国際宇宙ステーション上でのX線天体の国際連携観測OHMAN(オーマン)プログラム始動 -- 全天X線監視装置MAXIとNICER望遠鏡の自動連携によるX線突発天体の即時観測 --



 理化学研究所(理研)開拓研究本部玉川高エネルギー宇宙物理研究室の三原建弘専任研究員、中央大学理工学部の岩切渉助教、日本大学理工学部の根來均教授、青山学院大学理工学部の芹野素子助教、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の中平聡志主任研究開発員らの国際共同研究グループ※は、国際宇宙ステーション(ISS)上でのX線突発天体の即時観測計画OHMAN(On-orbit Hookup of MAXI and NICER、オーマン)を2022年8月10日から開始し、9月13日に連携観測に成功しました。




 OHMANとは、全天広域観測を得意とする全天X線監視装置MAXI(マキシ)[1]および狭域詳細観測を得意とするアメリカ航空宇宙局(NASA)のNICER(ナイサー)[2]という、それぞれ異なる目的で設置された国際宇宙ステーション(ISS)上の観測装置を、リアルタイムに連携させる観測計画です。ISSの利用成果最大化に向けた日米協力枠組み(Japan-U.S. Open Platform Partnership Program: JP-US OP3)のもと、2021年4月の連携に関する合意に基づき準備が進められてきました。


 従来、MAXIで観測したX線突発天体発見の情報はいったん地上にダウンリンクした上で解析され、その後得られた突発現象の情報は電子メール等で他の衛星等に伝えられ、追観測が行われてきました。そのため、X線突発現象の発見から追観測まで少なくとも3時間以上の時間がかかっていました。OHMANでは、MAXIからのデータをISS内のコンピュータで処理し、発見されたX線突発現象の情報は地上を経由することなくISS上でNICERに伝えられ、自動で追観測を行います。つまり、広域観測での発見と詳細な追観測ができる国際連携天文台がISS上に実現したことになります。これにより、発見から追観測までを10分以内に行うことができます。
 OHMANの今後の観測により、過去MAXIで検出されたのにもかかわらず、追観測で検出されていない正体不明天体(MUSST天体[3])の正体も解明できると期待されています。




※国際共同研究グループ
理化学研究所 開拓研究本部 玉川高エネルギー宇宙物理研究室
  専任研究員    三原建弘(ミハラ・タテヒロ)
  主任研究員    玉川 徹(タマガワ・トオル)
中央大学 理工学部 物理学科
  助教       岩切 渉(イワキリ・ワタル)
  (理研 開拓研究本部 玉川高エネルギー宇宙物理研究室 客員研究員)
日本大学 理工学部 物理学科
  教授       根來 均(ネゴロ・ヒトシ)
青山学院大学 理工学部 物理科学科
  助教       芹野素子(セリノ・モトコ)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所
  主任研究開発員  中平 聡志(ナカヒラ・サトシ)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)きぼう利用センター 船外利用推進担当
日本国内のMAXIチーム
  理研、JAXA/ISAS、東京工業大学、日本大学、京都大学、青山学院大学、
  宮崎大学、中央大学、愛媛大学
航空宇宙局(米国、NASA)
  ゴダード宇宙飛行センター(GSFC)
  NICERチーム代表 キース・ジェンドロー(Keith Gendreau)
  ジョンソン宇宙センター(JSC)ISSチーム




研究支援
 本研究は、2017年度JAXA/ISAS小規模プロジェクト「OHMAN-JP(On-orbit Hookup of MAXI and NICER - Japan)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(B)「MAXI即時連携で解明するMAXI未同定短時間トランジェント(研究代表者:三原建弘)」、同基盤研究(B)「MAXI発信アラートで展開する短時間X線閃光天体研究(研究代表者:三原建弘)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「重力波物理学・天文学:創世記(研究分担者:三原建弘)」、同若手研究(B)「MAXI-NICER連携で解き明かすX線スーパーバーストにおける元素合成(研究代表者:岩切渉)」、同基盤研究(C)「重力波源のX線対応天体の検出と位置決定を目指したMAXI-NICER連携の構築(研究代表者:芹野素子)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「超小型衛星とMAXI-NICER連携による定常重力波源の観測網の構築(代表者:岩切渉)」、理研基礎科学特別研究員制度(2016-2017年度:岩切渉)による支援を受けて行われました。




