麻布大学は、アニコム先進医療研究所株式会社(代表取締役社長 堀江 亮)およびアニコム パフェ株式会社と共同で、スコティッシュ・フォールドの折れ耳形質に関与する TRPV4遺伝子(※1) c.1024G>T 変異を有する猫の一部において、成長に伴い、外見上は立ち耳様に変化する現象を遺伝学的に確認しました。
本研究では、経時的に蓄積された写真データと遺伝子型データを統合して解析した結果、折れ耳関連変異を有するにもかかわらず、子猫の時には折れ耳であっても、成長すると立ち耳様に変化する個体が一定割合で存在することを明らかにしました。
また、こうした個体は一般的な立ち耳個体と比較して耳介が小さい傾向にあることも確認されました。一方で、その差は外見上では判別が難しく、繁殖管理に活かすためには遺伝子検査の実施が重要であると考えられます。
本研究成果は、米国John Wiley & Sons社が刊行する動物の遺伝に関する専門の学術誌『Animal Genetics』にて、2026年5月6日にオンライン公開されました。
<本研究の成果>
スコティッシュ・フォールドの特徴的な折れ耳は、TRPV4遺伝子c.1024G>T 変異 に起因することが知られています。従来、この変異のヘテロ接合体では折れ耳、野生型では立ち耳を示すと考えられてきましたが、ブリーダーや獣医療現場では、外見上は立ち耳に見えても、折れ耳に関連する遺伝的要因を有する個体の存在が経験的に指摘されていました。
そこで本研究では、アニコム損害保険のペット保険契約者の皆さまのご協力のもと、保険契約時および更新時に蓄積された写真データとDNAサンプルを用いて、この現象を科学的に検証しました。
写真品質などの条件を満たした114頭を解析対象とした結果、TRPV4変異のヘテロ接合体55頭のうち7頭(12.7%)において、子猫のときには折れ耳であったにもかかわらず、成長に伴い、外見上は立ち耳様に変化する現象が確認されました。これにより本研究の対象では、外見上は立ち耳様に見える個体の中に、折れ耳関連変異を有する「隠れ折れ耳(cryptic fold)」の個体が含まれることが示されました。
さらに、正面写真が得られた14頭の解析では、隠れ折れ耳群の耳介サイズが、野生型の立ち耳群より有意に小さい結果が得られました。ただし、その差は大きくなく、写真データを用いた詳細な分析では区別できる一方で、外見のみで正確に判別することは難しいと考えられます。
<今後の展開>
スコティッシュ・フォールドでは、折れ耳同士の交配によってTRPV4変異のホモ接合体が生じた場合、重度の骨軟骨異形成症を呈するリスクが高いとされています。なお、ヘテロ接合体であっても臨床症状の有無・程度には個体差があり、本リリースは特定の交配を推奨するものではありません。本研究は、外見上は立ち耳に見えても、遺伝学的には折れ耳関連変異を有する個体が存在することを示した点で、遺伝性疾患リスクの把握・管理の観点から重要な知見です。今後は、外見のみではなく、TRPV4遺伝子検査によって変異の有無を確認することで、スコティッシュ・フォールドの遺伝性疾患リスクの把握・管理や動物福祉の向上につながることが期待されます。
本研究では、ご協力いただいたご契約者の皆さまから提供された写真データおよびDNAサンプルを用いて、この現象を科学的に検証しました。本研究にご協力いただいたご契約者の皆さまに、心より御礼申し上げます。
<用語解説>
※1 TRPV4遺伝子:細胞内外のカルシウムの流れを調整することで、軟骨細胞が刺激に応答するしくみに関わっている遺伝子。猫では耳や関節などにある軟骨の発達に関わっていることが分かっています。
<原論文情報>
掲載誌:Animal Genetics
原題:Straightened small pinnae in TRPV4 c.1024G>T heterozygous cats
著者名: Yuki Matsumoto, Ryuga Ishii, Hisashi Ukawa, Saaya Hiyoshi-Kanemoto, Hinako Hayashi, Haruka Onishi, Kai Ataka, and Ryo Horie.
論文リンク:
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/age.70114
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