世界初、ドローンの航法精度を向上するミリ波RFIDタグを開発 ~夜間、霧、雨などの視界不良下でも稼働し続ける空のセンサネットワークの実現へ~

日本電信電話株式会社

 日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、国立大学法人東京大学(本部:東京都文京区、総長:藤井 輝夫、以下「東京大学」)と共同で、周囲環境の情報を伝える標識として機能するミリ波(※1)RFIDタグ(※2)を開発しました。可視光に比べて天候の影響を受けにくいミリ波で読み取れるRFIDタグを用いることで、暗闇や悪天候による視界不良状況下でのドローンの航法精度を向上させます(図1)。本技術を用いて、将来的には海域や被災地等の情報の把握が困難であった未踏領域においても、全日全天候下で空から環境を計測し続けるセンサネットワークを構築し、気象予測や災害対応を高度化することで、しなやかな社会を創出します。

 本成果は、2023年10月2日より開催されるIoT・ユビキタスコンピューティング分野の最難関国際会議の一つであるACM MobiCom 2023のメイントラックにて発表します。
図1:本技術の概要。(a) 正確な航法による船やトラックと協調したドローンの環境計測や物資運搬。(b) ドローンの誘導およびタグ読み取りの方法。(c) RFID読み取り装置であるミリ波レーダを搭載したドローン。(d) コーナリフレクタ構造により広い読み取り範囲を有する、本研究で開発した無電源RFIDタグ。

1.背景
 気候変動による地球温暖化の影響が深刻化する中、災害に強いレジリエントな社会を作ることが急務となっています。その一環として、ドローンを代表とする次世代空モビリティの活用が欠かせません。2022年12月に施行された改正航空法により、ドローンは有人地帯での無人飛行が可能となり、環境計測から物流まで様々な業務に活用されるようになりました。これにより、ドローンの活用は昼夜・天候を問わず求められており、災害時の救援活動や、海域を含む広範囲の地球環境観測を通じた気象予測精度向上などへの貢献が期待されています。
 しかし、現在のドローンの無人飛行はカメラを用いた画像認識技術に大きく依存しているため、夜間や霧、雨天時など画像認識が困難な状況下では、飛行性能が著しく低下するという問題がありました。そのため、このような状況下であってもドローンが周囲の状況を適切に把握し、自動着陸や物資運搬などの飛行を可能とする航法の高精度化が必要です。

2.研究の成果
 ドローンに搭載可能な小型のミリ波レーダを用いて、空中から広範囲で位置と情報を読み取れるバッテリーレスなRFIDタグを開発しました。タグを周囲環境の情報を伝える標識として活用することでドローンの航法を高精度化し、視界不良下での高度な自律飛行が可能になります。これまでにもドローンの航法・飛行誘導に関する様々な手法が提案されてきましたが、本技術は、視界不良下で機能し、電源を設置できない場所でも利用できる点で優れています。これにより、電源の設置が難しい未踏領域においても全天候型のドローンが自律的に活動し、災害対応や気象予測の高度化に貢献します。
 また、従来のミリ波RFID技術が抱えていた、読み取り範囲の狭さや周辺構造物による読み取り性能の低下という問題を解決するため、タグの構造設計と信号処理手法を新たに確立しました。

■開発した機器及び技術詳細
(i): タグの構造設計:空中の広範囲から読み取れるコーナリフレクタ型チップレスRFID
 従来のRFIDでは、平面型のアンテナを使用するため電波反射範囲が狭く、空中から読み取れる範囲が限られていました。そこで我々は、3次元の再帰性反射を有するコーナリフレクタを利用した新たなタグ設計手法を開発しました(図2)。具体的には、コーナリフレクタ構造の形状変化(図2a)やバーコードのような配置によるビットパターンと読み取り可能距離の設計手法(図2b)を確立しました。実験により、10m以上の距離から仰角30度以上および方位角20度以上の範囲で読み取れ、3次元の読み取り可能な角度が従来の7.8倍以上となることを示しました(図3)。
 
