黒田清輝の名画を現代的にアップデート!橋爪 彩「Girls Start the Riot」展で新作展示
ポーラ美術館(神奈川県、箱根)は、開館15周年を機に、新たに未来を切り拓く現代美術の作家を紹介するスペース「アトリウム ギャラリー」を新設しました。
橋爪は「After Image」という伝統的な絵画を翻案するシリーズを手がけています。現代美術は美術史の流れと切り離されたものではない、またアートとは疑問や批評眼を投げかけるものだとする橋爪は、今回初めて日本の洋画に、橋爪らしい問いかけをしました。黒田清輝《野辺》を題材とした新作《Princess at work》は1月8日まで展示しています。作家自身の言葉を通じて、その魅力をご紹介します。
[作家コメント]
今回の個展「Girls Start the Riot」は、私が日本に帰国してから7年間のほとんどを費やして制作した「After Image」シリーズを振り返る展覧会です。「After Image」シリーズとは、伝統的な西洋絵画を、現代的にアップデートした一連の作品から構成されています。この個展のお話をいただいた際に、新作の制作を決意したわけですが、今回私が取り上げたのは、ポーラ美術館の収蔵する黒田清輝の《野辺》であり、日本の洋画家に取材するのは、これが初めての機会となります。
実は私は、この美術館ができたばかりの頃に一度、箱根を訪れたことがあります。その際に、《野辺》を目の前にして、強烈な体験をしました。多くの男性のシニアの方々が、この絵画を前にして口元を緩めている場面に出くわしたのです。当時、私は20代前半でしたが、《野辺》に描かれている女性も、おそらくは当時の私の年齢に近いことでしょう。ヌードで描かれた女性の側に立ったような感覚を覚えるとともに、男性の視線というものに強烈な抵抗感を抱いたのです。この記憶を原動力にして、今回はポーラ美術館の収蔵する作品をアップデートしたいと考えたのです。
新作《Princess at Work》は、日本語に直しますと「仕事中のお姫様」という意味合いになります。女性という性はある意味、生涯にわたって「見られる」対象であり続けることでしょう。見られるという「仕事」は、もしかしたらアイマスクをつけて眠っている間にも、継続されているのかもしれません。しかしながら、好奇の目線にさらされがちな女性たちは、こうした状況をまったく好ましくは思っていません。
新作のモデルがとる左手のジェスチャーには、このような男性と女性の関係性をめぐる問題についての、作家としての明確なメッセージを込めたつもりですし、違和感を強調するために、黒田の横の構図を、あえて縦の構図に変更しました。
この作品は、一方的に見られることへのフラストレーションを感じる女性に共感していただけるものではないかと思います。(橋爪 彩)
◆橋爪 彩(はしづめ・さい)
■ポーラ美術館
2002年に神奈川県箱根町に開館。ポーラ創業家2代目の鈴木常司が40数年にわたり収集した西洋絵画、日本の洋画、日本画、版画、東洋陶磁、ガラス工芸、化粧道具など総数約1万点を収蔵。開館時から光にこだわり、展示室の照明を印象派の絵画が美しく見える「7月のパリの夕暮れ」の光に調整しているほか、建築も地上2階から地下2階まで、太陽光が降り注ぐよう設計されている。
開館年月日 : 2002年9月6日
所 在 地 : 〒250-0631 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
T E L : 0460-84-2111
開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)