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「個人M&A」経験者に訊く
原大輝さん「個人M&Aは投資ではなく経営だ」
M&Aといえば、事業承継や会社買収を意味しますが、個人でも会社を買えます。今回はいわゆる個人M&Aについてのお話です。法人M&A仲介営業マンでトップの成績を残し、その後、個人M&Aによって承継した不動産会社の代表を務める原大輝さんにお話を聞きました。自身が個人M&Aをされた経緯を伺いつつ、個人M&Aの懸念点や心構えについて深掘りします。
個人M&Aとは何か?
ーー個人M&Aとは簡単にいうとどのようなことでしょうか?
「主に個人事業や中小企業の株式をオーナー経営者から買取して自らが経営を行うことを意味します。
株式を買うという点では、例えばトヨタなどの上場株式を証券会社から購入するのと変わらないのですが、個人M&Aは原則的には【発行済株式の全てを取得する】という点で上場会社の株式購入とは大きく異なります。
また個人M&Aの対象となる事業や企業は、経営者と株主が一致している(オーナー経営者である)ケースがほとんどであるため、原則的には株式取得後は自ら経営を行わなければ事業及び企業が動きません。また株式取得後に第三者へ譲渡することは容易ではなく流動性は低いことから、キャピタルゲインを目的とするのであれば不向きです。
【自ら経営者になって対象となる事業や企業を成長させたい】という事業意欲を持たなければ成立しないのが、個人M&Aの大きな特徴だと言えます」
ーー個人M&Aの魅力とは何でしょうか?
「事業立ち上げ時の苦労をしなくてよいという点です。例えば、ゼロから飲食店を経営する場合、店舗を借りて、敷金礼金を払って、従業員を集める必要がある。膨大な時間とイニシャルコストが掛かるのが一般的です。
それが個人M&Aで事業承継すれば、それらが既にそろったところから始められます。スピードを買えるのがメリットです。早く経営者になりたい人にとって、個人M&Aは有効だと捉えています」
ーーいくらぐらいからM&Aの案件はあるのでしょうか
「よく聞かれるのですが、備忘価格の1円から数億円規模まで幅広くあります。中には売上数億円で1円の案件もあります。M&A総合支援プラットフォームがいくつかあるので、一度サイトなどを見るとイメージが湧きやすいかと思います。
ただし安ければ良いという話ではなく、その金額が適正かどうかの判断が重要です。安いには安い理由があります。例えば1円で売り出されている案件は借入が大きく膨らんでおり赤字体質、債務超過と財務内容が非常に厳しい会社であるなどの理由です。
個人M&Aと上場企業の株式を同じ目線で考えてはいけません。上場企業の株式は取得しても会社の借入などに対する責任は発生しませんが、個人M&Aは【既存借入に対する連帯保証人にならなければならない】という大きな責任が発生します。よって1円で会社を買えたとしても、一緒に借入連帯保証が数百万円~数億円で付いてくるなど…ということになります。
よって個人M&Aは買取金額の大小よりも、その価格とリスク、財務内容が見合っているかの判断が重要になります。M&Aは大きな責任とリスクがついて回るため、様々な知識が必要であり、専門家に相談しながら進めていく必要があるということを理解した方がよろしいかと思います」
どんな案件が買いか?
ーー法人M&Aの仲介をされてきた視点からもお伺いしたいのですが、「この案件は買い!」というのはどのような案件でしょうか
「買い手としては、自分の得意とする分野の事業が良いということになります。M&A後は自身で経営をして会社の利益を上げなければなりませんので、当然ながら得意分野で勝負する方が勝算は高くなるかと思います。
あとは買取検討している会社について、現時点で会社を清算廃業した場合に現金がいくら残るか、という観点で検討するのも一つの方法です。決算書の貸借対照表にある『純資産』がそれに近い金額となりますが、分かりやすくいうと【買取金額が純資産よりも大幅に下回っていれば割安】となります。
例えば、純資産が1,000万円の会社を300万円で買えたとして、その会社の事業をすぐに畳んだとしたら、税金で引かれたとしても600~800万円近くの現金が残るので、差分とし300万円~500万円の利益が出ることになります。この考え方は不動産に近い発想ですが、分かりやすい考え方だと思います。
ただし会社は従業員や取引先など様々な利害関係者がいるので清算廃業することは簡単ではありませんし、清算廃業する場合にも商品などが一般価格で販売できず、最終的には想定しているほどお金は残らない…ということもあり得ると思いますので、本当に清算廃業することを推奨している訳ではないことをご理解ください」
ーーそういった明らかに「買い」の案件は少ないのではないのでしょうか?
「一般的には買取金額は【純資産+営業利益の1~3年分(のれん)】が目安と言われていますので、買取金額が純資産を下回る案件はそれほど多くないと思います。
ただしよくあるケースとして、売り手の健康状態が不安定である場合や借入金が大きく連帯保証が膨大で先行き不安という企業などは純資産以下での売却もあります。
あくまで個人M&Aは明確な金額算出のルールがある訳ではないので、最終的には交渉の上で決定されます。交渉段階では、買取金額の根拠を売主もしくはM&A仲介担当者に確認することと、なぜ売却を検討しているかなどを聞いてしっかりと分析することが大切です」
ーーどのような人なら利益を生み出せますか?
