【東京医科大学】マクロライド系抗生物質アジスロマイシンのオートファジー阻害活性における分子機構の解明に成功 ~ 今後のアジスロマイシンのがん治療応用に期待 ~



 東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)生化学分野 宮澤啓介主任教授、高野直治准教授を中心とする研究グループは、マクロライド系抗生剤のアジスロマイシン(AZM)を固相化した機能性磁性ナノビーズを用いることで、AZMが結合する細胞内タンパク質の分離・同定を試み、AZMが細胞骨格タンパク質であるケラチンおよびチューブリンと分子間結合することによりオートファジー阻害活性が誘導されることを明らかにしました。本研究は、AZMのオートファジー阻害活性を利用した新しいがん治療開発を行う際の、重要な基盤研究となると考えられます。




【概要】
 東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)生化学分野 宮澤啓介主任教授、高野直治准教授を中心とする研究グループは、これまでマクロライド系抗生物質が本来の抗菌活性とは独立してオートファジー阻害効果を有することに着目し、がん細胞の生存・増殖に不可欠なオートファジーをマクロライド系抗生剤のアジスロマイシン(AZM)で阻害することで、種々のがんの分子標的薬やDNA障害性抗がん剤の抗腫瘍効果を増強することを報告してきました。しかし、AZMが何故オートファジー阻害活性を発揮するのか、その分子機序は長らく不明でした。今回、同グループはAZMを固相化した機能性磁性ナノビーズを用いることで、AZMが結合する細胞内タンパク質の分離・同定を試み、AZMが細胞骨格タンパク質であるケラチンおよびチューブリンと分子間結合することによりオートファジー阻害活性が誘導されることを明らかにしました。現在、臨床の現場で用いることのできるオートファジー阻害薬は抗マラリア薬であるハイドロキシクロロキンしかありませんが、AZMがハイドロキシクロロキンに匹敵するオートファジー阻害活性を持ち、かつ、細胞毒性が低く抑えられていることも明らかとなりました。さらに、がん細胞を皮下に移植したマウスにAZMを経口投与したところ、移植された腫瘍の成長が対象群に比べ抑えられることも明らかとなりました。本研究は、AZMのオートファジー阻害活性を利用した新しいがん治療開発を行う際の、重要な基盤研究となると考えられます。
 本研究成果は 2023年3月4日に国際科学雑誌「British Journal of Cancer」に掲載されました。

【本研究のポイント】
●アジスロマイシンが細胞骨格タンパク質であるケラチンおよびチューブリンとの相互作用を介してオートファジー阻害効果を発現します。
●これら細胞骨格タンパク質との相互作用を介してアジスロマイシンはリソソーム内の加水分解酵素の成熟を阻害し、リソソームの分解機能を抑制することでオートファジー活性を阻害することが明らかとなりました。
●アジスロマイシンはハイドロキシクロロキンと同等のオートファジー阻害活性を同濃度で発揮しますが、細胞毒性は低く抑えられていることも明らかとなりました。
●皮下に腫瘍を移植された免疫不全マウスにアジスロマイシンを経口投与すると、腫瘍の成長が対照群に比べ抑制されました。

【研究の背景】
 オートファジーは細胞内のタンパク質や小器官を二重脂質膜で包み込み(オートファゴソーム形成)、これをリソソームに輸送して膜融合し、オートファゴソームの内容物をリソソーム内の加水分解酵素で分解処理する一連のプロセスです。細胞内のタンパク質はオートファジーによりアミノ酸レベルまで分解され、新規のタンパク質合成の材料としてこれらアミノ酸はリサイクルされることから、生体が生存する上で欠かせない分子機構の1つです。がんもまたオートファジーを利用して成長し、薬剤耐性を獲得することも明らかとなってきています。これにより、オートファジーの抑制が、がんの治療標的となりうる可能性が以前より示されています。しかし、これまで臨床の現場で使用可能なオートファジー阻害薬は抗マラリア薬の1つであるハイドロキシクロロキンしか存在せず、副作用の観点からより安全性の高い他の薬剤が望まれていました。本研究では、長らく臨床で用いられてきた抗生物質の1つアジスロマイシンに強力なオートファジー阻害活性があることに着目し、どのようにオートファジー阻害活性が誘導されるのか、その分子機序を明らかにすることを目指しました。

【本研究で得られた結果・知見】
図1.AZM結合タンパク質の単離
がん細胞抽出液と、磁性体ナノビーズに固相化したアジスロマイシンを混ぜ、ビーズに結合したタンパク質を回収し、銀染色にて可視化した図。質量分析装置を用いて、矢印で示したバンドに含まれるタンパク質が、ケラチン(KRT18, KRT7/8), とチューブリン(TUBA1A, TUBB) であることを明らかにした。

