東京医科大学分子病理学分野(学長:林由起子/東京都新宿区)黒田雅彦主任教授、沈彬客員講師、乳腺科学分野 石川孝主任教授、上田亜衣講師、人体病理学分野 長尾俊孝主任教授らを中心とした米国コーネル大学との国際共同研究グループは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、乳がん患者の針生検組織画像データから、術前化学療法の治療効果を高い精度で予測する人工知能(AI)モデルを世界に先駆けて開発しました。この研究成果は、乳がん術前化学療法の治療効果予測に、新しい人工知能技術が有効であることを示し、乳がんの術前化学療法における個別化医療の導入に貢献することが期待されます。
【概 要】
東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区) 分子病理学分野 黒田雅彦主任教授、沈彬客員講師、乳腺科学分野 石川孝主任教授、上田亜衣講師、人体病理学分野 長尾俊孝主任教授らを中心とした、米国コーネル大学との国際共同研究グループは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、乳がん患者の針生検組織画像データから、術前化学療法の治療効果を高い精度で予測する人工知能(AI)モデルを世界に先駆けて開発しました。
本研究では、治療前の乳がん針生検組織のH&E染色画像から、複数のディープラーニングとマシンラーニング技術でがん組織とがん細胞の形態学的特徴を捉え、最終的にマルチAIパイプラインを構築することで術前化学療法の治療効果を高精度(95.15%)に予測する結果を得ました。
この研究成果は、乳がん術前化学療法の治療効果予測に、新しい人工知能技術が有効であることを示し、乳がんの術前化学療法における個別化医療の導入に貢献することが期待されます。
本研究成果は、英国・アイルランド病理学会の学術誌The Journal of Pathology: Clinical Research誌にオープンアクセス論文として2023年3月10日に掲載されました。
【本研究のポイント】
・乳がん患者の術前化学療法治療開始前の針生検HE画像を利用し、治療後効果を高精度で予測できました。
・ディープラーニングやマシンラーニングの技術により、がん組織とがん細胞の形態学的情報の抽出・解析に成功しました。
・マルチAIパイプラインで予測精度を向上でき、臨床的応用への可能性を導きました(図1)。
【研究の背景】
乳がんは、世界で1番多い悪性腫瘍とされ、国内では、毎年約9.7万人が乳がんと診断され、約1.4万人が死亡しています。近年、乳がんの治療は飛躍的に進歩しており、特に局所進行乳がんに対しては術前化学療法が一般的な治療法となっています。術前化学療法により腫瘍組織が縮小し、乳房温存率の向上や再発・転移の予防が期待できる一方、術前化学療法が無効の場合、腫瘍の増大や病勢進行のリスクがあります。現在では、乳がんのサブタイプ以外に、術前化学療法への感受性を示す明確な因子が特定されていません。そこで、治療効果を正確に事前予測することは治療戦略の構築には不可欠となります。一方現在は、人工知能技術、デジタル病理画像解析技術の発展により、人間の目では確認できない組織や細胞の特徴を捉え、人工知能モデルによる予後予測研究が世界的に行われています。しかし、がん組織は非常に多様性があり、単一の人工知能モデルでは予測精度が制限されます。
【本研究で得られた結果・知見】
今回の研究では、がん組織とがん細胞の特徴にそれぞれ合わせた人工知能技術を利用し、病理形態学的情報の抽出・解析に成功しました。また、世界で初めて乳がん術前化学療法に対して、複数の人工知能技術を融合したマルチAIパイプラインによる治療効果予測の有効性が示されました。今後の臨床応用に向けて人工知能を活用する場面での有効な方法論が示され、乳がんの術前化学療法において個別化医療の導入に貢献することが期待されます。
【今後の研究展開および波及効果】
病理学的画像のみならず、今まで個別に検討してきた分子診断結果・放射線画像・臨床情報などの医療情報を統合化し、より高度な判断を行える診療補助システムの開発を目指します。
【用語の解説】
マルチAIパイプライン:複数の人工知能モデルを組み合わせることで、より高い予測精度や性能を実現するためのシステムです。
【掲載誌名・DOI】
・掲載誌:The Journal of Pathology: Clinical Research
・DOI:10.1002/cjp2.314
【論文タイトル】
Development of multiple AI pipelines that predict neo-adjuvant chemotherapy response of breast cancer using H&E-stained tissues
【著 者】 *責任著者
Bin Shen, Akira Saito, Ai Ueda, Koji Fujita, Yui Nagamatsu, Mikihiro Hashimoto, Masaharu Kobayashi, Aashiq H. Mirza, Hans Peter Graf, Eric Cosatto, Shoichi Hazama, Hiroaki Nagano, Eiichi Sato, Jun Matsubayashi, Toshitaka Nagao, Esther Cheng, Syed AF Hoda, Takashi Ishikawa, Masahiko Kuroda*
【分子病理学分野ホームページ】
https://tmumolpathol.sakura.ne.jp
【主な競争的研究資金】
本研究は、独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援を受けています。
○研究内容に関するお問い合わせ先
東京医科大学 分子病理学分野
主任教授 黒田雅彦
TEL: 03-3351-6141(代表)
E-mail: kuroda@tokyo-med.ac.jp
○取材に関するお問い合わせ先
学校法人東京医科大学 企画部 広報・社会連携推進室
TEL: 03-3351-6141(代表)
E-mail: d-koho@tokyo-med.ac.jp
大学HP:
https://www.tokyo-med.ac.jp/
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/