【東京農業大学(共同研究)】毒草ドクニンジンを食べる蛾を国内初確認

ドクニンジンヒラタマルハキバガの和名を提唱


毒草ドクニンジンを食べる蛾を国内初確認
~ドクニンジンヒラタマルハキバガの和名を提唱~

概要
東京農業大学大学院 生物資源開発学専攻の荒島 彈 博士(研究生)・北海道大学 総合博物館ボランティアの櫻井 正俊氏(昆虫分野:大原 昌宏 特任教授管轄)・九州大学大学院 生物資源環境科学府の岡 太陽氏(博士1年)の研究グループは、強い毒を持つ侵略的外来種・ドクニンジン(セリ科)を専食するヒラタマルハキバガ科の蛾Agonopterix alstromerianaを国内で初めて北海道から確認し、ドクニンジンヒラタマルハキバガの和名を提唱するとともに、国内での生態情報や発生状況を明らかにしました。

本研究成果は、日本鱗翅学会が発行する『蝶と蛾(Lepidoptera Science)』に掲載されました。

研究のポイント
  • 毒草ドクニンジンを食べる蛾Agonopterix alstromerianaを国内で初めて確認
  • ドクニンジンの発見や防除につながる可能性
背景
ドクニンジンConium maculatumはヨーロッパ原産のセリ科植物で、有毒アルカロイド物質を含むことから、古くは毒薬としてソクラテスの毒殺に使われたことで知られています。現在では世界各地に侵略的な外来種として侵入しており、土壌への毒の蓄積による農産業への被害や山菜として食されるシャクとの誤認による中毒事故の発生例があります。

チョウ目ヒラタマルハキバガ科のAgonopterix alstromerianaは幼虫がドクニンジンのみを食べる蛾で、ドクニンジンの世界各地への侵入に伴い、本種も世界各地で発見されています。中には、ドクニンジンに対する生物的防除剤として、本種が意図的に導入された国も存在します。

2012年、北海道大学構内でドクニンジンの駆除活動が行われた際、ドクニンジンの葉を巻く国内では未知の蛾が発見されました。そこで、本研究ではその正体がAgonopterix alstromerianaであることを明らかにし、国内での生態情報や発生状況の解明を試みました。

研究内容・成果
本研究で発見されたドクニンジンヒラタマルハキバガAgonopterix alstromerianaは、約8–10 mmの蛾で、頭部と胸部は白く、前翅は白っぽいベージュ色で、中央に暗赤色の模様と、そこから縁にかけて黒い模様があります。国内に似た種はおらず、容易に識別することができます。北海道大学札幌キャンパスを含む道内5ヶ所での生息が確認されました。

幼虫は緑色で、年1回、北海道では5月~7月に発生し、ドクニンジンの葉を筒状に巻いて巣をつくり、巣の周囲の葉・花・実を食べます。幼虫の数が多い株では、葉を食べ尽くしたのちに茎の表皮も摂食する様子が確認されました。新成虫は7月中旬から8月上旬に羽化し、翌春の新成虫の羽化直前までほぼ一年間生き延びます。

季節消長や移動性を調べるため、北海道大学総合博物館の大原昌宏特任教授の指導のもと、北海道大学構内にて、6年間、灯火採集による定量調査を行いました。その結果、新成虫の羽化直後と越冬明けの時期に活発に灯火に飛来し、それ以外の時期はほとんど飛来しないことがわかりました。また、捕獲位置から100 m以内に存在するドクニンジンの株数と越冬前新成虫の捕獲数の間にはきわめて高い正の相関がみられたため、本種の移動性は高くないことが示唆されました。

本種は成虫期の長さやその扁平な形状に加え、移動性が高くないことから、輸入資材などの隙間に潜んで移入し、国内のドクニンジン群落で個体数を増やしたと推測されます。国内への移入経路を調べるため、ミトコンドリアDNA配列に基づくハプロタイプ解析を行ったところ、北海道産の個体は、世界各地の個体から確認されている共通のハプロタイプと一致しました。この結果は、本種が海外から移入した可能性を支持する一方、具体的な由来地域の特定には至りませんでした。なお、本種の移入に伴う生態系などへの影響は、現在のところ確認されていません。

期待される効果、今後の予定
ドクニンジンヒラタマルハキバガが現在確認されているのは北海道札幌市近郊の5地点のみですが、ドクニンジンは東京都・千葉県・山梨県・三重県・ 岡山県など本州の数県でも確認されているため、本種が道外でも発見される可能性も十分あり得ます。また、幼虫はドクニンジンのみを食べるため、仮に本種が発見されれば周辺にドクニンジンがある可能性が高いということになり、未確認のドクニンジンを見つけ出すためにも利用できるので注目が必要です。

また、海外ではドクニンジンに対する生物的防除剤として、本種が意図的に導入された国も存在しますが、自然下では年1回の発生であることに加え、幼虫期間も短いことから、ほとんど有効な防除剤になっていないとされています。しかしながら、これらの課題が解決されれば有効活用される可能性があり、応用研究での利用が期待されます。

研究プロジェクトについて
北海道大学構内における調査は、北海道大学サスティナブルキャンパスマネジメント本部生態環境マネジメントWGの2016~2023年度生態環境調査の一部として実施されました。また、本研究の一部は、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター森林圏ステーションの教育関係共同利用拠点事業として行われました。

論文情報
論文名―ドクニンジンヒラタマルハキバガ(新称)Agonopterix alstromeriana (Clerck, 1759)(ヒラタマルハキバガ科)の日本初記録,北海道における季節消長とドクニンジン群落の定量的調査 【英題】The first record of hemlock moth: Agonopterix alstromeriana (Clerck, 1759) (Gelechioidea: Depressariidae) from Japan, with quantitative survey of seasonal occurrence and its host hemlock community in Hokkaido
著者名―荒島 彈・櫻井 正俊・岡 太陽
雑誌名―蝶と蛾 Lepidoptera Science 77(2): 103–116.
DOI―https://doi.org/10.18984/lepid.77.2_103
公表日―2026年4月30日

用語解説・補足説明
ドクニンジン:別名ヘムロック。セリ科の二年草で、全草に不快な臭気があり、コニイン、γ-コニセインなどの有毒アルカロイド物質を含みます。他のセリ科植物によく似ていますが、茎に暗紫色の斑紋(ソクラテスの血)があることで識別できます。

生物的防除:防除対象の天敵となる生物を意図的に導入し、有害生物の個体数を抑えること。柑橘等の害虫イセリアカイガラムシに対するべダリアテントウの導入による防除などが有名。植物に対する防除では、日本からイギリスに侵入したイタドリに対するイタドリマダラキジラミの導入による防除が成功例として知られています。

ハプロタイプ:DNA配列の違いによって分けられる遺伝的な型。片方の親から受け継がれるDNA上の違いのまとまりを指し、同じ種の中でも個体や地域によって少しずつ異なります。個体群のつながりや由来を調べる手がかりになります。

本件に関するお問合わせ先
東京農業大学 学長室 企画広報課
TEL: 03-5477-2650 / FAX: 03-5477-2804 / Email: info@nodai.ac.jp

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組織名
学校法人東京農業大学
ホームページ
https://www.nodai.ac.jp/hojin/
代表者
江口 文陽
資本金
0 万円
上場
非上場
所在地
〒156-8502 東京都世田谷区桜丘1丁目1-1
連絡先
03-5477-2300

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