昭和大学がJSR株式会社と共同でがん迅速診断技術を開発

昭和大学

昭和大学(東京都品川区/学長:久光 正)の伊藤寛晃准教授(外科学講座消化器外科学部門(江東豊洲病院 消化器センター 外科))らの研究グループは、45秒で結果が得られる血液によるがんの高感度迅速診断の基礎技術を開発しました。これは昭和大学とJSR株式会社との共同研究で、研究成果の一部を2019年10月11日から13日にタイ、バンコクで開催された「ASCO Breakthrough 2019」で発表しました。また、10月24日には「第57回日本癌治療学会学術集会」のシンポジウムで本研究成果の講演をしました。 【本研究の内容】  伊藤寛晃准教授をはじめとする昭和大学の研究グループは、2018年9月から本学とJSR株式会社との共同研究として、がんの高精度かつ迅速スクリーニング技術(超早期診断技術)の開発を進めてきました。本技術はラマン分光法(※1)を応用したものであり、米国BaySpec社の技術協力により開発した超高感度の顕微ラマン分光装置(図1)を使用します。医療機関での一般的な血液検査で用いる血清の約10-20µlを使用して、特殊な形状の細径金属チューブ(1本約8円)の先端に液滴を作成し、1064nm波長の近赤外線レーザー光を照射します(図2)。15秒間の照射を3回行い、3回の測定の平均値をラマン散乱光波形として記録します。  予備実験として、胃がん、大腸がん、良性疾患の被験者それぞれ10名の協力のもと血清のラマン散乱光波形を比較したところ、特定の複数の分子結合に由来する散乱光の強度に差があることを見いだしました(図3)。  予備実験の結果をもとに、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)または大腸内視鏡検査(大腸カメラ)をを行い、検査前の血液検査で採血した血液の一部を使用して、血清のラマン散乱光波形を記録しました。  まず、20歳から80歳までの計236名の血清を解析したところ、胃がんまたは大腸がんの存在を感度100%、特異度75%で予測することができました。ただし、年齢によりラマン散乱光波形に一定の特徴があることが判明し、70歳までの方と70歳を超える方は別の基準で分析するとより正確に解析できることが分かりました。次に、20歳から70歳までで、がんを含む悪性疾患の既往がない計213名の血清を解析したところ、骨格C-C単結合、フェニルアラニンベンゼン環呼吸振動、アミド1 C=O二重結合に由来する散乱光の強度を比較(図3)することで、早期がんを含む胃がんまたは大腸がんの存在を感度85.7%、特異度86.7%と高精度に予測することが可能でした(図4)。  がんが見つかった被験者は胃がん1名、大腸がん6名の計7名であり、本技術では7名中6名が「陽性」と判定され、Stage 0の大腸がん1名のみ「陰性」と判定されました。また、「陽性」と判定されたが内視鏡検査でがんを発見できなかった被験者のほとんどには、腺腫などの将来がんを発症する可能性がある病気が見つかりました。  さらに、尿のラマン散乱光波形(図5)を記録したところ、がん診断に応用できる可能性があることが分かり、現在、血液(血清)と並行して解析を進めています。 【本研究の意義】  がんは死因の多くを占める重篤な疾患であり、治療成績の向上には早期診断が極めて重要です。しかしながら、現在までがんを高精度、簡便、かつ迅速に検出できる方法はまだ確立されていません。  本技術は一般的な血液検査で用いる血清を約10-20µlというごくわずかに用いて45秒で解析することができます。また、測定ごとに約8円の細径金属チューブを用いるだけのため極めて低コストです。  現時点での感度85.7%、特異度86.7%という精度は、わずか3種類の散乱光の強度比による簡易的な解析の結果であり、解析データ数を増やし解析アルゴリズムを最適化していくことで、さらに向上することが予想されます。また、比較する分子結合を調整することで、幅広いがん種や疾患に応用可能と考えられます。尿の解析とともに、近い将来、人類の健康に貢献できる技術として大いに期待されます。 ■語句説明 (※1)ラマン分光法:物質に光を照射し光が反射する際、照射された波長の光のほかに、個々の物質特有の波長の散乱光が含まれる現象を利用した非破壊成分分析法の一種である。この現象を発見したインドの物理学者チャンドラセーカル・ヴェンカタ・ラマン博士(Sir Chandrasekhara Venkata Raman)は1930年にノーベル物理学賞を受賞している。個体、液体、気体など試料の性状を問わず非接触で含まれる成分の種類や量を推定できる優れた分析法であり、人体への応用も期待されているが、自家蛍光に影響を受けやすいため、生体試料を分析する必要のある医学での応用は困難だった。 (※2)ラマンスペクトル:ラマン分光法により発生した散乱光のスペクトル(可視光線その他の電磁波を分光器によって波長順に分解したもの)のこと。 (※3)ラマンシフト:ラマン分光法により発生した各散乱光の振動数差のこと。 ▼本件に関する問い合わせ先  江東豊洲病院 消化器センター 外科 伊藤 寛晃  TEL: 03-6204-6000  E-mail: h.ito@med.showa-u.ac.jp ▼本件リリース元  学校法人 昭和大学 総務課(広報担当)  TEL: 03-3784-8059 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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