほど、欠陥や乱れが少なく、光学的品質が高いことを示します。
※8 ヘテロエピタキシャル成長: 異なる材料の基板上で、結晶の向きが一定の関係を保ちながら成長することを意味します。
※9 単結晶薄膜 : 原子が規則正しく並んだ結晶構造を持つ薄膜です。結晶の向きがそろっていない多結晶薄膜や、原子配列が乱れた非晶質薄膜と比べて、電子・光・熱などの性質を制御しやすく、高性能デバイスへの応用に適しています。
※10 成膜ルール : 成膜条件と薄膜品質の関係から抽出された、人が理解し実行できる条件調整の指針です。本研究では、各成膜パラメータを順に調整し、最後に温度と酸素流量を重点的に調整するという成膜ルールを導き出しました。