アカハライモリのフグ毒はササラダニに由来していた ―陸上での毒獲得経路を初めて解明―

発表のポイント
◆アカハライモリが保有するフグ毒テトロドトキシン(TTX)の主要な餌由来供給源が、土壌に生息する2種のササラダニ類であることを明らかにしました。
◆TTXを含むササラダニをアカハライモリに与えることで、イモリが餌生物からTTXを獲得することを直接証明しました。
◆両生類であるアカハライモリの陸上生活の初期が、身を守るための強力な毒を獲得する重要な時期であることを明らかにしました。


■研究概要

 北里大学海洋生命科学部の中澤勇人 大学院生(博士後期課程2年)、高田健太郎 教授、法政大学国際文化部の島野智之 教授らは、名古屋大学、東北大学の研究グループと共同で、日本産アカハライモリ(Cynops prorogated)がもつフグ毒テトロドトキシン(TTX)注1の主要な餌由来供給源が、土壌中に生息するササラダニ類注2であることを明らかにしました。さらに、飼育下の幼若個体にTTXを含むササラダニを与える実験により、アカハライモリが実際に餌からTTXを取り込み、体内に蓄積して毒化することを直接示しました。これにより、長年議論されてきた「陸上で生活する脊椎動物はどのようにTTXを獲得するのか」という問題に対し、明確な解答を与えました。また、両生類であるアカハライモリの陸上生活の初期が、身を守るための強力な毒を獲得する重要な時期であることを明らかにしました。

 本研究は、アカハライモリの毒の由来を明らかにしただけでなく、微生物、ササラダニ類、そしてイモリやカエルなどの有毒脊椎動物をつなぐ新たな概念として、「陸上毒の供給網(terrestrial toxic web)」を提案するものです。すなわち、微生物が生み出す、あるいは微生物共生系に由来する可能性のある毒が、微小節足動物であるササラダニ類に蓄積され、それを捕食する脊椎動物へと移行し、化学防御に利用されるという仮説です。ただし、ササラダニ類がどのようにTTXを獲得しているのかについては、現時点では、共生細菌による生産と餌由来の蓄積の両方の可能性が残されており、今後の検証が必要です。

 この研究成果は、自然界における毒の由来や、生物間での毒の移行という、化学生態学の課題に新たな視点をもたらすものです。今後は、ササラダニ類がもつTTXの起源や、他の有毒両生類にも同様の毒獲得経路が存在するのかを明らかにしていく予定です。本成果は、2026年4月24日付で国際学術誌『Journal of Natural Products』に掲載されました。

■研究内容

 テトロドトキシン(TTX)は、フグ毒として知られる強力な神経毒で、フグ類だけでなく、イモリやカエルなど一部の陸上脊椎動物からも発見されています。しかし、陸上で生活する脊椎動物がどのようにTTXを獲得しているのかは、長年にわたり大きな謎とされてきました。
 日本産アカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)は、水中でふ化した幼生が変態後に陸上で生活し、その後、成熟すると再び水辺に戻るという生活史をもちます(図1A)。本研究では、まず卵、幼生、陸上生活期の幼若個体、亜成体、陸上生活期の成体、水中生活期の成体について、TTXおよびTTXの推定生合成中間体注3であるCep-210の存在量を調べました。その結果、卵や幼生ではTTXはほとんど検出されず、陸上生活期に入った後にTTXとCep-210が大きく増加することが明らかになりました(図1B)。このことから、アカハライモリは陸上で生活する初期段階に、身を守るための毒を獲得している可能性が示されました。

 次に、陸上生活期のアカハライモリが野外で何を食べているのかを明らかにするため、胃内容物を調べました。その結果、胃内容物からはワラジムシ類、線虫類、多足類、昆虫類などに加えて、多数のダニ類が確認されました。特にササラダニ類は主要な餌生物の一つであり、アカハライモリが土壌中の微小な節足動物を活発に利用していることが分かりました。
 そこで研究グループは、アカハライモリの生息地の土壌からササラダニ類を採集し、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)注4を用いてTTXの有無を分析しました。その結果、Scheloribates processusと Galumna sp. KM1の2種のササラダニ類からTTXおよび関連化合物が検出されました(図1C)。さらに、これらのササラダニ類に含まれるTTX関連物質の組成は、アカハライモリに見られる組成とよく似ていました。このことは、ササラダニ類がアカハライモリにTTXを供給していることを強く示しています。

 さらに、飼育下で育てた陸上生活期の幼若アカハライモリにTTXを含むササラダニを与える実験を行いました。その結果、幼若個体はササラダニ類を実際に捕食し、33日間の摂餌後には尾部に含まれるTTX量が増加しました。一方、対照区としてワラジムシのみを与えた個体では、TTX量の増加は見られませんでした。この実験により、アカハライモリが餌であるササラダニ類からTTXを取り込み、体内に蓄積して毒化することが直接示されました。

図1 (A) アカハライモリの生活史,(B) アカハライモリの成長段階とTTX量,(C) アカハライモリとササラダニ類のTTX関連物質のプロファイル(掲載論文の図を改変).

