放射線治療や手術で使用する「サージカルスキンマーカー」を開発 耐久性が高く安全で子どもにも使える皮膚マーカーとしての活用に期待



近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)放射線医学教室(放射線腫瘍学部門)教授 門前一と、同小児科学教室医学部講師 宮崎紘平、岡山中央病院(岡山県岡山市)放射線がん治療センター主任 中山真一を中心とする研究グループは、早川ゴム株式会社(広島県福山市)と共同で、放射線治療や手術で患者の皮膚に目印をつける際にマーカーとして使用する、発がん性物質を含まない「サージカルスキンマーカー」を共同開発しました。子どもにも使用できるより安全な皮膚マーカーとして、今後、臨床現場での活用が期待されます。
本件に関する論文が、令和5年(2023年)10月15日(日)18:00(日本時間)に、医学物理学と放射線技術学に関する国際誌''Radiological Physics and Technology(レディオロジカル フィジックス アンド テクノロジー)''にオンライン掲載されました。




【本件のポイント】
●発がん性物質を含まない安全・安心・快適な「サージカルスキンマーカー」を開発
●現在皮膚マーカーとして使用されている油性マジックよりも、描いた線の耐久性が高く、合併症も起こらないことを確認
●子どもにも使用できる、より安全な皮膚マーカーとして、臨床現場での活用に期待

【本件の背景】
放射線治療や手術の際、治療の位置を正確に把握するため、皮膚にマーカー等で印をつける必要があります。こうした皮膚マーカーとして、一般的な油性マジック、水転写シール、仮タトゥーなど、さまざまなものが医療現場で用いられていますが、放射線治療でも消えない耐久性と、安全性などの面でそれぞれ欠点があります。
かつては、マーカーの耐久性を高める目的で、消毒効果があり着色性も高いメチルロザニリン塩化物を主成分とした専用の皮膚マーカーペンが、国内外で広く用いられてきました。しかし、近年、メチルロザニリン塩化物を含有する医療用医薬品には、発がん性があるとWHOとカナダ保健省が指摘し、日本でも令和4年度(2022年度)末に製造・販売が停止されました。
その影響を受け、日本では油性マジックや、自然由来の成分のみで作られたインクのペンが使用されていますが、皮膚に合併症が生じた事例も報告されています。含有成分の情報が全て開示されており、安全で、なおかつ、性能と利便性も高い皮膚マーカーの開発が急務となっています。

【本件の内容】
研究グループは、早川ゴム株式会社と共同で、医薬部外品原料規格に掲載されている安全な化粧品材料から、発がん性物質を含まない皮膚マーカー「サージカルスキンマーカー」を開発し、インクのにじみや線の耐久性試験(消えるまでの時間)、臨床試験(患者に使用して問診、視診)による評価を行いました。
耐久性試験では、油性マジックとサージカルスキンマーカーを同時に塗布し、線が消えて見えなくなるまでの時間を比較した結果、油性ペンは平均3.6日で視認できなくなるのに対し、サージカルスキンマーカーは平均7.2日間にわたり視認できました。また、臨床試験では、56人の放射線治療患者の皮膚に3カ月間マークを描き、症状や皮膚変化を観察した結果、油性マジック等では報告されていた合併症が1例も見られず、安全に使用できることがわかりました。
描くとき(医療従事者側)、描かれるとき(患者側)の感触に合わせてペン先も改良しており、今後臨床の現場での活用が期待されます。
なお、開発したサージカルスキンマーカーは、令和5年(2023年)4月11日に「皮膚マーカー用インキおよび皮膚マーカー」(出願番号:特願2023-064029、発明者:門前一、宮崎紘平)として特許出願を行っており、今後製品化を目指します。

【論文概要】
掲載誌:Radiological Physics and Technology
    (インパクトファクター:1.6@2022)
論文名:
Development and evaluation of a novel water-based pigment marker for radiation therapy skin marking
(放射線治療皮膚マーキング用の新規水溶性マーカーの開発と評価)
著者 :中山真一1、廣瀬瑞樹1、金重総一郎1、中村憲治2、松尾幸憲3、門前一1,2*
    *責任著者
所属 :1 岡山中央病院放射線がん治療センター、2 近畿大学大学院医学研究科医学物理学専攻、3 近畿大学医学部放射線医学教室(放射線腫瘍学部門)

【研究の詳細】
外科手術や心臓カテーテル治療、腎生検や髄液検査の際、目印として皮膚マーカーで患者の身体に直接マーキングします。しかし、メチルロザニリン塩化物を含むマーカーは、安全性が担保できないため使用できず、油性マジックを使用せざるをえなくなっています。油性マジックの主成分は、染料とアルコール系有機溶剤、樹脂と添加物であり、特に子供の患者のデリケートな肌においては、ミミズ腫れや赤み・痒みが生じ、ステロイドを塗布しなければならない症例も報告されています。
そのため、研究グループは、既存のマーカーペンの成分からメチルロザニリン塩化物を除き、化粧品原料や食用素材を主原料として、発がん性を含まない成分で子供にも安全に使用できるサージカルスキンマーカーを開発しました。
油性マジックとサージカルスキンマーカーの耐久性を比較した結果、油性マジックは平均3.6日で消えてしまうのに対し、サージカルスキンマーカーは平均7.2日間視認でき、線を描いた後に水を噴霧してもにじまないことを確認しました。放射線治療は、治療期間が数日から2カ月と長期にわたるため、入浴しても線がにじまず消えにくいことは大きなメリットとなります。また、3カ月間にわたって56人の放射線治療患者の皮膚にマークを描き、症状や皮膚変化を観察しましたが、合併症は1例も見られませんでした。
描くとき、描かれるときの感触に合わせてペン先も改良したサージカルスキンマーカーは、人体への安全性や環境保全が担保されており、今後、小児科などでの治療現場でも活用されることが期待できます。

【研究者コメント】
門前一(もんぜんはじめ)
所属  :近畿大学医学部放射線医学教室(放射線腫瘍学部門)
職位  :教授
学位  :博士(保健衛生学)
コメント:発がん性物質を含まない「サージカルスキンマーカー」を、安全性と耐久性を重視して開発しました。現行の皮膚マーカーよりも優れた性能を持ち、放射線治療や手術において安心して使用できます。臨床試験では、合併症や皮膚変化の発生も確認されませんでした。この革新的なマーカーは、安全で快適な臨床現場の確立に向けた一歩であり、患者と医療提供者の安心・安全を実現する新たな選択肢となります。

【関連リンク】
医学部 近畿大学病院 教授 門前一(モンゼンハジメ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1301-monzen-hajime.html
医学部 医学科 医学部講師 宮崎紘平(ミヤザキコウヘイ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1588-miyazaki-kohei.html
医学部 医学科 教授 松尾幸憲(マツオユキノリ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2986-matsuo-yukinori.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/

▼本件に関する問い合わせ先
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TEL:06‐4307‐3007
FAX:06‐6727‐5288
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【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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