『役員報酬サーベイ(2022年度版)』の結果を発表~役員報酬・役員指名・コーポレートガバナンスに関する日本最大規模の調査
社長報酬総額は売上高1兆円以上企業の中央値で前年比+13.8%となり、初の1億円越え。社外取締役割合1/3以上は77.3%、女性あるいは外国籍の取締役登用は61.6%。
デロイト トーマツ グループ(東京都千代田区、CEO:木村 研一)は、日本企業における役員報酬の水準、株式報酬制度等の導入状況、役員指名、コーポレートガバナンス領域も含めた中長期的な企業価値向上に資するトピックを包括的に調査した『役員報酬サーベイ(2022年度版)』の結果をお知らせします。本サーベイは2002年の開始以来20年以上にわたり実施しており、日本で最大規模のサーベイとなっています。今年度もデロイト トーマツ コンサルティング合同会社と三井住友信託銀行株式会社が共同で2022年6月~7月にかけて調査を実施し、プライム上場企業を中心に過去最高の1,123社から回答を得ています。
【調査結果のサマリーとポイント】
■社長・CEO報酬水準は昨年対比で増加。報酬構成比率もインセンティブ報酬割合が増加。
売上高1兆円以上の企業における社長・CEOの報酬総額水準は、中央値で11,224万円(前年比+13.8%)。
近年、社長・CEOのインセンティブ報酬割合が増加しており、特に今期はインセンティブ関連指標のROEの上昇にもみられるよう、企業の好業績、堅調な株価の推移などが報酬水準上昇の一因となった。
■株式関連報酬の導入が今後の導入予定も合わせて87.6%。特に多いのは譲渡制限付株式の導入
株式関連報酬を既に導入している企業は75.5%(前年比+1.5ポイント)。今後導入予定がある企業12.1%と合わせると87.6%(前年比+2.4ポイント)。現時点で導入済み、または今後導入予定の制度はいずれも「譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)」が最も多い。
■任意の報酬委員会、指名委員会の設置率は双方7割超。開催回数では指名委員会等設置会社と乖離
任意の報酬委員会を設置している会社は全体の77.7%(前年比+10.2ポイント)、任意の指名委員会を設置している会社も全体の71.8%(前年比+11.7ポイント)となりいずれも10ポイント以上の伸びで、設置率が7割超となった。また、指名委員会等設置会社では、いずれの委員会も年4回以上開催する企業が7割を超えている一方、任意の報酬委員会、指名委員会設置企業では、約4割前後にとどまっており、開催回数に乖離がある。
■社外取締役、全取締役の1/3以上確保している企業は77.3%。報酬水準は中央値で840万円
全取締役に占める社外取締役の人数割合を1/3以上確保している企業は77.3%であった。一人の社外取締役の兼務社数3社以上(自社以外)は全体の22%で、社外取締役人材の獲得と共に「質」の確保が課題である。プライム上場企業における社外取締役の報酬総額水準は、中央値で840万円となり、東証一部時代を含めれば5年連続で上昇傾向にある。
■取締役の多様性、女性あるいは外国籍の取締役登用は61.6%
取締役として女性取締役あるいは外国籍取締役を登用している企業は61.6%と前年より9.5ポイント増加、女性取締役のみ一人以上存在する企業は54.3%と前年より10.0ポイント増加した。
■ESG指標を役員報酬決定に活用している企業は7.4%
ESG指標を役員報酬決定に活用している企業は7.4%(前年比+1.0ポイント)であった。
『役員報酬サーベイ(2022年度版)』の調査結果
■CEO・社長報酬総額の推移
売上高1兆円以上企業におけるCEO・社長の報酬総額(中央値)は、11,224万円であった。前年の9,860万円と比較し+14%となり、大きく増加した。この要因として、短期/長期インセンティブ制度がある企業において、CEO・社長のインセンティブ報酬割合が近年増加(2020年27%、2021年30%、2022年33%)していることが挙げられる。該当企業群ではROEが上昇しており、インセンティブ報酬に反映されている。【図1】【図2】
■インセンティブ報酬
短期インセンティブ報酬を導入している企業の割合は74.0%(831社*1)と前年の72.9%から1.1ポイント増加した。採用されている短期インセンティブ報酬の種類を見ると、昨年に引き続き「損金不算入型の賞与」を導入している企業が最も多く、導入企業の50.5%(420社)を占めている。「損金不算入型の賞与」を採用する背景には設計の自由度が高いことに加え、他の損金算入スキームでは要件が厳しく、採用しづらいことが考えられる。
