在宅医療における生物医学的・社会的な患者複雑性が予定外往診や死亡、在宅死の希望・受容と関連

〜多職種連携に有用な患者複雑性評価が示す重点的支援が必要な患者像〜

 東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 杉山佳史講師と松島雅人教授らの研究グループは、日本医療福祉生活協同組合連合会 家庭医療学開発センター Practice-Based Research Network(渡邉隆将運営委員長)と共同で、在宅医療における生物医学的・社会的な患者複雑性(生物医学的・心理的・社会的な問題が併存し、個々の患者において相互に作用する状態)が、予定外往診や死亡、患者の在宅死の希望や家族の在宅死の受容と関連していることを明らかにしました。
概要:
 生物医学的・心理的・社会的な問題が併存し、個々の患者において相互に作用する状態は、「患者複雑性」として包括的に評価され、効果的なケアや治療を提供するうえで、ますます重要な概念となっています。このような患者複雑性への対応は、在宅医療においても重要な課題です。
 本研究では、医療・介護・福祉の各専門職にとって共通の枠組みとなり得るMinnesota Complexity Assessment Method(MCAM)という患者複雑性評価ツールを用いて患者複雑性を評価し、在宅医療における生物医学的・社会的な患者複雑性が、予定外往診や死亡、患者の在宅死の希望や家族の在宅死の受容と関連していることを明らかにしました。
 これらの結果は、生物医学的および社会的な複雑性が高い患者ほど、在宅医療の現場において、より重点的な支援を必要とする可能性を示唆しています。そのような支援は、予定外往診の減少、死亡関連アウトカムの改善、ならびに生物心理社会的要因による制約を受けることなく、患者および家族が死亡場所を選択できるようになることにつながる可能性があります。

ポイント:
• 2013年2月1日から2016年1月31日までの間に、東京大都市圏に位置する12施設において訪問診療を開始した65歳以上の患者712名を対象とし、2017年1月31日まで追跡しました。
• 医療・介護・福祉の各専門職にとって共通の枠組みとなり得るMCAMという患者複雑性評価ツールを用いて患者複雑性を評価しました。
• MCAMの疾病(Illness)領域のスコア*が1点高い(複雑性が高い)と、予定外往診および死亡が、それぞれ1.20倍および1.21倍起こりやすいことが示されました。
• MCAMの疾病(Illness)領域のスコア*が1点高い(複雑性が高い)と、患者が在宅死を希望し、家族が在宅死を受容する可能性が、それぞれ1.24倍および1.19倍と高くなることが示されました**。
• MCAMの社会(Social)領域のスコア*が1点高い(複雑性が高い)と*、患者が在宅死を希望し、家族が在宅死を受容する可能性が、それぞれ0.81倍および0.84倍と低くなることが示されました**。
* 各領域のスコアは0〜6点
** 在宅死の希望や受容が「あり」の群と「なし」の群を比較した場合

今後の取り組み:
 今後も、日本の訪問診療における多施設前向きコホート研究である Elderly Mortality Patients Observed Within the Existing Residence(EMPOWER)Japan study の二次分析を進め、在宅医療の現場からのエビデンスを発信していく予定です。

掲載:
 本研究の成果は2026年1月6日付でGeriatrics & Gerontology International誌に掲載されました。

Sugiyama Y, Watanabe T, Mutai R, Hoshimoto S, Yasuda M, Kanno T, Yoshida S, Tanaka K, Matsumoto M, Matsushima M. Association of Unplanned Home Visits, Deaths, Preference for Dying at Home, and Home Deaths With Patient Complexity in a Physician-Led Home Visit Setting: A Secondary Analysis of a Multicenter Prospective Cohort Study. Geriatr Gerontol Int. 2026. doi: 10.1111/ggi.70316. Online ahead of print.

研究グループ:
• 東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部(講師 杉山佳史、教授 松島雅人)
• 日本医療福祉生活協同組合連合会 家庭医療学開発センター Practice-Based Research Network(運営委員長 渡邉隆将)

【本研究内容についてのお問い合わせ先】
東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 講師 杉山佳史
電話 03-3433-1111(代)
Email yoshifumi.sugiyama@jikei.ac.jp