 また、本研究では、TTXを含むササラダニの一種である S. processus から、一部のヤドクガエル類で知られるアルカロイド毒、プミリオトキシン注5類も検出されました。ササラダニ類は、ヤドクガエル類の毒の供給源として知られていましたが、本研究により、イモリのTTX獲得にも関与することが明らかになりました。この発見は、ササラダニ類のような土壌中の微小節足動物が、複数の有毒脊椎動物に毒を供給する重要な役割を担っている可能性を示しています。
 以上の結果から、本研究は、アカハライモリが陸上生活期にササラダニ類を食べることでTTXを獲得していることを明らかにしました。さらに、微生物、ササラダニ類、イモリやカエルなどの有毒脊椎動物をつなぐ「陸上毒の供給網(terrestrial toxic web)」という新たな考え方を提案しました。ただし、ササラダニ類がTTXをどのように獲得しているのかについては、共生微生物による生産や、餌を通じた蓄積など複数の可能性が残されており、今後の研究課題です。

 本成果は、自然界において毒がどこで生まれ、どのように食物連鎖を通じて生物に受け渡されるのかを理解するうえで重要な手がかりとなります。また、陸上生態系における微小な土壌動物の役割を見直すきっかけにもなる成果です。

■発表者・研究者等情報

 中澤 勇人(北里大学大学院海洋生命科学研究科・博士後期課程2年)
 高田 健太郎(北里大学海洋生命科学部・教授)
 吉武 和敏(北里大学海洋生命科学部・講師)
 天野 勝文(北里大学海洋生命科学部・教授)
 佐藤 繁(元・北里大学海洋生命科学部・教授)
 島野 智之(法政大学国際文化部・教授)
 宮坂 忠親(名古屋大学大学院生命農学研究科・助教)
 西川 俊夫(名古屋大学大学院生命農学研究科・教授)
 安立 昌篤(東北大学大学院薬学研究科・准教授)

■論文情報


論文名: Oribatid Mites Supply Tetrodotoxin to Poisonous Newts

著 者: Yuto Nakazawa, Satoshi Shimano, Tadachika Miyasaka, Masaatsu Adachi, Toshio Nishikawa, Kazutoshi Yoshitake, Masafumi Amano, Shigeru Sato, Kentaro Takada*

掲載誌: Journal of Natural Products

DOI: 10.1021/acs.jnatprod.6c00280



■用語解説

注1 テトロドトキシン
 テトロドトキシン(TTX)はフグ毒として知られる強力な神経毒で、電位依存性ナトリウムチャネルという膜タンパク質に作用し、神経伝達(活動電位の発生・伝導)を阻害することで毒として機能します。

注2 ササラダニ
 ササラダニ類は、落葉などの有機物の分解に関与する土壌動物(微小節足動物)で、菌類を食べる種も知られています。土壌中に広く生息しており、トビムシ類と並んで、最も個体数の多い土壌動物の一つです。

注3 生合成中間体
 天然有機化合物の多くは、生物の体内で複数の酵素反応を経て合成されます。このような過程を「生合成」と呼びます。生合成中間体とは、最終的な化合物が作られる途中で生じる化合物のことです。Cep-210は、TTXの推定生合成経路における中間体の一つと考えられています。

注4 液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)
 液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)は、試料に含まれるさまざまな成分を液体クロマトグラフィーで分離し、それぞれの成分を質量分析計で検出・同定する分析方法です。ごく微量の化合物も高感度に検出できるため、天然物や毒成分の分析に広く用いられています。

注5 プミリオトキシン
 プミリオトキシン類(PTX)は、一部のヤドクガエル類の皮膚に蓄積される強毒性のアルカロイドです。ササラダニ類がPTXを保有していることは京都大学を中心とした研究グループにより、既に報告されています。
 Takada, W.; Sakata, T.; Shimano, S.; Enami, Y.; Mori, N.; Nishida, R.; Kuwahara, Y. Scheloribatid Mites as the Source of Pumiliotoxins in Dendrobatid Frogs. J. Chem. Ecol. 2005, 31 (10), 2403–2415. https://doi.org/10.1007/s10886-005-7109-9.


▼本件に関するお問い合わせ先

≪研究に関すること≫
北里大学海洋生命科学部
 教授 高田 健太郎
 E-mail: ktakada@st.kitasato-u.ac.jp

法政大学国際文化学部
 教授 島野 智之
 E-mail: sim@hosei.ac.jp

≪取材に関すること≫
学校法人北里研究所 広報室
 〒108-8641 東京都港区白金5-9-1
 TEL: 03-5791-6422
 E-mail: kohoh@kitasato-u.ac.jp

法政大学総長室広報課
 〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
 TEL: 03-3264-9240
 E-mail: pr@adm.hosei.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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