【横浜市立大学】血液細胞の染色体変化が全身性硬化症と強く関連

横浜市立大学

―後天的遺伝情報が病態解明の手掛かりに―

 藤田医科大学 研究推進部 ゲノミクス医学センター 統計応用遺伝医学講座 寺尾知可史教授、横浜市立大学大学院医学研究科 皮膚科学 山口由衣教授、西尾祐紀さんらの共同研究グループは、日本人の全身性硬化症(全身性強皮症, systemic sclerosis: SSc)※1患者982人と対照者6,571人の血液由来ゲノムデータを解析し、加齢に伴って増加する後天的な染色体異常「モザイク染色体変化(mosaic chromosomal alterations: mCAs)※2」が、全身性硬化症の一部の病型や合併症と関連することを明らかにしました。
 特に、常染色体の欠失 (autosomal loss) ※3は60歳以上の全身性硬化症で増加し、限局皮膚硬化型、間質性肺疾患(ILD)※4、血管合併症(VC)※5を伴う重症症例、発症年齢が60歳以上の遅発性全身性硬化症でその関連が強まることが分かりました。
 これらの成果は、全身性硬化症の病像の多様性を、先天的な遺伝情報だけでなく、加齢に伴って血液細胞に蓄積する後天的な染色体変化の観点から理解する手がかりとなります。将来的には、mCAsの情報を臨床情報と組み合わせることで、患者層別化や経過予測、個別化された診療戦略の検討に役立つ可能性があります。
 本研究成果は、学術ジャーナル「Annals of the Rheumatic Diseases」のオンライン版で公開されました(2026年7月9日)。
論文URL: https://doi.org/10.1016/j.ard.2026.06.006

<研究成果のポイント>
・日本人の2つの独立データセットを用い、全身性硬化症患者982人と対照者6,571人の血液由来ゲノムデータからmCAsを検出しました。
・常染色体欠失は全身性硬化症で増加傾向を示し、60歳以上では有意な関連を示しました。
 常染色体欠失は、限局皮膚硬化型、間質性肺疾患、血管合併症を有する症例でより強い関連を示しました。
・発症年齢が60歳以上の遅発性全身性硬化症では、常染色体欠失との関連がさらに強く、病型差の一部を説明する手がかりとなる可能性が示されました。

<背 景>
 全身性硬化症は、皮膚や内臓の線維化、血管障害、免疫異常を特徴とする自己免疫疾患です。皮膚硬化の広がり、自己抗体の種類、間質性肺疾患や肺高血圧症などの合併症の有無によって病像や予後が大きく異なります。特に間質性肺炎や血管合併症は重篤な合併症で、予後低下と関わります。
 これまで、全身性硬化症の発症や病型の違いには遺伝要因と環境要因が関わると考えられてきました。しかし、既知の遺伝要因だけでは疾患の多様性を十分に説明できず、後天的に生じる細胞レベルの変化が関与する可能性が残されていました。
 mCAsは、染色体の欠失、増加、ヘテロ接合性の喪失などの染色体構造変化が生じた細胞が増加した状態です。mCAsは加齢とともにその頻度が上昇し、血液がんや感染症、免疫関連疾患との関連が報告されていますが、全身性硬化症との関係は十分に調べられていませんでした。

<研究手法・研究成果>
 研究グループは、日本人を対象とした2つの独立したデータセットを解析しました。解析対象は、Set 1が全身性硬化症635人と対照4,401人、Set 2が全身性硬化症347人と対照2,170人でした。血液由来DNAのゲノムデータから、体細胞モザイク変異を検出しました。
 年齢、性別などの影響を調整したロジスティック回帰解析を各データセットで行い、結果をメタ解析で統合しました。さらに、年齢、発症年齢、皮膚病型、自己抗体、間質性肺疾患、血管合併症、mCAsを持つ細胞の割合(cell fraction: CF※6)で層別化して解析しました。
 その結果、全身性硬化症全体では、常染色体欠失が増加する傾向を示しました。年齢で層別化すると、60歳以上では常染色体欠失はより上昇していました。
 病型別では、常染色体欠失は限局皮膚硬化型全身性硬化症 (lcSSc)で増加していました。さらに、間質性肺疾患 (ILD)や血管合併症 (VC)を伴う症例でも増加していました。(図1)
 
