認定NPO法人 虹色ダイバーシティ(大阪府大阪市、代表:村木 真紀、研究員:三上 純)は、国際基督教大学 ジェンダー研究センター(東京都三鷹市、上級准教授:高松 香奈、研究員:平森 大規)との共同調査として「niji VOICE 2020 〜LGBTも働きやすい職場づくり、生きやすい社会づくりのための『声』集め〜」を実施しました。
本資料では、この調査の速報値をご報告します(この発表は
あくまで現時点の速報値であり、今後、より詳細な分析を進める中で、最終的に数値が若干変動する可能性がございます)。なお、本調査のその他の結果は、2020年12月にオンラインで実施する報告会にて発表する予定です。
【有効回答数】
本調査は、2020年6月1日〜7月16日にかけて、インターネット上で実施した最大45問の任意のアンケート調査です。本年は
2,231人(有効回答数:2,017人)から回答を得ており、そのうち、
LGBT等の性的マイノリティ(以下、LGBT)に該当する方は1,350人です。(各項目も任意回答であり、設問によって回答者数が異なります。)
回答者の内訳は、シスジェンダー(性自認と出生時の性別が同じ人)のレズビアンに該当する方が161名、ゲイが252名、バイセクシュアル女性が261名、バイセクシュアル男性が47名、アセクシュアル(無性愛)女性等に該当する方が70名、アセクシュアル(無性愛)男性等に該当する方が6名、トランスジェンダー男性が91名、トランスジェンダー女性が63名、出生時女性のXジェンダー等が331名、出生時男性のXジェンダー等が68名、でした。また、シスジェンダーかつ異性愛(以降、CisHと表記)の方は667人でした。
新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化と経済的困窮
内閣府が6月に発表した調査では34.6%がテレワークを経験しているが、LGBT、特にトランスジェンダーは在宅勤務になったと回答した人が少ない。これは非正規雇用が多く、現場にいる必要のある職種で働く人が多いことも要因と思われる。仕事が減った、収入が減ったとの回答も、特にトランスジェンダーで多い。
家族や近しい人との関係が悪化したと答えたLGBTも多く、理解がない、あるいは、カミングアウトしていない家族とのステイホーム(外出自粛)を強いられることによるストレスがあると予想される。
経済的な困難の経験を聞いた設問では、この一年で、預金残高が1万円以下になったというLGB他が22.3%、Tが31.3%であった。通信費、水道光熱費、家賃、社会保険料等を滞納したという人や、食事をしなかったという人もおり、生活の基本が脅かされている状況が窺える。このアンケートは6月から7月にかけて実施しているが、企業の景況悪化に伴い、今後さらに困窮の度合いが高まることが予想される。
LGBTは行政にも相談できない
経済的に困窮した際、どこに相談できるか、と聞いたところ、最後の砦となるはずの行政にも「相談できない」と回答したLGBTが多かった。これは命に関わる切迫した状況であると私たちは考えている。
2018年に実施した調査では、職場でLGBT施策が実施されているほど、相談できると回答した人が多くなっていた。行政についても状況は同じではないかと予想している。行政に関わる人たちがLGBTについて理解を深め、適切に相談に応じることができるようにすること、そしてそれを当事者にメッセージとしてしっかり伝える努力が望まれる。パートナーシップ制度のある自治体も増えてきているが、まだ人口の30%強しかカバーされていない。パートナーシップ制度があること自体が、行政に安心して相談できるというメッセージになると私たちは考えている。行政がLGBTを含むすべての住民にとってセーフティネットとして機能するために、LGBTに関する施策の広がりが求められる。
LGBTのメンタルヘルスが急激に悪化
K6尺度(5点以上で心理的ストレスを抱えている可能性、10点以上で気分・不安障害に相当する可能性、13点以上で深刻な心理的苦痛を感じている可能性が高い)を用いてLGBTのメンタルヘルスの状態を測定したところ、元々LGBTのメンタルヘルスの状況はCisHと比較して悪いが、今年はさらに悪化している恐れがあることがわかった。
