再生可能エネルギー投資の枠を超えて: 世界的なエネルギー転換への投資
カリン・カイザー
欧州プライベート・マーケット責任者、
シュローダー・グリーンコート
- 世界のエネルギー転換には、風力発電や太陽光発電に加え、幅広い技術への投資が必要
- これらの技術は、炭素排出の削減と緩和を支援するだけでなく、再生可能エネルギーの導入と送電を可能に
- エネルギー転換に注力する投資家は、特定のリスクを軽減し、潜在的なアップサイドを最大化するために、資産、技術、機会を分散したポートフォリオを構築することが重要
世界がよりサステナブルな未来に向かうにつれ、世界的なエネルギー転換への投資はますます魅力的になっています。この重要なテーマにアクセスする最も確立された方法は、再生可能エネルギーによる発電、特に風力発電と太陽光発電資産への投資です。これらの資産は、実績があり、安定したキャッシュフローを提供するため、十分に分散されたポートフォリオの重要な構成要素として機能します。
発電資産に加え、低炭素な世界経済への移行には、隣接する幅広い技術やインフラへの多額の投資が必要となります。具体的には、欧州連合(EU)が掲げる2050年までのネットゼロのような意欲的な目標を達成するためには、次世代エネルギー・ソリューションの進化を支え、低炭素の未来を実現するために、世界のエネルギー・インフラをアップグレードする技術の開発と導入が必要となります。
本稿では、エネルギー転換期を活かそうとするインフラストラクチャーの投資家向けに、広範な技術とポートフォリオ構築における役割に焦点を当て、投資機会の包括的な概要を提供することを目的としています。
次世代エネルギー・ソリューション
1. 蓄電池の強化: 再生可能エネルギーをサポートするシステムの拡充
蓄電池インフラへの投資は、送電網の柔軟性、信頼性、そして従来型エネルギー源と比較した発電容量の不安定性に関する批判に直面する再生可能エネルギー源の幅広い導入において、重要な役割を果たすことが期待されています。
蓄電池システムは、単に再生可能エネルギーの電力を短期的に貯蔵するだけでなく、電力系統に補助的なサービスを提供することで、電力系統の安定性とバランスを保つための重要な資産としての役割を果たします(次ページの図を参照)。再生可能エネルギーによる発電が拡大するにつれ、併設型と独立型の両方の蓄電池プロジェクトに投資機会が広がっています。
併設型プロジェクトでは、風力発電所や太陽光発電所などの再生可能エネルギー発電資産と蓄電池を併設して設置します。このようなプロジェクトは、需要が少ない時期や発電量が多い時期に余剰電力を貯蔵することで、再生可能エネルギーの価値を高めます。需要が増加したり発電量が減少したりすると、貯蔵された電力を送電網に放出できるため、送電網の運用を安定させ、収益の可能性を最大化するのに役立ちます。
一方、独立型プロジェクトは、送電網サービスを提供し、卸売エネルギー市場に参加する独立した施設です。このプロジェクトは、電力価格の変動を利用し、価格が低い時に電気を購入し、価格が高い時に送電網に電気を売却します。また、独立型の蓄電プロジェクトは、発電量が少ない期間に電力を供給することで、再生可能エネルギーの間欠性を補完することもできます。
2. エネルギー効率を高める: 需要側管理のためのスマート・ソリューション
エネルギー効率への投資は、需要側におけるエネルギー消費の最適化に重点をおくことで、排出量の削減につながります。スマート・ソリューションは、建物、工業プロセス、輸送、その他のセクターでエネルギー効率を高める機会を提供します。
エネルギー効率化投資における重要な機会は、スマートメーターの導入にあります。スマートメーターはエネルギー使用量のリアルタイムでの監視を可能にし、消費者や企業にエネルギー消費のパターンに関する詳細な情報を提供します。この情報により、個人や企業は十分な情報に基づいた意思決定を行い、それに応じてエネルギー使用量を調整することができるようになり、無駄の削減、エネルギー料金の削減につながります(下図を参照)。投資機会は、スマートメーター技術の製造と導入、およびエネルギー管理をサポートするデータ分析とソフトウェアプラットフォームなどです。