図2:開発したRFIDタグの概要。(a) 3次元に強く反射するように、タグを構成する散乱体として、形状を改良したコーナリフレクタを採用した。(b) 格納するビットと読み取り距離を設計するためのコーナリフレクタの配置手法の概要。
図3:実験により検証した読み取り可能な範囲。(a) 評価した座標系。(b) 読み取り距離10mのときにタグとの角度を変化させたときの信号強度。従来手法(平面アンテナアレーVan-Atta Array(※3))との比較を示す。(c) 異なる位置における信号強度と読み取り率の変化。タグから10mの距離においても、仰角30度以上、方位角20度以上の範囲で読み取り成功率90%以上を達成している。

(ii): 信号処理:ノイズの多い環境下でも高精度にタグを読み取るための固有値解析とクラスタリング
 ミリ波レーダ信号処理における、従来のFFT(※4)を使用した位置推定では、空間解像度が固定されているため、ビットパターンの読み取り成功率が低くなるという課題がありました。そこで、固有値解析を用いた空間解像度を固定しない空間-反射強度推定手法を導入し、読み取り成功率を向上させました。また、得られた空間-反射強度情報を含む点群をクラスタリングすることで、ノイズの多い環境下でもタグの位置を自動検出できる信号処理手法を開発しました。実験の結果、壁や車、階段などの障害物が周囲にある状況でも高精度にタグを検知して読み取ることができることを確認しました(図4)。
図4:障害物による不要反射が多い環境下におけるタグ検出手法の検証結果。車や壁、階段の近くにタグを置き、測定を行った。開発したタグはリフレクタの配置および強度に特徴的なパターンを有しているため、障害物が多くても検知できることを示している。

3.各機関の役割
  • NTT:ミリ波レーダの信号処理手法の開発。固有値解析を用いた空間位置推定や点群クラスタリングによるタグの自動検知手法を確立。
  • 東京大学:RFIDタグの開発。コーナリフレクタの形状や配置方法の設計手法を確立。
4.今後の展開
 本成果であるミリ波RFIDタグの誘導技術を用いて、暗闇や悪天候といった過酷な環境下におけるドローンの自律的な運用を可能とし、災害対応や海洋観測の高度化の実現を推進します。また、物流や医療などの幅広い分野でのパートナーとの連携をめざします。
 最終的には、ドローンのみならず多様なIoTセンサで構成される革新的な空のセンサネットワークによる未踏領域の情報把握に向けて、ハードウェアからソフトウェアまで最適化されたシステムを実装し、4Dデジタル基盤を強化することで超レジリエント社会の実現に貢献していきます。

研究紹介動画
URL: https://youtu.be/7SezvxK_vrY

発表者
NTT宇宙環境エネルギー研究所
飯塚達哉 (研究員)
小阪尚子 (主任研究員)
中村亨   ※(本論文投稿時主幹研究員。現在NTTアドバンステクノロジ株式会社所属)
久田正樹 (主幹研究員)

東京大学大学院工学系研究科
笹谷拓也 (助教)
川原圭博 (教授)

【論文情報】
【雑誌】 The 29th Annual International Conference On Mobile Computing And Networking (MobiCom 2023).
【題名】 MilliSign: mmWave-Based Passive Signs for Guiding UAVs in Poor Visibility Conditions.
【著者】Tatsuya Iizuka, Takuya Sasatani, Toru Nakamura, Naoko Kosaka, Masaki Hisada, and Yoshihiro Kawahara.
【DOI】 10.1145/3570361.3613264

<用語解説>
※1 ミリ波
周波数が30GHz - 300Gの電波を指す。指向性や透過性が高く、車に搭載される車間距離センサとしても使用されている。

※2 RFIDタグ
Radio Frequency Identificationのことを指し、タグに埋め込まれた情報を電波により読み取ることができるシステムの総称である。

※3 Van-Atta Array
平面アンテナアレーにおいて、広い範囲への反射を実現するアンテナ配置方法。

※4 FFT
高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)のことを指し、時系列の信号の周波数解析を高速に行う手法としてよく利用されている。
 

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