図1 常染色体欠失と全身性硬化症の病型、合併症との関連
 
 
 常染色体欠失を持つ血液細胞の割合が5%を超える症例に限定すると、全身性硬化症との関連がより強くなりました。
 発症年齢が60歳以上の遅発性全身性硬化症 (Late-onset SSc)では、常染色体欠失との関連が全体より強く認められ、遅発性全身性硬化症に特徴的な病像の一部に、加齢関連の染色体モザイク変化が関わる可能性が示されました。(図2)
 
図2 常染色体欠失と高齢発症全身性硬化症との関連

<今後の展開>
 本研究は、全身性硬化症の多様な病型を、加齢とともに血液細胞に蓄積する後天的な染色体変化の観点から捉え直すものです。体細胞モザイクの情報を、皮膚病型、自己抗体、合併症、発症年齢などの臨床情報と組み合わせることで、将来的には患者層別化や経過予測、個別化された診療戦略の検討に役立つ可能性があります。
 一方で、本研究は横断的解析であり、mCAsが全身性硬化症の発症や合併症を直接引き起こすかどうかはまだ明らかではありません。今後は、独立した集団での再現、長期追跡研究、全ゲノム解析、単一細胞解析、機能解析を通じて、mCAsを持つ免疫細胞や血液細胞が病態に及ぼす影響を明らかにする必要があります。
 
<用語解説>
※1 全身性硬化症(全身性強皮症, SSc):皮膚や内臓の線維化、血管障害、免疫異常を特徴とする自己免疫疾患。皮膚硬化の広がりや自己抗体、臓器合併症によって病型や予後が異なる。
※2 モザイク染色体変化(mCAs):体の一部の細胞集団だけに後天的に生じる染色体の構造変化。血液細胞では加齢とともに増加することが知られている。
※3 常染色体欠失 (autosomal loss):性染色体以外の染色体の一部または全部が、一部の細胞集団で失われる変化。
※4 間質性肺疾患(ILD): SScにおける重要な合併症とされる。
※5 血管合併症(VC):本研究では肺動脈性肺高血圧症、手指潰瘍、強皮症腎クリーゼを血管合併症に含めた。
※6 cell fraction(CF):あるmCAsを持つ血液細胞が、全体の血液細胞に占める推定割合。

<文献情報>
論文タイトル:Phenotype-specific associations of mosaic chromosomal alterations in systemic sclerosis
著者:西尾 祐紀1,18,19,20、石川 優樹1,19,20、内山 竣介2、劉 暁渓1、高田 聖也1、黒島 知樹1、吉藤 元3、小寺 雅也4、赤星 光輝5、新納 宏昭6、茂木 精一郎7、白井 悠一郎2、中山 洋一8、廣部 圭祐3、中嶋 蘭3、遠藤 雪恵7、長谷川 稔9、浅野 善英10,11、中山田 真吾12、田中 良哉13、小栁 友理子14、松尾 恵太郎14,15、川口 鎮司16、桑名 正隆2、井本 逸勢17、山口 由衣18、寺尾 知可史1,19,20,21

所属:1. 理化学研究所 生命医科学研究センター ゲノム解析応用研究チーム (研究当時)、2. 日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野、3. 京都大学大学院医学研究科 内科学講座 臨床免疫学分野、4. 地域医療機能推進機構(JCHO)中京病院 皮膚科、5. 佐賀大学医学部 膠原病・リウマチ内科、6. 九州大学大学院医学研究院 医学教育学講座、7. 群馬大学大学院医学系研究科 皮膚科学、8. 京都大学医生物学研究所 病因免疫学分野、9. 福井大学医学部 感覚運動医学講座 皮膚科学、10. 東北大学大学院医学系研究科 神経・感覚器病態学講座 皮膚科学分野、11. 東京大学大学院医学系研究科 皮膚科学、12. 産業医科大学医学部 第1内科学講座、13. 産業医科大学医学部 分子標的治療内科学特別講座、14. 愛知県がんセンター研究所 がん予防研究分野、15. 名古屋大学大学院医学系研究科 がん分析疫学、16. 東京女子医科大学 内科学講座 膠原病リウマチ内科学分野、17. 愛知県がんセンター研究所、18. 横浜市立大学大学院医学研究科 皮膚科学、19. 藤田医科大学 研究推進本部 ゲノミクス医学センター 統計応用遺伝医学講座、20. 静岡県立総合病院 臨床研究部、21. 静岡県立大学薬学部 ゲノム病態解析分野

掲載誌:Annals of the Rheumatic Diseases
DOI:https://doi.org/10.1016/j.ard.2026.06.006
 

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