断熱材、エネルギー効率の高い照明、スマートビル管理システムなどの効率的な建築ソリューションも、大きな投資機会を提供します。これらのソリューションは、エネルギー需要を削減し、居住者の快適性を高め、運用コストを下げることができます。グリーンビルディング認証やエネルギー性能基準は、エネルギー効率の高い建築技術に対する需要を促進し、さらなる潜在的な投資の可能性を提供します。
最後に、エネルギー効率の高い輸送ソリューションへの投資は、輸送部門からの二酸化炭素排出量の削減に貢献します。電気自動車(EV)の普及は急速に進んでおり、特に充電インフラストラクチャー(次章で詳しく説明)、バッテリー技術、電動モビリティ・サービスに投資機会が生まれています。
3. クリーン燃料の開発: グリーン水素と代替燃料
グリーン水素のインフラへの投資は特に有望です。このクリーンな燃料は、船舶や航空機への燃料供給、工業プロセスへの高温熱の供給、化学物質の製造、断続的な再生可能エネルギー発電のバランス調整など、さまざまな用途に使用できるからです。再生可能エネルギーを利用した電気分解によるグリーン水素の製造は、製造と利用の両面でカーボンフリーであり、多用途かつサステナブルなエネルギーキャリアとしての可能性から、大きな注目と投資を集めています。水素の抽出過程で依然として化石燃料を使用する「グレー水素」や「ブルー水素」とは区別されます。
グリーン水素は新興分野ですが、インフラが拡大すれば、投資家は水素の製造、貯蔵、輸送、燃料電池の開発の機会などのビジネスチャンスに活用できるようになります。グリーン水素の供給を増やし、すでに高まっている需要を喚起するには、政府と民間セクターの両方から多額の投資が必要です。経済的リターンは、最終市場への水素の販売から得られますが、需要を実現するための技術の初期段階に関連するリスクは、通常、政府の補助金と長期契約によって相殺されます。
クリーン燃料への投資機会は、グリーン水素だけでなく、eメタノール、アンモニア、サステナブルな航空燃料などの代替燃料にも広がっています。これらの燃料は、輸送、工業プロセス、発電など様々な分野に低炭素の代替燃料を提供します(下図を参照)
クリーン燃料の生産施設、貯蔵インフラ、輸送ネットワークに投資することで、各国が経済の脱炭素化に努める中、これらの燃料に対する需要の拡大を取り込むことができます。さらに、「バイオCO2 」サプライチェーンの開発は、多くのクリーン燃料の生産に不可欠であり、さらなる投資機会を提供します。前ページの例示図は、水素の有する柔軟性がいかに多くの有用な最終製品をもたらすかを示しています。
低炭素な未来のためのインフラ
1. EV充電ネットワークの拡大: 輸送の電化を加速
EVへの移行は、輸送部門の脱炭素化において変革的な役割を果たします。EV充電インフラへの投資機会は、EVの普及拡大をサポートし、EVユーザーにとって便利な充電オプションを確保する必要性によって推進され、その結果EV需要をさらに喚起し、温室効果ガスの排出量の削減とサステナブルな輸送ソリューションの促進に貢献することになります。
EV充電インフラへの投資には、充電ステーションの開発、設置、運用が含まれます。これには、商業地域や高速道路沿いの公共充電ステーションと、住宅や商業施設向けの民間充電ソリューションの両方が含まれます。EVによる長距離移動を可能にするためには、主要な交通網に沿った急速充電ネットワークへの投資が不可欠です。
EV充電インフラへの投資は、EVの普及促進を目的とした政府の政策、規制、取組みの影響を受けます。また、政府、電力会社、輸送会社との連携により、EVインフラの展開に関する投資機会も創出するでしょう。
2. 暖房システムの脱炭素化:住宅・商業施設の改修
暖房技術への投資機会は、住宅や商業施設の脱炭素化の必要性によって推進されています。空気、地中、水源から再生可能な熱を取り出すヒートポンプは、従来の暖房システムに代わる、効率的で環境に優しい代替手段を提供します。これらのシステムは、空間暖房と温水の両方を提供し、二酸化炭素排出量とエネルギー消費量を削減します。
ヒートポンプは、一戸建て住宅、集合住宅、商業施設など、さまざまな環境で導入することができます。政府や機関が温室効果ガス排出量を削減するための意欲的な目標を設定しているため、ヒートポンプの導入を促進するためのインセンティブや支援制度が導入されています。これにより、ヒートポンプのエコシステムにおける製造、設置、サービス企業への投資機会が創出されています。
