植物は成長に伴って自分の重さや風・重力に耐えながら直立し続ける必要があります。こうした能力は農学の分野では倒伏耐性として作物の収量の観点から研究されてきましたが、植物が自ら立ち続ける能力そのものに着目した先行研究はありませんでした。そこで本研究グループは、この能力に新たに着目し、「self-standability(自立性)」という言葉で初めて呼ぶことにしました。茎が伸びて成長するのは先端の領域で、その下の組織は先端と自分自身の重さを支えなければなりません。つまり、茎を上下軸(図1AのZ軸)に沿って先端の「伸長領域」と根元の「支持領域」に分けることが、自立性の確立と維持に重要です。しかし、重力屈性などの左右方向の成長制御はよく研究されてきた一方で、この上下方向の領域分けがどのように制御されているのかは分かっていませんでした。
また、植物ホルモンのBRとオーキシンは、いずれも茎伸長を促進し、両者には相乗効果があることも知られていました。しかし、なぜ2つのホルモンが重複した機能をもつのか、この機能が植物に与えるメリットは長らく不明でした。また、従来の茎切片を用いた実験系では、先端から供給されるオーキシンのみが断たれてしまうため、両者の関係を十分に評価できないという課題もありました。
研究内容
研究グループはまず、シロイヌナズナの花茎
*5とリョクトウ(緑豆)の茎を用いて、BRが生合成され働く場所を詳しく調べました。その結果、BRの生合成やシグナル伝達、体内のBR濃度は、いずれも盛んに伸びている先端領域で高く、根元では低いことが分かりました。BRが多い場所が、よく伸びて屈曲できる場所と一致していたのです。
次に、茎にBRを多く与えると茎は長く伸びましたが、うまく体を支えられずに垂れ下がり、自立性が失われました(図2)。逆にBRが欠乏すると、伸びて屈曲できる領域が短くなり、重力に応じた曲がりも弱くなりました。さらに、先端と根元の中間にある特定の領域(BR依存的な「移行領域」)では、BRを与えると「伸びない領域へと変化する運命」を「伸びて屈曲できる領域として留まる」ように変えられました。一方、完全に支える領域になった根元は、後からBRを与えても伸びる組織には戻らないことが分かりました。
図2:BR処理による自立性の喪失。対照(無処理)の茎はまっすぐ立つが(左)、BR(ブラシノライド:BL)を与えると茎が長く伸びて倒れ、体を支えられなくなる(右)。BRの量が茎の自立性に重要であることを示す。
これまで実験材料にすることが困難だった「インタクトな(傷つけていない)茎」を用い、BRとオーキシンそれぞれの合成阻害剤を同時に処理して回復させる実験系を新たに確立しました。その結果、両方を止めると茎の伸長はほぼ完全に失われ、どちらか一方のホルモンだけを補っても回復せず、両方を補って初めて回復することが示されました。つまり2つのホルモンが、相乗効果だけでなく互いに依存して働く(相互依存性がある)ことを初めて明らかにしました。
茎全体の遺伝子の働きを網羅的に調べたところ、根元の「支える領域」では、今回新たに同定された
BRDS*6という遺伝子群の働きが高まっていることがわかりました。この遺伝子群は硬い二次細胞壁を作るセルロース、キシランやリグニンの合成に関わる遺伝子で構成されており、これらの遺伝子はBRによって抑えられていることが分かりました。従来、BRは細胞壁をつくる遺伝子群の働きを一様に高めると考えられてきましたが、本研究はBRが、やわらかい一次細胞壁
*7の形成を促す一方で、硬い二次細胞壁
*7の形成は抑えるという、相反する制御を担っていることを初めて示しました。
重力を受けて茎が曲がるとき、曲がりの目印となるオーキシン応答遺伝子は、伸びる領域でも支える領域でも同じように左右非対称に働きました。それにもかかわらず、実際に曲がるのはBRによって細胞壁がやわらかく保たれた領域だけでした。これらの結果から、オーキシンが曲がる「向き」を、BRが屈曲できる「場所」を決め、両者が協調して三次元空間での茎の成長・重力屈性・自立性を実現するというモデルにまとめられました(図1)。
今後の展開
農作物が倒れる「倒伏」は、収穫量を大きく損なう深刻な問題です。特に現代の農法では、肥料を多く与えることで背丈が高くなり倒れやすくなることが課題となっています。実際、1970年代の「緑の革命」で収量を飛躍的に高めた半矮性(背の低い)品種の多くは、BRやジベレリンに関わる遺伝子の変異をもつことが知られています。
本研究で明らかになった、BRが茎を上下軸に沿って「伸びる場所」と「支える場所」に分けるしくみは、自立性を制御する新たな手がかりとなります。今後は農作物にこの知見を応用することで、倒れにくく収量の高い品種の開発につながることが期待されます。
研究費
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS科研費 19H02957(嶋田幸久)、26K09356(奥村将樹))の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:Brassinosteroids define the stem elongation zone of stems along the apical-basal axis to coordinate gravitropism and self-standability in Arabidopsis
著者:Yusuke Kakei, Masaki Okumura, Chiaki Yamazaki, Akari Kimura, Nodoka Ishiyama, Hinako Kashima, Rina Kawashima, Akiko Sato, Takayuki Hoson, Kouichi Soga, Shozo Fujioka, Hitoshi Mori, Yusuke Kamiyoshihara, Ayumi Yamagami, Takeshi Nakano, Tadao Asami, Yukihisa Shimada
(筧雄介・奥村将樹は共同筆頭著者、嶋田幸久は責任著者)
掲載雑誌:
Plant Physiology(米国植物生物学会)
DOI:
https://doi.org/10.1093/plphys/kiag359