株式関連報酬(長期インセンティブ報酬)を導入している企業の割合は75.5%(848社*2)で今後導入予定の企業も合わせると87.6%(984社)となり、定着が見られる。採用されている株式関連報酬の種類は「譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)」が最も多く、31.3%(352社)となった。また、現在株式関連報酬を導入していない会社、および現在既に何らかの株式関連報酬を導入している会社のいずれも、今後導入を予定している報酬の種類は、「譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)」が最も多く、引き続き譲渡制限付株式の導入が進むと見込まれる。
*1:「短期インセンティブの有無」において「短期インセンティブあり(導入している)」を選択した企業
*2:「長期インセンティブの有無」において「長期インセンティブあり(導入している)」を選択した企業のうち、通常ストックオプション、株式報酬型ストックオプション、有償ストックオプション、譲渡制限付株式/ユニット(リストリクテッド・ストック/ユニット)、パフォーマンス・シェア/ユニット、信託の設定による株式付与、役員持株会、現金(SARs・ファントムストック 等)いずれかの株式関連報酬を導入している企業
■マルス条項・クローバック条項の導入状況
2015年のコーポレートガバナンス・コードの適用開始以降、役員報酬制度の整備・進展に伴い、不正防止や過度なリスクテイクの抑制を目的としてマルス条項・クローバック条項の導入・検討が進んでいる。マルス条項導入済企業は29.7%と前年の20.3%から9.4ポイント増加し、現在検討中・今後検討予定の企業も6.9%存在する。クローバック条項を導入済の企業は10.7%と前年の8.7%から2.0ポイント増加し、現在検討中・今後検討予定の企業が9.0%となっている。米国・英国では業績連動報酬に対するマルス条項・クローバック条項の適用は一般的なプラクティスとなっており、日本においても、今後報酬水準・インセンティブ報酬比率の上昇に伴って機関投資家等から導入を求められる可能性がある。
■ガバナンス体制
指名委員会等設置会社を除く上場企業のうち、任意の報酬委員会を設置している企業の割合は77.7%(784社)と前年より10.2ポイント増加し、任意の指名委員会を設置している企業の割合は71.8%(724社)と前年より11.7ポイント増加した。このうち、544社は任意の指名・報酬委員会であり、指名・報酬に関する機能を両方持っている。2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂に伴い、任意の報酬委員会、指名委員会の設置要請が大きく影響していると考えられ、委員会設置は今後も進んでいくと考えられる。
任意の報酬委員会、指名委員会の設置率は上昇したものの、年間の開催回数に関しては、指名委員会等設置会社との乖離が顕著にみられる。指名委員会等設置会社では、いずれの委員会も年4回以上開催する企業が7割を超えている一方、任意の委員会設置企業では、約4割前後(報酬委員会で35.1%、指名委員会で40.1%)にとどまっている。任意の指名・報酬委員会では年4回以上開催する企業が55.9%となっているが、これは指名・報酬両方のアジェンダを持つことを考えると決して多くないと言える。【図3-1、3-2】
また、任意の報酬委員会、指名委員会(任意の指名・報酬委員会を含む)は、2019年以降に設置した企業がそれぞれ52.8%、52.6%と半数以上を占め、コーポレートガバナンス・コード改訂に伴って近年設置した企業においては、委員会の運営が十分に確立していない可能性がある。
■報酬委員会、指名委員会の実効性強化
社外取締役が委員長を務めている企業は、任意の報酬委員会*3で62.1%と前年より5.1ポイント増加し、任意の指名委員会*3で60.9%と前年より5.7ポイント増加し、6割を超えてきている。2022年に再改訂されたCGSガイドラインでは、社外取締役の主体的な関与を引き出し、独立性・客観性と説明責任の強化の観点から、「委員長は社外取締役とすることを検討すべきである」と明記され、今後も引き続き、社外取締役の委員長任用が増加すると見込まれる。また、社外取締役による報酬委員会、指名委員会への委員および委員長への就任に伴って、追加的な報酬を支給する企業が増えてきている。指名委員会等設置会社で報酬委員会の委員長に対する加算報酬が「あり」の企業は47.4%、指名委員会の委員長に対する加算報酬が「あり」の企業は44.4%と半数近い。一方、任意の報酬委員会、指名委員会設置会社*3ではそれぞれ15.6%、14.3%という結果となった。委員会の回数と同様、必置と任意で乖離がある状況となっている。