「私の中では2つ条件があります。1つは事業内容を理解していること、もう1つは最低限の会計知識があることです。私自身、最初に就職した住宅メーカーで宅地建物取引士の資格を取り不動産業を学び、転職先のM&A仲介の会社で会計知識を身につけました。その経験があったので、自身で経営に挑戦しても上手くできる可能性が高いと判断し、不動産会社を個人M&Aしています」
個人M&Aはオススメしない?
ーー現在の会社を継承しようと考えたきっかけや決断した理由などを教えてください
「私の前職のM&A会社は、日本で最も年収が高い企業の1つであり、日本一の営業マンが集まっている会社だと認識していました。『この会社でNo.1になったら辞めよう』と決めて入社をしていて、将来的には経営者になりたいと考えていました。
ただ、いろんな社長の話を聞いていく中で、一から起業することの大変さを痛感し、そこから個人M&Aで起業することを検討しはじめました。
やがては運も重なって営業成績No.1になることができ、年収もサラリーマンで1億2千万円以上頂きました。サラリーマンとしては目標の位置に到達できましたので、本格的に経営者になりたい意欲が高まってきました。その時にちょうどM&A仲介の売却でお手伝いしていた社長から、会社を清算廃業することを考えているが原さんが事業承継するのはどうだ? という冗談半分の話を頂きました。その話をお受けして、現在に至ります」
ーーそこで買ったのが現在代表を務められている不動産会社ですね。オーナーとなってみて「こんなはずでは」と思ったことはありますか?
「一つ具体的な例を挙げるとすれば、キャッシュフロー(資金繰り)と会計上の数字は全く違うということです。
私自身、前職のM&A仲介担当者として決算書を数百社見ていたので会計知識を十分に備えていると自負していたのですが、経営者目線と金融機関やM&A仲介担当のようなコンサルタントでは大きな乖離があることに気づきました。
不動産会社を引き継ぐ前には、役員報酬や広告宣伝費などをカットすることで経費を下げて利益を出せると簡単に考えていました。しかし実際に経営を行うと想像以上に毎月預金が出ており、気付けば現預金残高が想像以上に減っていくことに気づきました。
運転資金の借入元金返済や販売用不動産の原価計上で現預金が経費以上に流出していたのです。さらに不動産売買業なので売上がゼロの月もあります。運悪く2ヵ月ゼロが続き現預金がどんどん減ってきた時にはしばらく不安で夜眠れなかった経験もあります。
会社が倒産するのは大赤字を出した時ではなく、現預金がなくなったときです。黒字倒産という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、弊社もこのままでは会社とともに全員沈没してしまうと思い、断腸の想いで固定費を削ることに着手しました。この時、前社長も後継者不在だけでなく、ビジネスモデルに対して既存のやり方だと頭打ちになっていること、先行きが見えないことから売却判断をしたのだと真意を感じとりました。
私は大きなビジネスモデルのチェンジをして、地域密着型の不動産ではなく、中古住宅を扱う業態に変えました。それが今のところはうまくいっており、継承して1年ですが、すでに半期で前年度の売上1年分をほぼ達成しています。常に現状を見ながら、現預金を守り抜くことに邁進しています」
ーーこの判断は原さんだからこそできたのかもしれませんね
「私の場合は、お客様はもちろん、従業員の皆さんや協力業者さんなど様々な方に助けられて何とかなりました。正直なお話をすると、個人M&Aは相当なリスクを覚悟し、その上でも経営をやってみたいという熱意のある方以外は、オススメできるものではありません。事業に関する知識や経営に関するスキルを満たさずに個人M&Aを実行してしまうと、気付いた時にはお金を失い借金だけが残る…という可能性が高いと思います。
しかし、それでも経営をやってみたい! という意欲の高い人にとって個人M&Aはとても有効な選択肢だと思いますので、興味のある方は専門家に相談しながらご縁のある案件を探されると良いかと思います」
ーー本日はありがとうございました
個人M&Aの魅力について話を伺うべく企画された今回のインタビューですが、まさかの事態、原さんから「個人M&Aはオススメしない」との発言が飛び出しました。「300万円で会社を買おう!」とうたって、あたかもM&Aが楽な投資であるかのように喧伝されたこともありましたが、それについても原さんは「大企業の管理職を経験していたら大丈夫、などと気楽に考えないほうがよい」と警鐘を鳴らします。
事業承継は、投資したい人よりも経営者になりたい、複数事業を展開したいといった志向を持つ人向けといえるかもしれません。
『日本一の営業 元大手M&A仲介会社勤務全国年収一位サラリーマンの思考回路 ペーパーバック』Independently published (2022/11/19)刊
■原大輝氏プロフィール
株式会社ダイエーホーム代表取締役。 早稲田大学 卒業後、大手住宅メーカーに就職し、 営業で同期トップを 飾るが、 より高みを目指して大手M&A仲介会社に転職。最初の1年は全く契約が取れなかったが努力を続け、2年目で初めて契約を獲得。 6年目に年収1億円を超える。トップの営業成績を残した直後に、福島県郡山市の不動産会社( 株式会社ダイエーホーム )の全株式を取得し社長に就任、現在に至る。
interview&text:Shota Ogawa
取材:2023年3月24日
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