これからのビジネスパーソンに必要な「ビジュアル・シンキング」

文京学院大学

ビジュアルコンテンツ力を生かしてビジネスの世界で活躍できる人材を育成

文京学院大学 オピニオンレター Vol.6 提言者:倉嶋 正彦 (経営学部准教授 専門:グラフィックデザイン、イラスト、ビジュアルデザインなど) 1980年初期よりCGによる作品を制作。TV番組のタイトルから、イメージビジュアルまで幅広く制作している。1994年から、CGによる高精細グラフィックの可能性と、身体をテーマとした描画のCG化作品など制作、研究。日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員。 2007年より現職。 ■新しいビジネススキル ここ数年、ビジネスの世界で「インフォグラフィック」が注目されています。インフォグラフィックとは、特定のテーマのデータや情報をビジュアル化して視覚的に表現する手法です。SNSの普及でビジュアル情報がシェアされるスピードが速まったこともあり、宣伝や広報活動での活用が広まっています。 インフォグラフィックをはじめとするさまざまなビジュアルコンテンツを経営に活用することは、ビジネスのさまざまなシーンに大変に有効な手段となってきます。もちろん、ビジュアルは言葉の壁を超え、スピーディーに伝えることができます。 しかしながら、インフォグラフィックとしてビジュアル化するには、複雑な内容を読み解く力、表現力、デザイン力が必要になっていきます。それらを養うための基本の力となるのが「ビジュアル・シンキング」なのです。 ■右脳と左脳を両方活用 人間には、右脳と左脳があり、それぞれが違う役割を持つことは、広く知られています。にもかかわらず、ビジネスの世界では、これまではロジカル・シンキングに代表される左脳型の思考法が重宝されてきました。アイデアや発想は、「ひらめき」などと言われ、ある種の特殊技能のように扱われてきました。 ビジュアル・シンキングは、この状況を補完する、右脳型の新たな思考法です。ビジュアルで思考を整理し、描いたもので伝える訓練をすることで、右脳的思考を鍛えることができます。ビジュアル・シンキングの訓練を通じて理解することがいっそう容易に、そしてさらに豊かなものになり、またその内容をより分かりやすく人に伝えることができるようになります。 本レターでは、新しいビジネススキルとして2016年4月から本学経営学部経営コミュニケーション学科でも正式カリキュラム化する「ビジュアル・シンキング」について紹介します。 ■ビジュアル・シンキングとは ビジュアル・シンキングの活用例として、VTS(Visual Thinking Strategies)があります。これは1991年より、ニューヨーク近代美術館で始められた子どもの能力向上を促す目的で開発された教育プログラムです。小学生に事前の知識や先入観を与えずに絵を見てもらい、そこから浮かぶキーワードを思いつく限り挙げてもらう、というものでした。自由に絵を見ることで、絵を鑑賞する力と発想する力を養うことが目的です。 近年では、ビジュアル・シンキングはビジネスの世界に応用され、「ビジュアルを使って問題を解決する力」として発展を遂げています。経営コンサルタント会社の社長であり、2009年に『描いて売り込め!超ビジュアルシンキング』を著したダン・ローム氏は、同書においてビジュアル・シンキングを「見る」「視る」「想像する」「見せる」の四つのステップに分解して定義しました。 (1)見る 最初のステップです。この状態では、ただ漠然と対象を「見ているだけ」です。 (2)視る 同じ「みる」でも漢字が変わります。これは、見たいものを「探す」段階です。「見た」ものから詳しく調べる価値のある対象を選別し、塊に分けることで理解します。 (3)想像する 次は、その情報を元に、脳の中で想像し、自分なりの考えをまとめます。 (4)見せる 最後は、想像して浮かんだアイデアやまとめた考えを描き出し、第三者に伝えます。 この定義によれば、「見せる」、つまり絵で伝えることはビジュアル・シンキングの一要素にすぎないことがよく分かります。「ビジュアル」と言うとすぐに「絵が描けない、わからない」と考える人がいますが、ビジュアル・シンキングでは、「丸」「三角」「四角」「矢印」など、楽に描ける簡単な図形の組み合わせだけでも大丈夫です。大事なのは人に伝えたいという思い。それさえあれば、あなたの絵は相手に通じます。 