世界的に注目を集める日本経済大学大学院「メタエンジニアリング研究所」 -- スマホや羽根のない扇風機のように、従来型のエンジニアリングを乗り越えイノベーションを創出

日本経済大学

日本経済大学大学院(東京都渋谷区)で展開しているメタエンジニアリング研究所(MERI、所長:鈴木浩 大学院研究科長)の研究活動に注目が集まっている。メタエンジニアリングとはスマートフォンや羽根のない扇風機のように、従来のパラダイムからでは生まれてこないようなイノベーションの創出を目指した全く新しい概念のことで、この研究グループが存在するのは我が国ではMERIのみ。研究成果は国内外の学会等で発表され、国際的にも認知されている。この研究は2015年に、JSPS科研費15K03711「技術経営のためのメタエンジニアリングの実証的研究」の助成を受けている。  21世紀におけるイノベーションは、従来のパラダイムからは生まれてこないのではないか、との視点に立ち、(公社)日本工学アカデミーの中で生み出されたのが「メタエンジニアリング」という考え方である。  従来のエンジニアリングでは、作るべき製品・システムが与えられると、既存の制約を考慮して、技術を用いて最適化することにより、目的が達成されるというものであった。これまで我が国が得意としたやり方である。  しかし、これからのエンジニアリングではそれでは限界がある。まず、もう一度必要とされる課題を別の視点で考えてみて、次に既存の制約を外し、科学技術以外の分野にも解決策を求める。そして、これらを融合して必要とされる製品・システムをつくり、新たな社会価値を創造することが必要である。これを「メタエンジニアリング」と呼ぶ(図1参照)。四つの各プロゼスと、それを回すための場(※)とは以下のとおり。 ○Mining:  顕在化している社会課題やニーズに対し、課題やニーズの理由を問うことによって、解決されるべき課題や満たすべきニーズを明確にするプロセス ○Exploring:  Miningで見出した課題の解決やニーズへの対応に必要な知と感性の領域を俯瞰的に特定するプロセス ○Converging:  Exploringのプロセスで特定された領域の知と感性を、統合・融合することにより解決案を創出するプロセス ○Implementing:  Convergingのプロセスで創出された解決案を、社会との協調のなかで社会実装を図ることによって、新たな社会価値を創出するプロセス。  この四つのプロセスをそれぞれの頭文字をとって「MECIプロセス」と呼ぶ。 (※)場:MECIの個々のプロセスの機能、及びプロセス間の移行を促す作用を持つ基盤を指す ■基本的考え方  このMECIプロセスを回す基本となる考え方は、課題やニーズが与えられた時に、直ちにどのように(how)解決するかを考えるのではなく、なぜ(why)それらに取り組む必要があるのかを考える点にある。  解決策を考えるときも同じで、常に「なぜ」を問うことから始めるのがメタエンジニアリングの基本的なフレームワークである(図2参照)。 ■事例研究  我が国はものづくりが得意であるといわれてきている。このものづくりもエンジニアリングとしてのとらえ方とメタエンジニアリングとしてのとらえ方がある。  この違いを三つの例で取り上げてみた(図3参照)。我が国の得意なエンジニアリングという視点では、ものづくりの「作り」に重点を置いている。すなわち、「もの」が与えられ、それをどのように「作る」かを深く考えている。これは、whatがあたえられ、howを考えていることになる。「もの」と「作り」が足し算になっているととらえてみた。  一方、欧米流、あるいはメタエンジニアリングでは「もの」についてまず考えてみて、それから「作り」の段階に入る、すなわち、「もの」と「作り」が掛け算になっていると考えられる。whatの背後にある「why」を考え、そのあとで「how」に進む考え方である。具体例を見てみよう。 (例1) 超高速で大容量のデータを処理し、省エネルギーで故障の少ない計算機をつくれと言われるとする。従来型のエンジニアリングでは、スーパーコンピュータを設計し製造する。現在「京」は世界でも優秀な計算機である。  一方、我が国がスーパーコンピュータを開発している間に、米国では多くの計算機を使ったクラウドコンピューティングの考え方を見出し、実現した。計算とは何かを問い詰めた結果、コンピュータというプロダクトではなく、クラウドコンピューティングというソリューションを得た。 (例2) 次の例が扇風機である。現在の扇風機はおおむね羽根が3から5枚で、それの回転により風を起こしている。しかし、その風の流れにはうねりが生じ、自然の風とは程遠い。そこで自然の風に近い扇風機をつくるべく研究がすすめられ、バルミューダ社では、内側に5枚、外側に9枚の羽根の扇風機を作り上げた。自然に近い風が得られた。  一方、イギリスのダイソン社は、まったく異なるアプローチを見せた。扇風機というと扇(羽根)があって風を送る機械を想像するが、彼らは扇にこだわらなかった。羽根がなくても自然に近い風が作れる。円状のスリットから風を出すとその10倍の風が円の内側に発生する原理を適用した。ものや名前に対するこだわり(制約)から脱却できるか否かで解決策はまったく異なってくる。 (例3) 携帯電話とスマートフォンの違いは明確である。図4では、NokiaとAppleを対比して、両者のビジネスの動きを比較している。  Nokiaでは携帯電話を製品(goods)としてとらえものづくりを行っていたが、Appleはそれをサービス、経験、感性という面を統合し、スマートフォンという形で実現した。これにより、100億円対5300億円というビジネス上の大きな差が生じた。 ■研究の主体  メタエンジニアリング研究所には、教授1名、特任教授4名、研究員1名が所属しており、現在は修士2年の学生2名がイノベーションに向けた研究に参加している。卒業してそれぞれの道を歩んでいる修士卒業生は5名である。  研究成果は、国内外の学会等で発表され、国際的にも認知されている。  研究内容は、メタエンジニアリングシリーズとして本研究所よりテキストが出版されている。希望者は本研究所のホームページ http://meri.saloon.jp/ から実費で購入することができる。 【研究所所長】 鈴木 浩 ○略歴 学部:東京大学工学部 東京大学工学系研究科(工学修士、工学博士) 三菱電機株式会社:役員技監 GEエナジー:技監 ○専門分野 エネルギーシステム、技術経営 ○主要著作・論文・発表等 著作:「エネルギー新時代」 翻訳書:「ブレイクスルー」(Breakthrough) 原著M. Stefik & B. Stefik 論文 :゛Innovation Promoted by Meta-Engineering゛ The 4th International Multi-Conference on Engineering and Technological Innovation, H. Suzuki, Y Okita ▼本件に関する問い合わせ先  日本経済大学大学院 経営学研究科  研究科長 鈴木浩  (メタエンジニアリング研究所長)  〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町25-17  TEL: 03-3463-4115(代表) 【リリース発信元】 大学プレスセンター http://www.u-presscenter.jp/

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