JICAが海外投融資の新たなファシリティを設置
「信頼で世界をつなぐ」をビジョンに掲げ、日本の政府開発援助(ODA)実施機関として開発途上国への国際協力を行っている独立行政法人国際協力機構(理事長:田中明彦、本部所在地:東京都千代田区、以下:JICA)は、5月22日、海外投融資の取り組みの一環として「気候変動対策」「食料安全保障」「金融包摂」に関する計40億ドルのファシリティ(融資枠)を新たに創設しました。
これらのファシリティは、5月20日に岸田総理大臣がG7グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII:Partnership for Global Infrastructure and Investment)に関するサイドイベントにおいて、官民のインフラ投資を通じてパートナー国の持続可能な開発に貢献することを表明したことを踏まえ、日本の貢献の取り組みの一つとして創設したものです。
具体的には、国際開発金融機関、二国間開発金融機関、G7の民間銀行などのパートナー金融機関と連携し、民間企業への直接融資や金融機関を通じて当該分野への民間資金動員を促進することで、開発途上国の地球規模課題の解決に貢献します。
JICAはこれらのファシリティを活用し、JICAのミッションである人間の安全保障と質の高い成長の実現に努めていきます。
<今回新たに立ち上げたファシリティ(融資枠の額)>
①「気候変動対策推進ファシリティ(Facility for Accelerating Climate Change rEsilient and Sustainable Society :ACCESS)」(15億ドル)
②「食料安全保障対応ファシリティ(「Facility for Supporting Agricultural supply chain and Food security Enhancement :SAFE)」(10億ドル)
③「金融包摂促進ファシリティ(「Facility for Accelerating Financial Inclusion :FAFI」)」(15億ドル)
各ファシリティの概要は以下のとおりです。
1.気候変動対策推進ファシリティ(ACCESS)
【背景】
2015年、国際社会は気温上昇を産業革命前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃までに抑える努力をすべきとした「パリ協定」を採択しました。また、2021年11月のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、この「1.5℃目標」を追求することが確認されています。
一方で、先進諸国による二国間公的資金支援は開発途上国側が求める規模に達しておらず、また、再生可能エネルギー分野等を中心に民間セクターによる事業化が世界の主流となっている中、上記目標達成には気候変動対策分野での民間投資の一層の動員促進が重要です。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によれば、2013年~2018年の再生可能エネルギーへの投資の86%が民間セクターによりファイナンスされているとされており、また1.5℃目標の達成に必要なファイナンスの多くは引き続き民間セクターが担うことが想定されています。
【概要】
以下の事業を対象に、融資枠の範囲内で迅速な融資の実施を目指します。
①気候変動の緩和(再エネ・植林・EV事業等)や適応(農業・上下水道等)に資するインフラ事業
②金融機関への融資を通じた中小規模の気候変動対策事業
③気候変動対策を推進する民間企業による気候変動対策事業
ファシリティ(融資枠)総額:15億米ドル上限
融資条件:通常の海外投融資の融資条件を適用
協調融資:国際開発金融機関、二国間開発金融機関又は実績豊富なG7先進国の民間銀行との協調融資を前提
実施期間:ファシリティ創設から5年間
本ファシリティはSDGs(持続可能な開発目標)ゴール13「気候変動に具体的な対策を」の他、気候変動の緩和や適応に対する具体的な取り組みを通じて、SDGsのその他多数のゴールの達成にも貢献します。また、民間セクターを通じた気候変動対策事業を推進する本ファシリティは、JICAグローバルアジェンダNo.16「気候変動」に基づく取り組みであり、「JICAサステナビリティレポート」で掲げる毎年1兆円程度の気候変動対策支援とGHG排出削減量の倍増にも貢献するものです。
2.食料安全保障対応ファシリティ(SAFE)
【背景】
ウクライナ侵攻以降、国際食料価格(特に小麦、メイズ等穀物)が高騰し、日本での生活にも影響を与えています。加えて、気候変動による各国の収穫不順も懸念される中、各国の食料備蓄・輸出抑制により今後も価格の高騰が続くことが懸念されます。また、肥料価格は主原料の天然ガスの値上がりなどにより2020年比で約3倍と高止まりが続いており、食料価格をさらに押し上げる要因になると想定されます。
こうした状況を踏まえ、国際社会は、食料品及び肥料の世界的な価格高騰及び不足を含む食料安全保障上の問題に協調して対応することを確認し、またG7では、強靭で持続可能な農業及び食料システムの構築に向け、民間セクターを取り込む重要性がうたわれています。
【概要】
以下の事業を対象に、融資枠の範囲内で迅速な融資の実施を目指します。
①食料システム強化/農業関連の気候変動対策(適応)
②金融機関への融資を通じた農業分野支援
③農業卸売商社への融資を通じた小規模農家支援
④脆弱国などにおける食料や肥料等の輸出入に対する緊急支援
ファシリティ(融資枠)総額:10億米ドル上限
融資条件:通常の海外投融資の融資条件を適用