ローム氏自身、ビジュアル・シンキングの重要性に気がついたのは、紙ナプキンの裏に描いた簡単な絵で、急場のプレゼンテーションを乗り切った経験からだそうです。 では、文字ではなく「ビジュアルで考えるほうがよい理由」とは何でしょうか。私は、大きく三つの側面があると考えています。 一つ目は、ビジュアルには「複雑な関係性や全体観をわかりやすく理解させる力」があるということです。入り組んだ構造や関係も、視覚化することで理解が容易になります。 二つ目は、ビジュアルの「物事を瞬時に理解させる力」です。文字では長い説明が必要なものも、シンプルなビジュアルでは瞬時に理解できます。例えば道路標識などはその一例でしょう。 そして三つ目は、ビジュアルの持つ「発想を広げる力」です。ビジュアルには、文字よりも自由な発想を促す力があります。   実際、私の講義で「絵を視て自由に発想してもらう」ことと「文字を視て自由に発想してもらう」ことを両方行うと、学生たちからは前者の方が多くのアイデアが生まれます。ビジネスでの会議でも同じです。ブレーンストーミングなどの際、ホワイトボードに視覚化していくと、文字だけで考える場合よりも多くの着想が得られることが少なくありません。 ■正式カリキュラム化した理由 ローム氏の「四つのステップ」で私が一番共感したことも、「視る」の部分です。「視る」が「想像」の源になるからです。そして今の教育に最も足りていないことが、おそらくこのステップだからです。受験システムを中心とする現在の教育では、あれもこれも「覚える」必要があり、学生はすべてを取り込まなければなりません。思考としては「見る」に止まってしまいます。クリエイティブな「想像」のステップに進むためには、「視る」のプロセスを必ず経る必要があるにも関わらず、その訓練は至って不十分です。 一方で企業の経営には、デジタル化やグローバル化への対応、イノベーションの推進、環境や社会への貢献といったさまざまな課題が投げかけられています。これまで以上に広い視野で、素早く、複雑な状況に能動的に対応する経営活動が求められています。マネジメントやマーケティングにかかわるコミュニケーションも、わかりやすく、迅速で、しかも共感力や創造力に富んだものでなければなりません。「視て」「想像する」ビジュアル・シンキングによるコミュニケーションが強く求められる時代、といっても過言ではないでしょう。ビジュアル・シンキングは「次の時代のマネジメントの基本技術」になると、私は考えています。 このような認識のもと、本学経営学部は、2016年4月から「ビジュアル・シンキング」を正式なカリキュラムとして導入します。経営学部の学生として必要なビジュアル・シンキングの基礎力を全員に身につけてもらうとともに、ビジュアルの力をよりいっそう高めたい学生には、インフォグラフィックの制作などの専門的な科目も用意しています。インフォグラフィックは、言ってみれば、ビジュアル・シンキングにおける「見せ方の発展系」と位置づけることもできるでしょう。  経営学部でビジュアル・シンキングの教育を行うメリットは、簿記、会計、財務、人的資源管理、マーケティング、ブランディングなどの経営学のさまざまな専門分野とクロスオーバーした講義が行えることです。それぞれの専門領域にはそれぞれのコミュニケーションテーマや課題があります。ビジュアル・シンキングの授業を各専門領域と横断的な形で行うことによって、各々に適した課題解決プロセスを導くことができれば素晴らしいことです。各領域の多彩な専門の先生方と、ともに講義をすることで、「ビジュアルで考える題材」が豊富に生まれますし、学生の「想像」ステップを、専門的知見からサポートすることが可能となります。 ビジュアル・シンキングを学ぶことは、ビジネスパーソンとして、さまざまなシーンで活躍する際の1つのコミュニケーションツールとしての強みとなっていくと私は確信しています。 <文京学院大学について> 文京学院大学は、東京都文京区、埼玉県ふじみ野市にキャンパスを置く総合大学です。 外国語学部、経営学部、人間学部、保健医療技術学部、大学院に約5,000人の学生が在籍しています。本レターでは、文京学院大学で進む最先端の研究から、社会に還元すべき情報を「文京学院大学オピニオン」として提言します。 <本件に関するお問い合わせ先> 文京学院大学(学校法人文京学園 法人事務局総合企画室) 三橋、谷川 電話番号: 03-5684-4713

その他のリリース

話題のリリース

機能と特徴

お知らせ