弘前大学の研究グループがニホンザリガニの本州集団の生息環境を調査 -- 今後急速に分布を縮小させるおそれがあると推定

弘前大学

弘前大学(青森県弘前市)農学生命科学部生物学科の日野沢翼さん(研究当時学部4年)と木浪咲紀さん(研究当時学部4年)、曽我部篤准教授、東信行教授、池田紘士准教授(現東京大学大学院農学生命科学研究科)、元教育学部の大高明史名誉教授らの研究グループは、ニホンザリガニの本州集団の生息環境を調べ、山地の落葉広葉樹林内の河川に分布が制限されていることを明らかにした。また、今後の気候変動に伴って大きく分布を縮小するおそれがあることを推定した。この研究成果は日本時間2023年5月12日に、国際誌『Aquatic Conservation: Marine and Freshwater Ecosystems』に掲載された。 【研究の背景】  河川は陸地や海のような環境と比べて不連続に分布するため、そこに生息する生物の移動は比較的制限されやすく、地域ごとに集団が分断されやすいと考えられる。そのため、河川に生息する生物には絶滅に瀕した種も比較的多いことが知られている。河川には昆虫や甲殻類などの多くの無脊椎動物が生息しているが、無脊椎動物に関する研究は十分には行われておらず、どのような生態的特徴をもつ種が絶滅しやすいのかについては不明な点も多い。  日本の河川に生息する代表的な大型の無脊椎動物として、ニホンザリガニ(図1a)があげられる。ニホンザリガニは日本に生息するザリガニの中で唯一の在来種であり、主に北海道と青森県に自然分布している。  ニホンザリガニは環境省のレッドリストで絶滅危惧II類に指定されており、現在も分布を縮小しつつあることが指摘されている。本研究ではニホンザリガニの分布に影響する生態的特徴を明らかにするため、似たような環境に生息するにもかかわらずより広い範囲に分布する甲殻類であるサワガニ(図1b)と、生息環境などの特徴について比較した。 【研究の内容】  本研究においては、ニホンザリガニへの影響を抑えて分布調査を行うため、河川の水中に浮遊するDNAを調べることで生息の有無を調べる環境DNA手法(図2)を用いて分布調査を行い、どのような環境に生息しているかを調べた。その結果、ニホンザリガニはブナなどが優占する落葉広葉樹林内の河川に生息する傾向があり、逆にスギ人工林には生息しないことが明らかになった。  それに比べてサワガニは、比較的川幅の広い河川に生息することがわかった。落葉広葉樹林は比較的標高の高い山地に分布することから、このような環境に生息することでニホンザリガニの分布が制限されており、絶滅リスクが高いことの大きな要因になっていると考えられる。  また、地点間でどれぐらい遺伝的に分かれているかを調べたところ、サワガニと比べてニホンザリガニは、河川ごとに遺伝的に大きく分かれていることが明らかになった。このことは、サワガニと比べてニホンザリガニは移動能力が非常に低く、地点ごとの遺伝的な固有性が高いことを示している。  最後に、生息に適した環境を有する地域(分布可能な地域)が現在および将来(2050年)どの程度存在するかを推定した。その結果、現在の分布可能な地域はニホンザリガニとサワガニの間であまり違いはなかったが、将来の分布可能地域を比較すると、サワガニは比較的広い範囲に生息に適した環境が存在するのに対し、ニホンザリガニは大きく分布を縮小させるという推定結果が得られた。そのため、ニホンザリガニの方がサワガニよりも今後の気候変動の影響を受けやすいと考えられる。 【本研究の意義と今後の展開】  本研究により、ニホンザリガニの本州集団は山地の落葉広葉樹林内の河川に生息しており、今後急速に分布を縮小させるおそれがあることが明らかにされた。また、移動能力が非常に低いことから、一度その地域からいなくなってしまうと、近くの地域から新たに入ってくることは非常に難しい。地域ごとの固有性の高い集団が今後さらに消失するのを防ぐためには、山地の落葉広葉樹林の環境を守っていく必要があると考えられる。 ▼本件に関する問い合わせ先  弘前大学農学生命科学部  曽我部 篤 准教授、東 信行 教授  住所: 青森県弘前市文京町3番地  TEL: 0172-39-3950、0172-39-3824  E-mail: atsushi.sogabe@hirosaki-u.ac.jp / azuma@hirosaki-u.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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