【東芝】世界で初めて無線LANとの共存を実現するマイクロ波遠隔給電システムを開発
株式会社 東芝
世界で初めて無線LANとの共存を実現するマイクロ波遠隔給電システムを開発
~工場や倉庫における産業用IoTセンサのバッテリーレスを実現し、
生産性向上・カーボンニュートラル社会の実現に貢献~
概要
当社は、離れた場所に電力を無線で送ることができるマイクロ波遠隔給電システムにおいて、世界で初めて、周辺の無線LAN(Wi-Fi)通信に干渉することなく、狙った場所に効率よく電力を送る(給電)ことができる干渉回避機能を搭載した「給電技術」(*1)と、受電アンテナの向きにかかわらず高効率に電力を受け取ることができる「受電技術」(*2)を開発しました。
遠隔給電の実用化に向け、無線LANへの干渉を防ぎ、遠隔給電と無線LANを共存させることが不可欠です。これまで共存を実現する技術はありませんでしたが、今般の開発により、給電技術において、周辺の無線LANの信号の有無を検出し給電ビームを制御することで、干渉を防ぐことが可能となりました。受電技術においては、垂直の電波(垂直偏波)と水平の電波(水平偏波)を合成して受け取ることで高効率・安定的な受電を実現し、従来の約2倍の平均電力を受電できることを実証しました。
さらに、今般開発した技術により、工場の製造現場や物流倉庫などにおけるDX化や省人化の取り組みへの貢献が期待できます。こうした取り組みは、無線LANと産業機器用の数多くのIoTセンサの活用により実現します。本技術を用いることで、センサをバッテリーレスで動作させることが可能になり、絶え間なく動く製造現場を効率的に継続してセンシングし、DX化や省人化の進展による生産性向上、そしてカーボンニュートラル社会に向けた取り組みにも貢献します(*3)。
当社は、本技術の詳細を台湾・台北で開催されるマイクロ波関連の国際会議「APMC2023」にて、12月6日および8日に発表します。
なお、本開発の一部は、2018~2022年度にかけて、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「IoE 社会のエネルギーシステム」(管理法人:国立研究開発法人科学技術振興機構)により実施されました。
開発の背景
IoTの普及に伴い、産業機器用センサの導入数は今後ますます増加する見込みです。IoTシステムの導入コストの削減や、センサにつながる電源ケーブルの断線によるライン停止の回避、また生産ラインにおいてセンサの自由な配置や後付けを可能にするため、センサの無線化が求められています。電池を使用した給電は、動作持続時間の制限や、充電・交換のメンテナンスコストの増加といった多くの課題を抱えており、新たな給電方法として、マイクロ波を用いた遠隔給電・充電への期待が高まっています。しかし、周辺で無線LANに代表される他の無線システムが使われている場合、マイクロ波給電の電波が他の無線システムに干渉してしまう課題があります。マイクロ波遠隔給電システムは、日本国内では2022年5月から、空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムとして920MHz、2.4GHz、5.7GHzの3つの周波数帯での利用が認められています。当社が開発を進める5.7GHz帯は、最も大電力な給電が可能な周波数帯として産業分野での活用が期待されていますが、無線LANと周波数が隣接するため干渉による影響が特に課題となっています。国内で製品として販売するためには、無線LANと共存する技術が必要不可欠ですが、これまで無線LANと共存可能な無線給電システムはありませんでした。
また、それぞれ異なる場所に設置されている各センサの受電効率を上げるには、受電アンテナの向きをセンサごとに厳密に調整しなければならず、センサの設置の自由度が低くなってしまうという課題がありました。
本技術の特徴
そこで当社は、周辺の無線信号の有無を検出して給電処理を適切に制御することで他の無線システムへの干渉を回避し、狙った場所に給電ビームを制御する「給電技術」、そして受電アンテナの向きの調整に依存せず高効率に給電された電波から電力を取り出すことができる受電技術を搭載したマイクロ波遠隔給電システムを開発しました(図1)。
「給電技術」は、無線LANが利用する5.5GHzから5.72GHzまでの広い周波数帯域にわたって、周辺の無線信号の有無を高精度に検出することに成功しました(図2)。無線信号を検出した場合には給電する方向を変更することで、無線LANに干渉することなく共存が可能になります。給電機は、無線信号の共存機能を含む信号処理回路、増幅回路、位相制御回路、64素子アンテナを一体化した25cm×40cmの小型筐体を開発しました。給電に必要な機能を一体化したシステムとし、小型化することで天井などに容易に設置することができます。本給電機を用いて、無線LANに干渉せずに給電できることを実証しました。工場、プラントなどで広く使われている無線LANと共存することで、通信・給電の両面でセンサの完全なワイヤレス化を実現でき、生産現場の効率のさらなる向上が期待できます。
また、「受電技術」は、偏波の方向が異なる水平偏波と垂直偏波の2種類の電波を同時に受信することで電力を合成することに成功しました。マイクロ波遠隔給電システムにおいて効率よく給電を行うためには、偏波と呼ばれる電磁界の変動方向を合わせる必要があります。給電機と受電機のアンテナ間で偏波が一致すると、最大電力で受電することができますが、位置関係がずれると受電できないという課題があります。2種類の電波を受信・合成することにより、センサに設置する受電アンテナの向きを気にせず効率的に受電することができます(図3)。当社は、1.5m離れた場所に設置した受電機に対して給電を行い、開発した受電機のアンテナの角度を回転させた際の平均受電電力において、垂直偏波のアンテナもしくは水平偏波のアンテナで受電できる電力の平均値と比べ、約2倍受電できることを実証しました。
今後の展望
当社は、今後は工場、倉庫など実際の現場での実証を進める予定です。実証で得られた技術課題を解決し、法整備の動向も踏まえながら2025年以降の事業化を目指します。
*1 法令上、大電力での遠隔給電が認められている2.4GHz帯や5.7GHz帯で、他の無線システムとの共存機能を備えたマイクロ波遠隔給電システムを開発したことにおいて世界初。2023年12月当社調べ。
*2 受電した異なる偏波成分ごとに制御し、電力を合成することで偏波角度に対する受電効率を向上させる実証に成功したことにおいて世界初。2023年12月当社調べ。
*3 バッテリーレス、もしくは二次電池を搭載したセンサへ遠隔給電し、バッテリーの交換作業を削減することで、DX化や省人化の進展による生産性向上、そしてカーボンニュートラル社会に向けた取り組みにも貢献。
広い周波数帯(5.5GHzから5.72GHz)で検出する実証結果(右)