暖房への投資機会は、地域暖房システムの成長にも存在します。地域暖房は、複数の建物や地域に熱を集中的に生産・供給します。熱源には、バイオマス、地熱、廃熱回収などの再生可能技術が含まれます。地域暖房インフラへの投資は、熱の脱炭素化を支援し、エネルギー効率を高め、長期的かつ信頼性の高い熱供給を地域社会に提供します。
3. 送電と配電の近代化: 送電網インフラの強化
再生可能エネルギー発電が拡大し続ける中、送電・配電インフラのアップグレードが不可欠となっています。アップグレードにより、発電源から最終消費者までの効率的で信頼性の高い電力輸送が可能になります。送電網インフラへの投資機会には、送電線の新設、既存インフラのアップグレード、連系線(インターコネクター)の開発などがあります。
再生可能エネルギーの普及が進むにつれて、地域の送電網は、発電容量の増加に対応するため、大幅なアップグレードを必要としています。送電網への投資は、再生可能エネルギー発電の間欠性に対処し、既存の送電網システムに再生可能エネルギー源を統合し、最適化することを目的としています。
異なる地域の送電網を接続する連系線は、潜在的に発電能力が高い地域から需要の高い地域へ再生可能エネルギーを輸送するために不可欠です。こうした大規模なインフラ・プロジェクトは、効率的な送電を可能にし、国境を越えたエネルギー取引を支援し、送電網の回復力を高めることができます。
送電網インフラへの投資は、規制の枠組み、政府の政策、インセンティブによって支えられており、電力網の脱炭素化と近代化に貢献しながら、長期的で安定したリターンを得る機会を提供します。
4. 炭素回収技術の推進: 排出量削減への投資
炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術への投資は、様々な産業、特に完全な電化や再生可能エネルギー源への移行が困難な産業からの二酸化炭素(CO2)排出量を緩和する上で重要な役割を果たします。CCUSは、発電所や産業プロセス、その他の排出源から排出されるCO2を回収し、利用または貯留します。
CCUSへの投資機会には、回収技術の開発、回収されたCO2の輸送インフラ、地中貯留サイトなどが含まれます。回収されたCO2は、化学物質、材料、燃料の生産に利用され、循環型低炭素経済に貢献します。新しい炭素利用技術や設備への投資により、 CO2 を価値ある製品に変換することが可能になり、化石燃料への依存を減らし、回収された排出物から経済的価値を生み出すことができます。
政府の政策、補助金制度、CO2引取の長期契約は、CCUSプロジェクトへの投資機会を左右し、各国がネットゼロ目標を達成するための重要な手段となっています。
エネルギー転換における機会: ポートフォリオの構築
エネルギー転換セクター全体のさまざまな隣接技術に魅力的な投資機会がある一方で、上述の通り、この分野における現在の投資機会の大半は、風力および太陽光発電による発電にとどまっています。Aurora Energy Researchのデータによると、欧州と北米の風力・太陽光発電市場は、10年後までに2兆ドル規模に達すると予想されています。
しかし、低炭素な世界経済へと長期的に移行するためには、より広範なソリューションや技術に対する大幅な投資拡大が必要となります(下図を参照)。これらの技術の多くは、世界的なネット・ゼロ目標の達成に不可欠であり、長期的には重要で補完的な投資機会を提供します。
エネルギー転換への投資ポートフォリオを構築する上で、グリーン電力が多くのエネルギー転換技術に不可欠な要素であることを認識することが重要です。エネルギー・サプライチェーン全体に投資することで、投資家はエネルギー転換関連資産の取得、運用、理解において競争上の優位性を獲得できます。また、電力の生産と消費の両方に関与することで、契約キャッシュフローを生み出す機会が生まれ、多くのエネルギー転換プロジェクトの運用費に影響する多額の電力コストの管理に役立ちます。
より広義では、技術やサブセクター間で分散投資することが、安定性をもたらし、特定のサブセクターに関連する特異なリスクを軽減するために不可欠です。したがって、バランスの取れたポートフォリオには、キャッシュフローが確立している風力発電と太陽光発電の両資産を組み入れるべきであり、より幅広い隣接技術に分散投資することで、さらなるアップサイドの可能性を高めることができます。