昨年と比較して、5点以上の回答者の割合がLGB他で5.4%、Tで5.7%増えている。特にトランスジェンダーでは、13点以上の回答者の割合が31.9%であった。
うつ病を抱えていると回答した人は、LGB他で13.8%、Tで20.0%である。昨年はそれぞれ9.6%、17.0%であったので、これも増えている(うつ病の日本人の生涯有病率は6%前後という調査がある。
参考:
https://www.m3.com/open/clinical/news/article/665145/)。
メンタルヘルス悪化の背景には、経済的な困窮、社会的な孤立、将来への不安等があると考えられる。LGBTは、家庭、学校、職場、地域から疎外されがちであり、経済的資源、人的資源、未来への希望、いずれも元々少ない。メンタルヘルスの状況は全般的に悪化していると思われるコロナ禍において、LGBTのメンタルヘルスの急激な悪化は見えにくくなっていると思われる。特に医療、福祉、行政、教育など、相談事業に関わる人たちに、LGBTのメンタルヘルスの急激な悪化について、私たちは警鐘を鳴らしたい。
職場でのハラスメントとマイクロアグレッション
改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)により、大手企業では6月から性的指向や性自認に関する侮辱やアウティングもパワハラの一環として事業主に措置義務が課されたところだが、いまだに様々な形態でLGBTの職場環境を害する言動があることがデータで示された。特に「性的な目で見られたり、身体を触られたりした」人は、LGB他で17.0%、Tで21.7%であり、深刻なセクハラや性被害の経験も自由記載欄で報告されている。
このコロナ禍において様々な研修が中止や延期になっているが、ハラスメント防止のための施策を止めないことが必要であると私たちは考えている。
また、ハラスメントの背景には、様々なLGBTに関するマイクロアグレッション(日常的な、何気ない見下し)があり、これが見過ごされていることも指摘しておきたい。マイクロアグレッションへの感度は、LGBTとそうではない人で大きな差が出ており、マイクロアグレッションに対する感度を上げる必要がある。
司法すら信じられない
LGBTに関する訴訟が全国で起きているが、「あなたが、もし職場でのハラスメントや差別的言動を経験して、それを訴えたとしたら、弁護士、判事、検察官などの法律関係者は、あなたの訴えを受け止め、適切に対応すると思いますか。」と聞くと、「そう思わない」と回答する人がLGB他で35.8%、Tで39.4%であり、LGBTの方が司法への信頼感が低いという結果であった。
法の下の平等が保障されているはずの国で、この大きな差は、あってはならないことだと私たちは考えている。法律関係者には、LGBTの司法に対する信頼を回復する取り組み、LGBTを失望させない判決を期待したい。
LGBTの生活実態を国のデータに
私たちの調査によると、LGBTもすでに多様な家族を形成している。子どもがいる家庭もLGB他で12.6%、Tで9.2%であり、特にレズビアンで子どもと暮らしていると回答した人は、昨年の7.9%から13.1%に急増した。
コロナ禍で家から出ることが難しい状況になれば、共に住む人の重要性が増す。どのくらいの人が、どんな人と暮らしているのかは、これからの行政施策等を考える上で基礎的な情報だと思うが、LGBTについては、この基礎データがそもそもない。現在、9月から行われる国勢調査で同性パートナーを配偶者としてカウントして欲しいという運動が起きている(現在、同性同士で配偶者と記載しても配偶者としてはカウントされない、もしくは記入ミス扱いとされる)が、是非、国の各種統計調査でも、LGBTの生活実態が適切に集計されるようにしていただきたい。
以上
本調査は、株式会社ナイアンティック、新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金、新公益連盟、リコー社会貢献クラブFreeWillからご支援をいただいて実施しております。
認定NPO法人 虹色ダイバーシティについて
虹色ダイバーシティは、SOGIE(Sexual Orientation , Gender Identity and gender Expression)による格差のない社会をつくり、次世代に繋ぐことをめざして、調査研究、社会教育活動等を行っているNPO法人です。