*3: 任意の報酬委員会、指名委員会のスコアには、指名・報酬委員会の結果を含む
■社内経営層の後継者計画
上場企業において、後継者人材プールの設定をしている企業は、「次期CEO・社長」で26.1%(269社)、「次期取締役・執行役・執行役員」で26.3%(271社)、「次期部長クラス」で29.3%(302社)と3割に満たない。キーポジションの特定をしている企業もわずか6.1%(63社)である。中核人材の多様性確保に向けた取り組みを「実施している」と回答した企業は、33.7%(379社)であり、うち、「取り組みが十分に機能している」と回答した企業はわずか39社にとどまっている。社内経営層の後継者計画整備については、2018年以降横ばいであり、中核人材の多様性確保も含め、今後一層推進していくべき課題の一つであるといえる。
■社外取締役の質・量の確保
上場企業において、全取締役に占める社外取締役の人数割合を1/3以上確保している企業は77.3%と前年より13ポイント増加した。プライム上場企業における社外取締役の報酬総額水準は、中央値で840万円となっており、東証一部時代を含めて5年連続で上昇傾向にある。また、自社以外に3社以上兼務していると回答した社外取締役は、22.1%(455人)であり、コーポレートガバナンス・コードの要請に基づいた社外取締役への役割期待の高まり及び獲得の激化傾向は、継続している。一方、上場企業において、社外取締役の人材プールを確保していると回答した企業は、わずか3.0%(31社)となっており、社外取締役人材の確保・育成は喫緊の課題であるといえる。
■取締役の多様性、女性取締役・外国籍取締役の登用
取締役として女性取締役あるいは外国籍取締役を登用している企業は61.6%と前年より9.5ポイント増加、女性取締役のみ一人以上存在する企業は54.3%と前年より10.0ポイント増加、外国籍取締役のみ一人以上存在する企業は2.0%と前年より1.1ポイント減少、女性取締役と外国籍取締役の両方が存在している企業は5.3%と前年より0.7ポイント増加した。多様性のある取締役人材の確保といった趣旨においては、現状増加傾向にあるものの、更なる増員検討の余地がある。
■ESG指標の役員報酬反映、人的資本開示状況
役員評価を実施している企業のうち、ESG指標を役員報酬決定に活用している企業は7.4%(59社)で、前年の6.4%からは1.0ポイント増加した。反映されているESG指標のうち、多いものは「CO2排出量」27社、「従業員エンゲージメント」20社、「女性管理職比率」19社という結果となった。いまだ低い水準にはあるものの、徐々にESG指標を評価に取り込む企業が増えつつある。
本サーベイにおける上場企業における人的資本開示の状況は、多いものから順に「雇用形態の状況」51.6%(532社)、「ダイバーシティの状況」35.3%(364社)、「採用の状況」25.6%(264社)との回答となった。一方、「ジェンダーペイギャップの状況」や「役員と従業員の報酬比」等、開示率がわずか1%である項目もある。金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(2022年6月)において、人的資本や多様性に関する方針(「人材育成方針」等)を有価証券報告書の開示項目とすることが示され、今後は各企業における企業価値向上のための人的資本KPIの選定や集計・開示に関する取り組みが、ますます促進すると想定される。
【調査概要】
調査期間 :2022年6月~ 7月
調査目的 :日本企業における役員報酬の水準、役員報酬制度やガバナンス体制、コーポレートガバナンス・コードへの対応状況等の現状に関する調査・分析
参加企業数:1,123社(集計対象役員総数 20,950名)
上場企業1,032社(うちプライム673社)、非上場企業91社
参加企業属性:
製造業476社(うち電気機器・精密機器107社、医薬品・化学99社、機械80社等)、非製造業647社(うち情報・通信145社、サービス130社、卸売96社 等)
役員報酬サーベイは、2023年度も継続して実施する予定です。
詳細が確定しましたら、別途当社Webページにてご案内します。
なお、調査協力企業にはサーベイ結果報告書(今年度は265ページ)を提供する予定です。
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役員報酬サーベイチーム
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