新興の技術やセクターへの初期段階の投資は、政府の支援制度の恩恵を受けることが多く、収入の確実性を高め、リスクを軽減することができます。しかし、確立されたセクターと比較すると、エネルギー転換の状況はまだ発展途上にあり、稼働資産も少なくなっています。多くの事業機会がグリーンフィールド・リスクを抱えており、高い成長の可能性が期待できる反面、不確実性も高まります。投資家はこれらのリスクを慎重に評価し、このダイナミックな環境を乗り切るために投資マネージャーの専門知識を検討する必要があるでしょう。
シュローダー・グリーンコートでは、これらの要素を慎重に統合してエネルギー転換ポートフォリオを構築しています。当社のアプローチは、様々なテクノロジーやサブセクターに分散することを重視し、リスクを効果的に管理しながら、幅広い収益源を確保するものです。風力発電や太陽光発電のような確立された資産に加え、新興セクターにも焦点を当てることで、持続可能な成長に向けたポートフォリオの構築を目指しています。固有のリスクを理解し、政府の支援制度を活用することで、収益の創出と安定性がさらに強化されます。最終的に、このアプローチは魅力的なリターンをもたらすだけでなく、低炭素経済という広範な目標にも貢献する大きな可能性を秘めていると考えています。
【本資料に関するご留意事項】
- 本資料は、情報提供を目的として、シュローダー・キャピタル(以下、「作成者」といいます。)が作成した資料を、シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社(以下「弊社」といいます。)が和訳および編集したものであり、いかなる有価証券の売買の申し込み、その他勧誘を目的とするものではありません。英語原文と本資料の内容に相違がある場合には、原文が優先します。
- 本資料に示されている運用実績、データ等は過去のものであり、将来の投資成果等を示唆あるいは保証するものではありません。投資資産および投資によりもたらされる収益の価値は上方にも下方にも変動し、投資元本を毀損する場合があります。また外貨建て資産の場合は、為替レートの変動により投資価値が変動します。
- 本資料は、作成時点において弊社が信頼できると判断した情報に基づいて作成されておりますが、弊社はその内容の正確性あるいは完全性について、これを保証するものではありません。
- 本資料中に記載されたシュローダーの見解は、策定時点で知りうる範囲内の妥当な前提に基づく所見や展望を示すものであり、将来の動向や予測の実現を保証するものではありません。市場環境やその他の状況等によって将来予告なく変更する場合があります。
- 本資料中に個別銘柄についての言及がある場合は例示を目的とするものであり、当該個別銘柄等の購入、売却などいかなる投資推奨を目的とするものではありません。また当該銘柄の株価の上昇または下落等を示唆するものでもありません。
- 本資料に記載された予測値は、様々な仮定を元にした統計モデルにより導出された結果です。予測値は将来の経済や市場の要因に関する高い不確実性により変動し、将来の投資成果に影響を与える可能性があります。これらの予測値は、本資料使用時点における情報提供を目的とするものです。今後、経済や市場の状況が変化するのに伴い、予測値の前提となっている仮定が変わり、その結果予測値が大きく変動する場合があります。シュローダーは予測値、前提となる仮定、経済および市場状況の変化、予測モデルその他に関する変更や更新について情報提供を行う義務を有しません。
- 本資料中に含まれる第三者機関提供のデータは、データ提供者の同意なく再製、抽出、あるいは使用することが禁じられている場合があります。第三者機関提供データはいかなる保証も提供いたしません。第三者提供データに関して、本資料の作成者あるいは提供者はいかなる責任を負うものではありません。
- シュローダー/Schroders とは、シュローダー plcおよびシュローダー・グループに属する同社の子会社および関連会社等を意味します。
- 本資料を弊社の許諾なく複製、転用、配布することを禁じます。