日本で発生事例のないベゴモウイルスを沖縄のトマトで特定 日本各地のトマト産地における海外からのウイルス侵入に警鐘



近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)博士前期課程2年 谷口 満理奈、准教授 小枝 壮太らの研究グループは、世界的にトマト生産の脅威となっているベゴモウイルス※1 について研究しています。そのなかで、日本ではこれまで報告のなかったベゴモウイルスが、海外から沖縄に侵入したことを初めて確認しました。さらに、このウイルスが日本国内に既に分布しているベゴモウイルスと比較して病原性が強く、ウイルス抵抗性のあるトマト品種においても、被害を拡大する懸念があることも明らかにしました。




本研究に関する論文が、令和4年(2022年)11月2日(水)AM10:00(日本時間)に植物病理学分野の国際学術誌''Journal of General Plant Pathology''にオンライン掲載されました。


【本件のポイント】
●沖縄県で生産されているトマトから、日本で報告事例のないベゴモウイルスを初めて特定
●特定したベゴモウイルスは、生産現場で栽培されているウイルス抵抗性トマト品種においても病気を引き起こしやすい特徴を持つことを明らかにした
●海外から日本各地のトマト産地へのウイルス侵入に警戒する重要性を示唆

【本件の背景】
現在、ベゴモウイルスには445もの種類があります。トマト、トウガラシ、キュウリ、メロン、カボチャ、ズッキーニ、オクラ、マメ類など多くの農産物が、このウイルスに感染すると果実をほとんど収穫できなくなるなど、農業生産において世界的な脅威となっており、甚大な経済的被害を引き起こしています。
ウイルスの感染は、タバココナジラミとよばれる昆虫により媒介されるため、生産現場では殺虫剤の散布によって対策してきました。しかし、過剰な殺虫剤の使用により、現在では殺虫剤が十分に効かないタバココナジラミが世界各地で発生しています。1990年代には、トマトに黄化葉巻病※2 を引き起こすベゴモウイルスであるTYLCV※3 が、イスラエルから日本、欧州、北米へ同時多発的に侵入し、生産農家を苦しめてきました。
世界的な研究の推進により、ようやくトマトのTYLCV抵抗性遺伝子が特定され、ウイルス抵抗性品種の育種も進んでいます。しかし、TYLCVとは別種のベゴモウイルスが海外から日本に侵入し、被害を拡大する可能性が危惧されてきました。

【本件の内容】
研究グループは、沖縄県の生産農家で行った調査において、TYLCV抵抗性のトマト品種がベゴモウイルスを原因とする黄化葉巻病を発症していることを発見しました。そこで、トマトに感染しているベゴモウイルスの全ゲノム配列を解読したところ、日本では発生事例のないLELCV※4 が感染していることが明らかになりました。また、ウイルス抵抗性トマト品種に今回発見したLELCVを接種したところ、日本に既に分布しているTYLCVよりも病原性が強いことがわかりました。さらに、LELCVとTYLCVが複合感染すると、抵抗性トマト品種における症状が重篤化することも明らかにしました。
本研究成果は、海外からの新しいウイルスの侵入を常に警戒し、侵入を確認した際にはウイルスの特性を迅速に明らかにして、被害拡大に備えることの重要性を示しています。また今後は、LELCVなどの病原性の強いベゴモウイルスに抵抗性を示すトマト品種の育種に向け、研究を進めていく予定です。

【論文掲載】
掲載誌 :Journal of General Plant Pathology
     (インパクトファクター:1.217@2021-2022)
論文名 :
Lisianthus enation leaf curl virus, a begomovirus new to Japan, is more virulent than the prevalent tomato yellow leaf curl virus in Ty-gene-mediated resistant tomato cultivars
(新たに日本に侵入したLELCVは既に国内に分布しているTYLCVよりも抵抗性トマト品種で強い病原性を示す)
著者  :谷口 満理奈 1、関根 健太郎 2、小枝 壮太 1※
     ※ 責任著者
所属  :1 近畿大学大学院農学研究科、2 琉球大学農学部
論文掲載:https://doi.org/10.1007/s10327-022-01101-5
DOI  :10.1007/s10327-022-01101-5