図2.KRT18ノックダウンによるオートファジーの阻害
細胞内成分を包み込んだオートファゴソームはリソソームへと輸送され、リソソーム内の加水分解酵素群で分解処理される。オートファジーの分解基質p62ならびにオートファゴソーム膜成分のLC3B-IIもオートファジーの一連のフラックス(流れ)の中で同様に分解を受ける。AZM結合タンパク質の一つとして同定されたケラチン18について、shRNAを用いてKRT18遺伝子をノックダウンしたところ(#1~#3)、p62およびLC3B-IIが蓄積していることから、オートファジーが阻害されている様子がウェスタンブロッティングで明らかとなった。また、リソソーム自体もオートファジーで分解・再生されることから、オートファジーが止まることでリソソーム膜成分であるLAMP2も蓄積していることが示されている。

図3.コントロール(cont)およびAZM処理によるリソソームの細胞内動態の変化の解析
遺伝子導入によりLAMP1-EGFPを発現させ、リソソームが蛍光タンパク質で標識された細胞にAZM処理を行い、チューブリン上を移動するリソソームの細胞内動態を解析した。個々のリソソームの軌跡が青~赤に色分けされた線で示されている。下の図では、リソソームの動く速さ(track mean speed)と移動距離(track displacement)をまとめた。AZM非添加のコントロールと比較してAZM添加によりリソソームの移動速度・移動距離が抑制されていることが明らかとなった。これによりオートファジーのフラックス(流れ)が抑えられていることが示されている。

図4.アジスロマイシンによるリソソーム酵素の阻害
各種がん細胞株(肺癌細胞A549, 乳癌細胞MCF7, 腎癌細胞293T, 副腎皮質腺癌細胞SW13)にAZM処理を行うことで、がん細胞内のリソソーム酵素のカテプシンDは、活性型 (active-CTSD)が減少し,不活型の前駆体(pro-CTSD, pre-CTSD)が増加した(試験管内実験のみに使用可能なオートファジー阻害剤bafilomycin A1(BafA1) を「陽性コントロール」として使用している)。これによりAZMはリソソームの酵素活性を抑制していることが示された。

図5.アジスロマイシンの経口投与による抗腫瘍効果
免疫不全マウスの皮下に癌細胞株を移植し、対照群(cont)とAZM経口投与群間で、腫瘍の成長を比較した。AZMの経口投与によりマウスに移植された癌細胞の増殖が抑制されていることが示された。

図6.アジスロマイシン投与による腫瘍内のp62の蓄積
対照群とAZM経口投与群のマウスから取り出した腫瘍の組織切片を用いて免疫染色法によりオートファジーの分解基質であるp62の蓄積量を比較した。(緑色に光っているシグナルがp62由来のシグナル。青色は核由来のシグナル。) AZMによりオートファジーが阻害されることで腫瘍組織内でp62が蓄積されていることが示された。

【今後の研究展開および波及効果】
 本研究では、アジスロマイシンがどのようにオートファジー阻害活性を示すのか、その作用機序を明らかにしました。また、他のオートファジー阻害薬であるハイドロキシクロロキンと同等のオートファジー阻害活性を持つことや、がん細胞の皮下移植により腫瘤を形成しているマウスにアジスロマイシンを経口投与することで、抗腫瘍効果を発揮することを示しました。本来、抗菌薬として臨床使用されているアジスロマイシンには強力な抗腫瘍効果は当然ありません。しかし、オートファジー阻害活性に着目すると、様々ながんの分子標的薬や抗がん剤との併用により抗腫瘍効果を強力に増強することが先行研究で示されています。それゆえ、阻害活性が高くより安全なオートファジー阻害剤が臨床の現場では求められています。本研究は、今後のオートファジーと細胞骨格タンパク質との関連性に関する基礎研究やアジスロマイシンのオートファジー阻害剤としての臨床応用展開に重要な足掛かりとなる研究成果と考えられます。

【掲載誌名・DOI】
掲載誌名:British Journal of Cancer
DOI:10.1038/s41416-023-02210-4

【論文タイトル】
Azithromycin, a potent autophagy inhibitor for cancer therapy, perturbs cytoskeletal protein dynamics

【著者】
Naoharu Takano*, Masaki Hiramoto, Yumiko Yamada, Hiroko Kokuba, Mayumi Tokuhisa, Hirotsugu Hino, and Keisuke Miyazawa* (*責任著者)

【主な競争的研究資金】
・ 文部科学省 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 (S1411011)
・ 科研費 (17K15031, 20K07298)
・ AMED 橋渡し研究戦略的推進プログラム (JP18lm0203004)
・ 公益財団法人 東京医科大学がん研究事業団

【関連HP】
東京医科大学(生化学分野内)分子標的探索センター
https://www.tokyo-med.ac.jp/target/


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企画部 広報・社会連携推進室
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TEL:03-3351-6141
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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