協調融資:国際開発金融機関、二国間開発金融機関又は実績豊富なG7先進国の民間銀行との協調融資を前提
実施期間:ファシリティ創設から5年間
本ファシリティはSDGs(持続可能な開発目標)ゴール1「貧困をなくそう」、ゴール2「飢餓をゼロに」、ゴール3「すべての人に健康と福祉を」に加え、農業分野での気候変動の適応への支援を通じて、ゴール13「気候変動に具体的な対策を」にも貢献します。
民間企業を通じて食料システムを強化し、また小規模農家等の脆弱層の所得や農業生産性の向上等にも貢献する本ファシリティは、JICAグローバルアジェンダNo.5「農業・農村開発(持続可能な食料システム)」に基づく取り組みです。特に「JICAアフリカ食料安全保障イニシアティブ」で掲げる、他ドナーや民間企業等のパートナーとの協働を通じた、複合的脅威下にあるアフリカの食料・農業セクターの強靭性強化にも貢献します。
3.金融包摂促進ファシリティ(FAFI)
【背景】
JICAは2020年3月にASEAN地域等の金融アクセスを改善し、女性・低所得者・中小零細企業等のエンパワーメントを目的とした「アジア諸国向け金融包摂促進ファシリティ(Facility for Accelerating Financial Inclusion in Asia: FAIA)」を創設しました。同ファシリティが5億米ドルの融資枠を達成したことを踏まえ、今般、対象をアジア諸国以外の開発途上国にも広げ、改めて新規の融資枠を設置したものです。
開発途上国での中小零細企業(以下「MSME」(Micro, Small and Medium Enterprises))が必要とする資金と供給のギャップは4.5兆米ドルにのぼるとされ、長期資金ニーズは引き続き膨大です。加えて昨今の複合危機の中、影響を受けやすいMSMEへの支援の必要性は益々高まっています。さらに、ジェンダーに対しては、「2X Challenge: Financing for Women」について2021年に更なる取り組みの拡大が合意されるなど、女性の経済的エンパワーメントへの支援が引き続き重要視されています。
【概要】
MSME、②低所得者層、③女性 のいずれかの正規金融へのアクセス改善に寄与する事業を行う開発途上国の地場金融機関を対象に融資を行います。
ファシリティ(融資枠)総額:15億米ドル上限
融資条件:通常の海外投融資の融資条件を適用
協調融資:国際開発金融機関、二国間開発金融機関又は実績豊富なG7先進国の民間銀行との協調融資を前提
実施期間:2022年~2024年
本取組はSDGs(持続可能な開発目標)ゴール1「貧困をなくそう」、ゴール8「働きがいも経済成長も」に加え、ゴール5に掲げられている「ジェンダー平等の実現」にも資する、女性の活躍推進のための取組です。また、JICAグローバルアジェンダNo.4「民間セクター開発」及びNo.14「ジェンダー平等と女性のエンパワーメント」に基づく取り組みです。
関連リンク
・G7広島サミットにおけるグローバル・インフラ投資パートナーシップに関するサイドイベント
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/dapc/page4_005905.html
・JICAグローバルアジェンダNo.16「気候変動」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/climate/index.html
・サステナビリティレポート2022
https://www.jica.go.jp/information/info/2022/20221108_10i.html
・JICAグローバルアジェンダNo.5「農業・農村開発(持続可能な食料システム)」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/agricul/index.html
・JICAアフリカ食料安全保障イニシアティブ
https://digitalpr.jp/r_detail.php?release_id=65049
・「アジア諸国向け金融包摂促進ファシリティ(Facility for Accelerating Financial Inclusion in Asia:FAIA)」:
https://www.jica.go.jp/press/2019/20200327_10.html
・2X Challenge(2Xチャレンジ:女性のためのファイナンス)イニシアティブの拡大プラットフォーム2X Collaborativeへの加盟:
https://www.jica.go.jp/investor/20220324.html
・JICAグローバルアジェンダNo.4「民間セクター開発」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/private_sec/index.html
・JICAグローバルアジェンダNo.14「ジェンダー平等と女性のエンパワーメント」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/gender/index.html
■独立行政法人国際協力機構(JICA)について
JICAは、開発途上国が直面する課題を解決するため、技術協力、有償資金協力、無償資金協力など日本の政府開発援助(ODA)を一元的に担う二国間援助の実施機関で、150以上の国と地域で事業を展開しています。
国際社会の課題は日本とも密接に関係しています。国内外のパートナーと協力してそれらの解決に取り組み、世界の平和と繁栄、日本社会の更なる発展に貢献します。
詳しくはhttps://www.jica.go.jp/index.html をご覧ください。