【横浜市立大学】胎仔精巣からの体外精子形成に成功

-逆転写酵素阻害剤と低酸素培養で胎仔期からの精子発生プロセスを再現-

 横浜市立大学大学院生命医科学研究科 西田麻由香さん、小野(砂流)有希奈さん、加藤小百合さん(大学院生:研究当時)、同大学院医学研究科 臓器再生医学教室の佐藤卓也講師、小川毅彦特別教授らの研究グループは、理化学研究所バイオリソース研究センターの小倉淳郎副センター長らとの共同研究により、性決定直後のマウス胎仔(たいじ)の精巣から、体外(in vitro)で機能的な精子細胞を産生することに成功しました。
 本研究成果は、Nature Portfolioのオープンアクセスジャーナル「Communications Biology」に掲載されました(2026年1月27日)。

研究成果のポイント
  • 性決定直後の胎仔精巣(E12.5)からの完全な体外精子形成誘導に成功しました。
  • 培養ストレスで活性化する「レトロトランスポゾン*1」を薬剤で抑えることが成功の鍵である可能性を示しました。
図1 胎仔精巣からの体外精子形成:(左)培養開始時(0日目)の胎仔精巣(胎齢12.5日)
(中・右)52日間培養した後の精巣組織 (中)は明視野像 (右)はGFP蛍光像
本研究の条件で培養した組織では、組織自体が成長して精細管が発達するとともに、精子形成が進行していることを示す緑色の蛍光が明瞭に確認できる



図2 胎仔精巣からの体外精子形成:本研究で開発した手法により、E12.5胎仔精巣から産生された精子細胞を用いて顕微授精を行った結果、健康な産子が得られ、これらのマウスは正常に成長し、繁殖能力も有していた





研究背景
 本研究グループは、精子形成のメカニズムを解明し、男性不妊症の治療法を開発するためのツールとして、体外で精子を産生する体外精子形成技術の開発を進めてきました。 これまで、新生仔マウスの精巣を用いた体外精子形成は確立されていましたが、その誘導効率は低く、多くの課題が残されていました。さらに、より未熟な胎仔期の精巣、特に性決定(マウスでは受精後12.5日:E12.5)直後の精巣から精子を産生することは、これまで不可能とされてきました(参考文献)。そのため、これまで従来の培養手法ではこの段階からの分化誘導は成功しておらず、その達成を阻む要因の解明が求められてきました。

研究内容
 研究グループは当初、より発達が進んだ新生仔のマウス精巣を用いた培養実験において、精子形成の効率を向上させる薬剤の探索を行っていました。その過程で、エイズ治療薬などとして知られる逆転写酵素阻害剤(RTI)*2を培養液に添加すると、精子形成が促進されることを発見しました。
 そこで、「このRTIを用いれば、これまで培養が不可能だった『胎仔精巣』でも精子形成ができるのではないか?」と考え、3種のRTIを組み合わせた薬剤と、生体内の環境に近い低酸素(10% O₂)条件を組み合わせてE12.5の胎仔精巣を培養しました。その結果、精巣組織は自律的に発達し、約7週間で機能的な精子細胞が産生されました(図1)。さらに、これらの精子細胞を用いた顕微授精(ROSI)を実施した結果、健康なマウスが誕生し、その子孫も正常に繁殖することを確認しました(図2)。この事実は、胎仔期から体外で培養して得られた精子細胞が、受精から個体発生に至るまでの正常な機能を完全に備えていたことを実証するものです。
 最後に、なぜRTIがこれほどの効果を示したのか、そのメカニズムを解析しました。その結果、培養中の精巣組織では、本来生殖細胞で厳密に抑制されているはずの「レトロトランスポゾン(LINE1など)」がストレスにより異常に活性化することが明らかとなり、RTIがこの暴走を食い止めることで細胞死を防いでいる可能性が強く示唆されました。

今後の展開
 本研究では、胎仔精巣を用いた新規の体外精子形成法を確立することに成功しました。これは、精子形成プロセスの最も初期段階を試験管内で再現できる画期的なモデル系となります。さらに、本研究では「レトロトランスポゾンの活性化」が培養の大きな障壁となっていることを明らかにしました。今後、この活性化の詳細なメカニズムを解明していくことで、より効果的な抑制方法や培養条件が見出され、精子形成効率のさらなる改善や、他の動物種への応用につながる可能性があります。
 この成果は、初期生殖細胞の発達メカニズムの解明に大きく貢献するだけでなく、将来的に不妊症の原因究明や、絶滅危惧種の保全、さらにはヒトの生殖再生医療に向けた基盤となることが期待されます。

研究費
 JSPS科研費(24H02055、23H04956、19H05758、18H05546、22H00485、20K21657、 24K21284、25K02455)、AMED(JP24gn0110086、JP24mk0121304)、JST(JPMJCR21N1)、横浜市立大学学長裁量事業 戦略的研究推進事業(SK202403)の支援を受けて実施されました。

論文情報
タイトル:Reverse transcriptase inhibitors enable the generation of fertile spermatids from fetal mouse testes in vitro
著者:Mayuka Nishida, Yukina Ono-Sunagare, Sayuri Kato, Yu Ishikawa-Yamauchi, Takafumi Matsumura, Mitsuru Komeya, Shogo Matoba, Kimiko Inoue, Narumi Ogonuki, Atsuo Ogura, Takehiko Ogawa, Takuya Sato
掲載雑誌:Communications Biology
DOI:https://doi.org/10.1038/s42003-026-09613-y





用語説明
*1 レトロトランスポゾン(LINE1など): ゲノム上を移動する「動く遺伝子」の一種で、ヒトやマウスのゲノムの大部分を占める反復配列の一つ。通常は生殖細胞で厳密に抑制されているが、活性化するとゲノムの不安定化や細胞死を引き起こす。
*2 逆転写酵素阻害剤(RTI): レトロトランスポゾンやレトロウイルスが、自身のRNAを鋳型にしてDNAを合成する過程(逆転写)を阻害する薬。主にHIV治療薬として用いられるが、本研究ではレトロトランスポゾンの抑制剤として使用した。

参考文献
Kojima, K., Sato, T., Naruse, Y., and Ogawa, T. Spermatogenesis in Explanted Fetal Mouse Testis Tissues. Biol Reprod 95, 63. (2016)

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ホームページ
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代表者
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〒236-0027 神奈川県神奈川県横浜市金沢区瀬戸22-2
連絡先
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