これらの現象は様々な物理現象が相互に関与しているため、キャビテーションや旋回流のメカニズムや特性を詳細に調査し、体系化します。そして無負荷から最大出力までの全範囲において、安全な運転が確保できない範囲や条件を新たな知見を用いて精緻に見極め、これらを最小化するとともに回避する運用を行うことで水力発電の柔軟性向上に貢献します。
(2)中小型水車の標準設計に向けた設計・解析支援技術の開発
水車は落差や流量などの地点特性に応じた発電所固有の設計が必要となります。また、中小型水車の設計においては、1次元解析による基本設計から3次元解析まで用いられますが、技術的・費用的なハードルが高く、これらの課題が新規導入に向けたチェインのボトルネックとなっています。
また今後は柔軟性の高い水車が求められることから、技術的なハードルはさらに高くなります。
そこで本事業では、中小型の水車開発の技術支援として、水車設計の標準化、設計開発に必要なツールの開発、模型試験プラットフォームの構築を行います。
水車設計の標準化では、フランシス・軸流・クロスフロー水車を対象とし、水車形状について、発電の柔軟性を高められるよう、無負荷から最大出力までの幅広い運転範囲において高効率で、かつキャビテーションや不安定現象への対策を講じた上で、水車比速度※10を基準に最適設計します。
設計開発ツールは、本事業を通して開発した、設計・解析のための技術およびソフトウェアを整備します。
模型試験プラットフォームは、標準設計水車の性能を実証するための試験設備として開発し、将来にわたり我が国の水車開発の基盤設備となるよう整備します。
これらの標準設計された水車形状や性能データ、設計開発解析ツールなどの成果物は国内の水車メーカーや発電事業者向けに公開します。これにより水車設計の難易度やコストを大幅に低減させ、中小型水車のチェイン改善に貢献します。

図2 中小型水力発電大量導入のためのチェイン
(3)大型水車の極低負荷運転の拡大に向けた評価手法と最適運用・制御システムの開発
大型水車において、水車の稼働状況が不安定になり、機器の損耗も激しくなることから、従来ある一定以下の極低負荷での運転は行っていませんでした。本開発では、より柔軟性を高めるため、大型水車で一般的なフランシス水車を対象とし、極低負荷での運転時の事象を分析する高度な流体解析シミュレーションや模型試験を行います。さらに、実際の水力発電所における水車の運転状態を計測し、キャビテーションや旋回流などの不安定現象を明らかにします。これらの結果と(1)で体系化する評価指標を用いて、安全で安定的に運転できる出力領域を判断する簡易評価手法を開発します。この上で、この評価手法を活用し、キャビテーションや旋回流により不安定となる出力領域を縮小する水車を開発します。
また、今後太陽光発電や風力発電などの増加により高速・高頻度な出力調整が求められ、機器の損耗が進行することが想定されます。そのため、デジタル技術を活用し、水流が不安定となる出力領域での運転状態を把握・監視した上で、損耗が激しくなる領域を特定します。その上で、蓄電池の充放電による補助的な出力調整と組み合わせ、特に摩耗が激しくなる領域での運転を回避することで極低負荷領域での運転を可能とする運用・制御技術(SPPS)を開発します。さらに、この運用・制御システムを用いた水力発電所における実証試験を行い、柔軟性向上に関わる検証を行います。

図3 大型水車の極低負荷運転の拡大に向けた最適運用・制御システム
(4)中小型水車と大型水車に共通する課題の解決
中小型水車は主に起動停止による台数制御での柔軟性向上を目指しますが、水系全体の運用や電力系統の中での発電所の立地を考えると、起動停止による台数制御だけでは出力調整が困難になる場合も想定されるため、大型水車と同様に、極低負荷運転を可能とする対応が必要である場合も考えられます。
一方、大型水車においても、電力系統からの要求で高頻度の起動停止や高速な負荷調整などの柔軟な出力制御を行うためには、水路や管路などの特性を考慮して過渡応答に対応しなければならない場合もあります。
このように、中小型水車・大型水車それぞれで実施する取り組みが,他方にも効果を及ぼすことが考えられるため、受託機関は協力して中小型、大型水車双方に有効な技術体系を構築し、解決に取り組みます。

図4 課題解決策の分類
※1「2025年度「電源の統合コスト低減に向けた電力システムの柔軟性確保・最適化のための技術開発事業(日本版コネクト&マネージ2.0)/研究開発項目3-2 水力発電の柔軟性向上のための技術開発」に係る公募について」
https://www.nedo.go.jp/koubo/FF2_100440.html
※2 火力発電機などの発電機は、電気を発生させるために回転子を回転させて発電する。この回転速度が電力系統の周波
数と同期している発電機のこと。こうした発電機は、自らの回転子を一定回転に維持しようとする力を持ち、電気
的な瞬時の変化に耐えることができ、電力系統の周波数や電圧安定性の維持などの役割を担っている。
※3 水力発電は、河川の流れやダムを利用して水のエネルギーを水車により機械エネルギーに変換し、さらに発電機により電気エネルギーに変化する発電システムである。その水のエネルギーを得る方式は、運用上、「流れ込み式」、「調整池式・貯水池式」、「揚水式」に分けられる。このうち揚水式を除くものを一般水力発電と言う。
※4 水力発電所で発電に使いきれなかった水が水槽や調整池から流出する状態。放水口や下流河川の水位上昇をもたらす。
※5 フランシス水車:水の圧力と速度をランナ(羽根車)に作用させる構造の水車。広い範囲(10~300メートル程度)の落差で使用できる。
軸流水車:水が羽根車の中を常に回転軸に平行に流れるようにできている水車。落差が小さく流量が多い地点に適している。
クロスフロー水車:フランシス水車と同じで、水の圧力と速度を利用する。クロスフローとは水がランナを交差し流れることを意味している。
※6 入力が変化した際に、出力が新しい定常状態に落ち着くまでの一時的な動きや変動のこと。
※7 水圧が低下した部分では低温でも水が沸騰し発生する水蒸気の微小な気泡。圧力が増加してキャビテーションが消滅する際には局所的・非常に短い時間に高温高圧となり、金属表面を削る現象はキャビテーション壊食と呼ばれる。
※8 水車を通過した水がランナ下流の吸出し管内を回転しながら流れる状態。圧力脈動や振動・騒音、エネルギー損失の増加をもたらす。
※9 水車の中で水圧と速度を利用して回転する羽根車。
※10 単位有効落差で単位出力を発生させるために必要な1分間当たりの回転速度。
以上