生涯のCO2排出量を最大40%削減する次世代の超高層ビルのプロトタイプを発表

株式会社日建設計

新築時および運用時のCO2排出を抑え、建物の一生で脱炭素を推進

 株式会社日建設計(本社:東京都千代⽥区、代表取締役社⻑:⼤松敦、以下「日建設計」)は、建物が一生のうちで排出するCO2(以下、ホールライフカーボン)を抑制する様々なアイデアを盛り込んだ、次世代の超高層ビルのプロトタイプを発表します。多様化する働き方や将来のコンバージョンに対応する建築計画、環境性能の高い設備計画により、最大40%削減できます。本プロトタイプに含まれる要素を実社会に展開・実装すべく、クライアントとの共創に取り組んでまいります。
図1.次世代の超高層ビルのプロトタイプの全体イメージ

■脱炭素と多様な働き方に対応する、超高層ビルの新標準を目指す
 2023年は観測史上最も暑い年※1となったほか、「2030年代の初頭までに平均気温が1.5度上昇する※2」と予測されるなど、温室効果ガスの大幅な削減を可能とするグローバルな取り組みが求められています。日本政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」の下、2024年4月から大規模な非住宅建築物の省エネ基準を引き上げるなど法改正を進めています。これまで業界が着目してきた、建物運用時のエネルギー消費によるCO2排出量(以下、オペレーショナルカーボン)だけでなく、新築・改修・解体時に発生するCO2排出量(以下、エンボディドカーボン)を抑えることで、建物の一生で排出されるホールライフカーボンを削減する必要性について世界中で議論されており、既に規制に踏み切っている国もあります。
 また働き方に合わせて場所・環境を自由に選ぶことができ、社員同士のコミュニケーションを促進する新しいワークプレイス、自然を感じるウェルネスオフィス、時代のニーズに合わせた改修工事や用途変更を容易にするフレキシブルな計画が求められています。日建設計は、こうした価値観の変化に対応する空間と脱炭素を両立し、超高層ビルの新標準となるような汎用的なモデルを目指し、プロトタイプを検討しました。

■構造・設備の徹底的な合理化により、建物の一生におけるCO2排出量を最大40%削減
 本プロトタイプでは、これまでの大規模オフィスで一般的とされてきた様々な基準を見直し、新しいオフィスに本当に必要な機能を見極めた上で構造・設備を徹底的に合理化し、CO2排出量を抑制します。具体的には、脱炭素に寄与する以下の要素を取り込むことで、建物の一生で排出されるホールライフカーボンを最大40%削減が可能です。
図2.本プロトタイプのホールライフカーボン
※1 2023年11月 世界気候機関(WMO)「2023年の平均気温は、産業革命前に比べて最も高くなることが確実になった」と発表。
※2 2023年3月 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書に基づく。


計画上の主なポイント(1)構造の合理化 
骨組みの最適化と外周部の木造化
 従来型オフィスは、広い無柱空間を実現するため、ロングスパンやコア部への耐震部材の集中配置で大量の鉄骨材を必要とします。本プロトタイプでは、将来のコンバージョンを見据え、柱と耐震部材を構造上合理的な位置に配し、ビルの骨組みを最適化するとともに、外周部を木造としています。これにより使用する鉄骨量が削減され、新築時のCO2排出量を大幅に削減できます。
図3.木造の外周部イメージ
木に囲まれ、表情豊かで開放感のある窓周りが、自然の光や風を享受できる新しいワークプレイスを創出

■計画上の主なポイント(2)設備の合理化
実現可能な生物模倣技術(バイオミミクリー・デザイン)による環境性能の高い設備計画
 設備計画においては、動脈と静脈が熱交換を行い体温の低下を防ぐ生物の身体組成「ワンダーネット」に着想を得た冷暖熱回収システムや、発汗による体温調節機能に着想を得た空調の高顕熱運転と水噴霧システムなど、生物の仕組みを模したバイオミミクリー・デザイン※3を取り入れることで、徹底した省エネルギー化を図り、BEI値※40.23を達成しました。また、植物の葉の並び(葉序)に着想を得た、全方位のスリット(隙間)と中央のヴォイド(吹抜け) により光と風を全面的に取り入れます。

図4.葉序から着想を得た環境計画
※3 自然の形やプロセス、生態系から学び、模倣するデザイン。
※4 Building Energy Indexの略称。建物の省エネルギー性能を示す指標であり、基準建築物と比較した時の設計建築物の一次エネルギー消費量の比率。BEI値が1.0以下であれば省エネ基準に適合しており、数値が少ないほど省エネ性能が高いことを示す。

