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白鴎大学教育学部(栃木県小山市)の山野井貴浩准教授らの研究チームは、2017年に日本遺伝学会が「優性」「劣性」の語を「顕性」「潜性」に改めると提案したことを機に、どのくらいの中学生が授業を通して誤った概念を有しているのかについて調査を進めてきた。同准教授らによる先行研究から、遺伝学習後の中学生は「優性劣性は生存の有利/不利に関連する」や「集団内の頻度が高いほうが優性である」という誤概念を有していることが示唆されていたものの、150名程度の調査に基づく結果であり、誤概念を有しているかを明らかにするには大規模な調査を行う必要があった。そこで今回、栃木県の公立中学校の生徒約1000人を対象に調査を行った。
■本研究の結果の概要
本研究は「優性劣性は生存の有利/不利に関連する」や「集団内の頻度が高いほうが優性である」という誤概念の形成状況を明らかにする質問紙を開発し、中学校理科の遺伝学習を終えた生徒約1000名を対象に調査を行った。その結果、以下の3点が示唆された。
・約1000人という規模の調査から、約90%の中学生には「優性劣性は生存の有利/不利に関連する」や「集団内の頻度が高いほうが優性である」という誤概念がある程度形成されていることを推察
・「優性劣性は生存の有利/不利に関連する」という誤概念の認識より「集団内の頻度が高いほうが優性である」の誤概念の認識の方が強い可能性を示唆
・日本遺伝学会は優性を顕性、劣性を潜性に変更することを提案しているが、用語変更によって「優性劣性は生存の有利/不利に関連する」という誤概念をもつ生徒は減少する可能性がある一方、「集団内の頻度が高いほうが優性である」という誤概念を持つ生徒は増加してしまう可能性があることを指摘
■今後の課題
本研究の結果から、遺伝学習後の中学生の多くにおいて誤概念が形成されていることが推察されたものの、どのような過程を経て、これらの誤概念が形成されたのかは不明であり、今後の研究課題である。また、用語変更が誤概念の形成に与える影響(特に、優性を顕性に変更することは「集団内の頻度が高いほうが優性である」という誤概念の形成を促進するか)についても明らかにする必要がある。
■掲載誌
山野井貴浩・井澤優佳・金井正(2020)
・中学生は優性劣性について誤った認識をしているのか ―遺伝学習後の生徒約1000人対象の質問紙調査の結果から―
科学教育研究(日本科学教育学会誌)44巻3号:188 - 197, 2020年10月
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssej/44/3/44_188/_article/-char/ja
■研究者プロフィール
山野井 貴浩 (ヤマノイ・タカヒロ)
白鴎大学教育学部准教授
・学位:博士(学際情報学)
・専門分野:理科教育
・受賞:
2010年1月 日本生物教育学会 奨励賞
2012年6月 日本進化学会 教育啓蒙賞 など
・著書:『歴史を変えた100の大発見 生物 生命の謎に迫る旅』(2019 監訳・原著編:トム ジャクソン、丸善出版)、『改訂生物』(2018 共著、東京書籍)、『改訂生物基礎』(2017 共著、東京書籍)など
(関連記事)
・白鴎大学教育学部の山野井研究室が中学校理科の遺伝分野で扱われる「優性」「劣性」の認識調査を実施 -- 誤概念の修正を意図した授業を考案(2018.08.29)
https://www.u-presscenter.jp/article/post-39964.html
▼研究に関する問い合わせ先
白鴎大学教育学部・山野井研究室
TEL:0285-22-8900(代表)
▼本件取材に関する問い合わせ先
白鴎大学広報課
〒323-8586 栃木県小山市駅東通り 2-2-2
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【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/