【報道機関からのお問い合わせ窓口】
学校法人慈恵大学 経営企画部 広報課 
電話 03-5400-1280
Email koho@jikei.ac.jp


研究の詳細
1.背景
 日本では、急速な高齢化に伴う課題に対応するため、地域包括ケアシステムの構築が推進されています。その結果、訪問診療の重要性がますます注目されています。また、加齢に伴い、生物医学的・心理的・社会的な問題が併存し、個々の患者において相互に作用する状態は、「患者複雑性」として包括的に評価され、効果的なケアや治療を提供するうえで、ますます重要な概念となっています。
 このような患者複雑性への対応は、在宅医療においても重要な課題です。しかし、訪問診療の現場における患者複雑性については、十分に検討されていないのが現状です。さらに、在宅医療では、医師、看護師、介護職、ケアマネジャーなど、多職種による連携のもとで患者ケアが提供されます。そのため、医療・介護・福祉の各専門職にとって理解しやすく、相互のコミュニケーションや連携を促進する共通の枠組みを用いて患者複雑性を評価することが重要です。
 そこで、本研究では、そのような共通の枠組みとなり得るMinnesota Complexity Assessment Method(MCAM)という患者複雑性評価ツールを用いて評価した患者複雑性と予定外往診および死亡との関連を検討しました。また、患者複雑性と患者の在宅死の希望、家族の在宅死の受容、ならびに死亡場所との関連も検討しました。

2.手法
 本研究は、日本の訪問診療における死亡率および死亡場所、ならびにそれらに関連するリスク因子を検討した多施設前向きコホート研究である Elderly Mortality Patients Observed Within the Existing Residence(EMPOWER)Japan study の二次分析です。
 本研究の対象者は、2013年2月1日から2016年1月31日までの間に、東京大都市圏に位置する12施設において訪問診療を開始した65歳以上の患者でした。対象者は2017年1月31日まで追跡されました。アウトカムは、予定外往診、死亡、患者の在宅死の希望、家族の在宅死の受容、ならびに死亡場所としました。MCAMは米国の研究者Peekらによって開発された、患者複雑性を多面的に評価するためのツールです。MCAMは患者複雑性を以下の5つの領域に分類し、評価します:「疾病(Illness)」、「治療・変化への関与の準備(Readiness to engage)」、「社会(Social)」、「医療・介護・福祉システム(Health system)」、「ケアの資源(Resources for care)」。患者複雑性と予定外往診および死亡との関連についてはCox比例ハザードモデルを用いて検討しました。患者複雑性と患者の在宅死の希望、家族の在宅死の受容、ならびに死亡場所との関連については多項ロジスティック回帰モデルを用いて検討しました。

3.成果(図1)
 本研究における解析対象は712名でした。患者複雑性と予定外往診および死亡との関連を検討したCox比例ハザードモデルの結果では、MCAMの疾病(Illness)領域のスコア(0〜6点)が1点高い(複雑性が高い)と、予定外往診および死亡が、それぞれ1.20倍および1.21倍起こりやすくなることが明らかとなりました。
 患者複雑性と患者の在宅死の希望、家族の在宅死の受容、ならびに在宅死との関連を検討した多項ロジスティック回帰モデルの結果では、在宅死の希望や受容が「あり」の群と「なし」の群を比較した場合、MCAMの疾病(Illness)領域のスコア(0〜6点)が1点高い(複雑性が高い)と、患者が在宅死を希望し、家族が在宅死を受容する可能性が、それぞれ1.24倍および1.19倍と高くなることが明らかになりました。また同様に、MCAMの社会(Social)領域のスコア(0〜6点)が1点高い(複雑性が高い)と、患者が在宅死を希望し、家族が在宅死を受容する可能性が、それぞれ0.81倍および0.84倍と低くなることが明らかとなりました。一方、患者複雑性と在宅死との間には関連が認められませんでした。
図1. MCAMを用いて評価した患者複雑性とアウトカムの関連


4.今後の応用、展開
 MCAMを用いて評価した患者複雑性において、疾病(Illness)領域の複雑性が高いと予定外往診および死亡が起こりやすくなること、疾病(Illness)領域の複雑性が高いと患者が在宅死を希望し、家族が在宅死を受容する可能性が高くなること、社会(Social)領域の複雑性が高いと患者が在宅死を希望し、家族が在宅死を受容する可能性が低くなることが示されました。これらの結果は、生物医学的および社会的な複雑性が高い患者ほど、在宅医療の現場において、より重点的な支援を必要とする可能性を示唆しています。そのような支援は、予定外往診の減少、死亡関連アウトカムの改善、ならびに生物心理社会的要因による制約を受けることなく、患者および家族が死亡場所を選択できるようになることにつながる可能性があります。

以上
本件に関するお問合わせ先
学校法人慈恵大学 広報課 
メール:koho@jikei.ac.jp
電話:03-5400-1280

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組織名
学校法人慈恵大学
ホームページ
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代表者
栗原 敏
資本金
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非上場
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〒105-8461 東京都港区西新橋3-25-8
連絡先
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