■計画上の主なポイント(3)多様化する働き方に対応する建築計画
①複数階を吹抜けでつないでコミュニケーションを促すステップフロア   
 本プロトタイプでは、自然を取り入れるスリットで分節された執務室の上下階を吹抜け・階段で繋いだステップフロアを提案しています。従来型オフィスの巨大なワンフロア空間に比べ、社員同士の距離が近く、より親密なコミュニケーションを促進します。全ての床を木質化(CLT※5)することで、専有部内の階段や吹抜けの設置など、レイアウト変更を容易にするとともに、建物全体の重量を軽減して、鉄骨・コンクリート量の削減による新築時のCO2排出量の抑制につながります。また改修工事に対応しやすくなり、運用時のCO2抑制も可能となります。
図5.ステップフロアのイメージ

②シャトルエレベーターとエスカレーターを組み合わせた輸送システム
 働き方の変化に伴って、オフィスの出勤率は下がる傾向にあります。これまでの超高層ビルでは、オフィスの出勤ピーク時の輸送人数に応じたエレベーター台数を確保していますが、本プロトタイプでは輸送システムを抜本的に見直し、シャトルエレベーターとエスカレーターを組み合わせることで、各階停止のエレベーターをすべて廃止しています。長距離輸送に適したシャトルエレベーターが特定階に停止し、大量輸送に適したエスカレーターがその上下階をつなぐことで、輸送能力を確保しながら電力消費量を大幅に削減します。(5,650kwh/日⇒1,750kwh/日※6
図6.エレベーター計画のイメージ
※5 Cross Laminated Timberの略称。ひき板を並べた後繊維方向が直交するように積層接着した木質系構造材料。
※6 ローカルエレベーター24台に対する、シャトルエレベーター6台とエスカレーター44台の一日あたりの使用電力量比較。


③エレベーター計画の抜本的な見直しにより生まれたヴォイドの活用
 エレベーターの見直しに伴い、各階停止のローカルエレベーターを廃止した中央部にヴォイド(吹抜け)を設け、ビルを貫通する設備の幹線をヴォイド内に設置することにより、オフィスの有効率を向上させるとともに、自然換気の風の通り道として活用します。このヴォイドを利用することで、メンテナンス・設備更新・将来の用途変更工事に対応しやすくなり、運用時のCO2を抑制するとともに、時代のニーズに合わせて建物の価値を維持し、長寿命化に貢献します。
図7.ヴォイドの活用イメージ(用途変更時)

④らせん状に展開するシェアスペースで創出する多様なワークスペース
 本プロトタイプでは、エスカレーターで相互に結ばれ、らせん状に屋上まで続く共用のシェアスペースを提案しています。そこはシャトルEVロビーであり、テラスと一体になった共用のリフレッシュスペースであり、会議室などのオフィスサポート機能、カフェ、本屋などを取り込んだ多様なコワーキングスペースとして、このビルで働くすべてのワーカーが働く場所を選択できる多様なワークプレイスを提供します。
図8.シェアスペースのイメージ
 
今後の展望
 本プロトタイプを構成する各要素は、大規模建築物の新築時のみならず、既存ストックの大半を占める中小規模ビルの改修に応用できるものも多くあります。一方、現行の評価制度の対象外であるものや開発段階の技術を含みます。今後は、このプロトタイプを活用し、制度面の整備を行政に働きかけるとともに、技術開発等に応じてアップデートを続け、個別プロジェクトにおけるクライアントとの共創に取り組んでいく考えです。

日建設計の「気候非常事態宣言※7
 日建設計は、2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、2021年3月に「気候非常事態宣言」を表明しました。2050年を目標に、働き方と都市・建築デザインからカーボンニュートラルを達成するモデルを提起し実現を目指すと同時に、当社のクライアントや社会にも共有し、働きかけを行っていく予定です。
※7 日建設計「気候非常事態宣言」https://www.nikken.co.jp/ja/insights/kiko_hijojitaisenngen.html

■日建設計の全社デザイン戦略「日建デザインゴールズ(NDG)」
 日建設計では、組織拡大とリモートワークの拡大に伴い、2021年1月に初の全社デザイン戦略を策定しました。各ゴールのベストプラクティスから、社会課題を解決する汎用的なデザインを示すべく、プロトタイプの研究に着手しています。本プロトタイプは、「カテゴリー1:地球の環境を徹底的に守るデザイン」に関する具体策の第1号です。

■日建設計について
 日建設計は、建築・土木の設計監理、都市デザインおよびこれらに関連する調査・企画・コンサルティング業務を⾏うプロフェッショナル・サービス・ファームです。1900年の創業以来120年にわたって、社会の要請とクライアントの皆様の様々なご要望にお応えすべく、顕在的・潜在的な社会課題に対して解決を図る「社会環境デザイン」を通じた価値創造に取り組んできました。これまで⽇本、中国、ASEAN、中東で様々なプロジェクトに携わり、近年はインド、欧州にも展開しています。
URL:https://www.nikken.jp/ja/

■次世代の超高層ビルのプロトタイプ イメージ集
URL:https://www.nikken.jp/ja/nikken_prototype.pdf

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