働く人のメンタルヘルス改善を支援するアプリ「ASHARE(アスハレ)」の効果を実証 ―北里大らの研究グループが開発したアプリが心理的苦痛の低減に有効―

北里大学

 北里大学医学部公衆衛生学の渡辺和広 講師・堤明純 教授、産業医科大学 IR推進センターの井上彰臣 准教授、東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座の櫻谷あすか 特任講師・今村幸太郎 特任准教授、労働安全衛生総合研究所の吉川徹 統括研究員らの研究グループは、働く人の身体活動と心理的苦痛 (※1) の状態を自動で推定・可視化し、身体活動習慣の維持・変容を支援するスマートフォンアプリ「ASHARE」を開発しました。さらに、これを用いた無作為化比較試験 (※2) を実施し、アプリの使用が働く人の心理的苦痛の低減に有効であることを明らかにしました。この研究成果は、2026年8月14日付で、国際学術誌「Journal of Medical Internet Research」に掲載されました。 ■研究成果のポイント ・スマホアプリ単独の介入によるメンタルヘルス改善効果を実証:歩数等の身体活動とメンタルヘルスを受動的に (自動で) モニタリングするアプリ「ASHARE」を使用することで、アプリ使用3ヶ月後の心理的苦痛が有意に低下しました。 ・もともと心理的苦痛をあまり感じていない人においてより高い効果:研究開始時に心理的苦痛の水準が高くない人 (K6日本語版 [※3] の得点が5点未満の人) においてアプリ使用の効果がより大きく、心理的苦痛の増加を抑える効果が期待できることが示されました。 ・効果は短期間で限定的:ただし、心理的苦痛の低下の程度はわずかであり、またアプリの使用終了後には心理的苦痛の水準が研究開始時に戻ってしまったことから、効果を維持するためにはアプリの使用継続のための工夫が必要です。 ■研究の背景  労働者 (働く人) のメンタルヘルス問題は深刻であり、労働年齢人口の約15%がいずれかの時点で何らかの精神障害を抱えているとされています。また、明確な障害と診断されずとも、抑うつ、不安、あるいは心理的苦痛を抱えて働く人はさらに多く、休職や生産性低下のリスクにつながっています。  身体活動・運動の促進は、メンタルヘルス改善に有効な非薬物的アプローチとして知られています。また、スマートフォンアプリ等を利用してこれらの介入を個人の端末に届け、健康支援を行うモバイルヘルス (mHealth) も注目されていますが、これらは既に何らかの症状がある高リスク者を対象とした研究や、マインドフルネス・認知行動療法に基づく心理的アプローチの検証が中心で、健康な働く人を含む集団を対象に身体活動習慣の維持・変容を支援するアプリの効果を厳密に検証する研究は限られていました。 ■研究内容と成果  本研究では、日本の働く人793名を対象に、アプリ「ASHARE」の効果を検証する無作為化比較試験を実施しました。アプリ「ASHARE」を3ヶ月間使用する群 (397名) と、ストレスに関する冊子を読む群 (対照群、396名) の2つに、研究参加者を無作為に割り付け、その後の心理的苦痛や身体活動水準の変化を調べました。  その結果、3ヶ月後の調査において、アプリを使用した群は、冊子を読む群と比較して、心理的苦痛の得点が0.56ポイント低下し、統計的にも有意な群間差を認めました (図1)。  また、研究参加者を研究開始時の心理的苦痛の水準で二分した解析を行ったところ、もともと心理的苦痛をあまり感じていない人 (K6日本語版の得点が5点未満の人) においてアプリ使用の効果がより大きいことが示されました (図2、実線)。もともと心理的苦痛をあまり感じていない人は、アプリを使用した場合に対照群と比較して3ヶ月後の心理的苦痛の増加が抑えられていました。 図1.アプリ使用群 (Intervention) と対照群 (Control) における心理的苦痛の変化 図2.研究開始時の心理的苦痛の水準別に見たアプリ使用群 (Intervention) と対照群 (Control) における心理的苦痛の変化 点線:研究開始時の心理的苦痛高群 (K6日本語版の得点が5点以上) 実線:研究開始時の心理的苦痛低群 (K6日本語版の得点が5点未満) ■今後の展開  本研究により、スマートフォンアプリを用いて身体活動と心理的苦痛の状態を受動的にモニタリングすることが、働く人のメンタルヘルス不調を未然に防ぐ「一次予防」に対して有効である可能性が示されました。  一方で、心理的苦痛の低減効果はわずかであり、働く人が効果を明確に実感できない可能性があります。また、アプリの使用を任意とした3ヶ月後~6ヶ月後の期間には、アプリの利用継続率が急速に下落し、6ヶ月後には心理的苦痛の低減効果は消失しました。効果を維持するためにはアプリの使用継続が不可欠であることから、今後はアプリの使用継続率を高めるための施策を検証する必要があります。さらに、アプリ使用による身体活動水準の増加は認められず、心理的苦痛が改善するメカニズムについても明確にはなりませんでしたので、身体活動のより客観的・精密な測定を通じて、これらのメカニズムの解明が必要です。  今後も研究グループは、身体活動習慣の維持・変容を通じて、働く人がリズムよく穏やかな日々を過ごせるよう支援する手法の確立を目指します。 ■論文情報 掲載誌:Journal of Medical Internet Research 論文名:A mobile health intervention promoting physical activity to reduce psychological distress among workers: A randomized controlled trial 著 者:Kazuhiro Watanabe, Akiomi Inoue, Asuka Sakuraya, Kotaro Imamura, Toru Yoshikawa, Akizumi Tsutsumi DOI:10.2196/96072 ※本研究はJSPS科研費 (JP23K27851、JP24K20247、および25KK0036)、および日本医療研究開発機構 (JP21de0107006) の助成を受けたものです。 ■アプリ「ASHARE」に関する情報 働く人の身体活動とメンタルヘルスのためのアプリ「ASHARE (アスハレ)」 https://www.ashare-hp.jp アプリ「ASHARE」はデータ通信費を除いて無料でインストール・利用できます。 詳細はアプリのHPをご覧ください。 ■用語解説 ※1 心理的苦痛 抑うつ (気分の落ち込み) や不安の症状を含む、ネガティブな感情の状態を表す構成概念です。広くメンタルヘルス不調の状態を把握する際に用いられます。 ※2 無作為化比較試験 研究参加者を2つ以上の群 (グループ) にランダム (無作為) に振り分けることで、治療や介入の効果を厳密に検証する研究手法の一つです。単独の研究で因果関係を科学的に証明する際に最も信頼性の高い (エビデンスレベルが高い) 手法として知られています。 ※3 K6日本語版心理的苦痛を測定する、信頼性・妥当性の確認された尺度の名称です。この尺度の得点が5点以上であることが、臨床的に意味のある心理的苦痛のカットオフポイントだと知られています。 ■問い合わせ先 ≪研究に関すること≫  北里大学医学部公衆衛生学  講師 渡辺 和広 (わたなべ かずひろ)  e-mail:kzwatan@kitasato-u.ac.jp ≪取材に関すること≫  学校法人北里研究所 広報室  〒108-8641東京都港区白金5-9-1  TEL:03-5791-6422  e-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

その他のリリース

話題のリリース

機能と特徴

お知らせ