【本件の詳細】
ベゴモウイルスのうち、日本にはTYLCV-IL(イスラエル)系統、およびMld(マイルド)系統が平成8年(1996年)に海外から侵入し、トマト黄化葉巻病を引き起こして生産に大きな被害を及ぼしてきました。これに対して、トマトではウイルスのDNA複製を抑制することに関わる酵素をコードするTy-1、Ty-3、あるいはTy-3aのいずれかのベゴモウイルス抵抗性遺伝子を持つ品種が世界的に利用されており、TYLCVの防除に大きく貢献しています。一方で、研究チームは先行研究において、東南アジアにはTy-3aによる抵抗性が有効に働かない、強い病原性を有するベゴモウイルスが分布していることを報告しています。
本研究では、沖縄県で栽培されていたTy-3aを有するTYLCV抵抗性トマト品種が、黄化葉巻病を発症していることを発見しました。TYLCVが感染した場合よりも重度の症状を示していたことから、感染しているベゴモウイルスの全ゲノム配列を単離して解読したところ、日本では報告事例のないLELCVが感染していることを明らかにしました。LELCVは、台湾においてトマト、トルコギキョウ、カボチャなどに感染することが報告されているウイルスです。ウイルスの遺伝子配列を比較解析した結果、何らかの経路で台湾から沖縄にLELCVが侵入した可能性が示唆されました。
また、単離したLELCVと、日本に既に分布しているTYLCV-ILおよびTYLCV-Mldを、Ty-2やTy-3aを有する抵抗性トマト品種に接種したところ、LELCVに対してTy-2をもつ品種は全く抵抗性を示さず、Ty-3aを有する品種でも軽度の病徴を示すことを確認しました。さらに、生産現場で見られるようなLELCVとTYLCV-ILの複合感染を再現したところ、Ty-3aを有するトマト品種で病徴が重篤化し、生育も悪くなることを明らかにしました(図1)。
このことから、海外からの新しいウイルスの侵入を常に警戒し、侵入を確認した際にはウイルスの特性を迅速に明らかにすることが重要であると考えられます。


【今後の展開】
今回の研究で、これまでに日本で感染事例のないLELCVを特定しました。さらに、LELCVに感染することで、TYLCVに抵抗性を持つトマト品種でも発病することが明らかとなり、生産現場での被害が拡大する可能性が示唆されました。一方で、トマトでは複数の抵抗性遺伝子が報告されているため、今後はLELCVのような強病原性のベゴモウイルスに対しても安定した抵抗性を示す品種育成を進めることで、トマトの安定生産に貢献したいと考えています。

【研究者のコメント】
氏名  :小枝 壮太
所属  :近畿大学農学部農業生産科学科
職位  :准教授
学位  :博士(農学)
コメント:
トマト生産で大きな被害を引き起こしてきたTYLCVは海外から侵入したウイルスです。今回のLELCVの事例のように、今後も新しいウイルスが侵入し、広がってしまう可能性は大いにあります。海外で起きている被害を対岸の火事と考えずに、早期発見、広がった場合にも直ちに対応できる準備をしておくことが大切だと感じています。今後も、野菜生産におけるウイルス病の防除に役立つ研究を進めていきたいと考えています。

【研究支援】
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究B(19H02950)、国際共同研究強化(B)(21KK0109)(研究代表者:小枝 壮太)の支援を受けて実施しました。

【用語解説】
※1 ベゴモウイルス:一本鎖環状DNAをゲノムに持つウイルスで、世界各地での農業生産に大きな経済的被害を与えているウイルス属。
※2 トマト黄化葉巻病:ベゴモウイルスが感染することで発症する。感染すると、葉が黄色くなっていき、巻くような症状を生じる。症状が進むと、開花しても実がつかなくなる場合が多い。
※3 TYLCV:Tomato yellow leaf curl virusの略称。イスラエルのヨルダン渓谷で初めてトマトへの感染・発病が確認され、平成8年(1996年)に日本にも初めて侵入が確認された。世界各地のトマト産地で被害を拡大してきたベゴモウイルスの一種。現在は、抵抗性品種の利用により被害が軽減されている。
※4 LELCV:Lisianthus enation leaf curl virusの略称。台湾で葉巻症状を示すトルコギキョウから初めて特定され、その後にカボチャやトマトからも単離されているベゴモウイルスの一種。TYLCVに対する抵抗性遺伝子がLELCVにも有効に作用するのかは、これまで明らかではなかった。

【関連リンク】
農学部 農業生産科学科 准教授 小枝 壮太(コエダ ソウタ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1360-koeda-sota.html

農学研究科
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/



▼本件に関する問い合わせ先
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FAX:06‐6727‐5288
メール:koho@kindai.ac.jp


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