1.背景
 国際宇宙ステーション上で稼働している全天X線監視装置MAXIは、JAXAと理研が共同開発した「きぼう」船外実験プラットフォームに取り付けられた観測装置です。2009年8月の観測開始以来、連続観測により34個の新天体を発見し、そのうち14個はブラックホール天体でした。しかし、新天体の中には、正体不明の天体も存在します。特に、MAXIの約90分に1度のスキャンのタイミングでのみ輝き、数時間後のSwift衛星XRT装置による追観測では既に消滅しているような、急速減光天体という一群の天体があります(図1)。国際共同研究グループはこれらをMAXI未同定短時間軟X線突発天体(MUSST天体)と呼んでいます。
 近年、MUSST天体の一つは、ブラックホールもしくは中性子星[4]が恒星の核に入り込んで超新星爆発[5]を引き起こす、理論的には予測されていたがこれまでに観測されたことのなかったタイプの超新星爆発であったことが示唆されています。このように、MUSST天体はいまだかつて人類が見たことのない全く新しい天文現象である可能性を秘めています。しかし、MAXIは視野が広い一方で位置決定精度が粗く、大型の望遠鏡や天文衛星でMUSST天体の正体に迫るための詳細な観測を行うためには、より精密な位置情報が必要です。そのため、MUSST天体が消滅する前により早い追観測を行い、天体の位置を絞り込む必要がありました。





2.研究手法と成果
 MAXIの観測データはいったん地上に降りてから解析され、突発現象が出現した場合はSwift衛星等にメール等で情報を送り、追観測の依頼を出します。この一連の流れの中にはどうしても人間の作業が入るため、数時間の遅れが生じ、MUSST天体の解明には至っていませんでした。そこで国際共同研究グループは、ISSにMAXIとNICERという二つのX線天文装置が搭載されていることに着目しました。MAXIは広視野モニターで広く浅くX線突発天体を発見し、NICERは追尾型のX線望遠鏡で視野が狭く突発現象を発見する能力はありませんが、非常に深い観測ができます。現在この2台は地上からの制御で独立に動いていますが、もし、まるで特徴の違うこの2台を軌道上でつなぐことができれば、「X線帯で突発現象を発見し、X線帯で即座に詳細な追観測をする」という、お互いのデメリットを補完したイノベーティブな国際連携天文台がISS上に実現します。日本のMAXIチームとアメリカのNICERチームはその実現のためOHMAN計画を立ち上げました。
 そのためには、MAXIデータの新星発見ソフトウェアをISS上のコンピュータにインストールし、突発現象の情報を直接NICERに伝えて自動で観測するようにすることが必要です。そうすれば人の手を一切介さないので、継続時間の短い突発現象を、発生10分後から詳細に観測できます(最終目標は2分後です)。
 2020年11月からNASAジョンソン宇宙センター(JSC)のISSチームと宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「きぼう」船外利用担当によるOHMANの準備が本格化し、2022年5月26日から稼動しました。その後13日間の動作検証と2カ月半の試験運用を行い、8月10日から本格運用を行っていました。9月13日には、MAXIがペガスス座のM15球状星団からのX線バーストを発見し(図2)、その5分30秒後からNICERが自動観測を行うことに成功しました(図3)。
 今回は短いX線バーストで、NICERが追観測を行った時には既に消えていましたが、短時間での自動連携観測が実証できたことにより、今後の観測に大きく前進しました。





3.今後の期待
 今後、2022年の春から増えてきた太陽フレアに対するパラメータ調整を行うなど、更にOHMAN運用の精度を高めます。まだMUSST天体は検出されていませんが、MUSST天体の中には宇宙最初の星である初代星が起こした太古の爆発現象(未発見の初代星ガンマ線バースト)も含まれているかもしれません。また、MUSST天体の他にも、中性子星表面で発生する暴走的な核融合反応による、X線バーストの中でも特異な長い継続時間を持つスーパーバーストや、太陽フレアの数千から数億倍の規模の恒星フレアなど、これまで発生初期段階からの詳細な観測が難しかった突発現象の観測も可能になると強く期待できます。




4.補足説明
[1] 全天X線監視装置MAXI(マキシ)
国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに取り付けられた日本の観測装置。1998年に理化学研究所宇宙放射線研究室の松岡勝主任研究員が提案して採択された。現在は玉川高エネルギー宇宙物理研究室を中心として、国内12機関から成るMAXIチームのメンバーにより運用・データ解析が続けられている。2009年8月15日から全天観測を開始し、観測データは理研のウェブページ(http://maxi.riken.jp)で即時公開されている。13年間で34個のX線新星を発見し、うち14個は新発見のブラックホール天体であった。単独衛星/装置によるブラックホール星発見数は、米国のX線天文衛星(RXTE)の15個に次いで歴代第2位になった。MAXIはMonitor of All-sky X-ray Imageの略。

[2] NICER(ナイサー)
中性子星内部組成探査機のこと。国際宇宙ステーションのトラス部に搭載されたNASAのゴダード宇宙飛行センター(GSFC)のX線望遠鏡である。2017年7月から観測を開始した。運用はKeith Gendreau氏を筆頭研究者とするNASA/GSFCのNICERチームにより行われている。NICERはNeutron star Interior Composition ExploreRの略。詳細はウィキペディア(https://ja.wikipedia.org/wiki/NICER)を参照。

[3] MUSST(マスト)天体
MAXI未同定短時間軟X線突発天体のこと。ガンマ線衛星では検出されておらず、MAXIの1スキャンのみで検出された短時間軟X線突発天体(検出時の光度曲線の例を図4に示す)で、Swift衛星による追観測が行われたにもかかわらず対応天体が検出されなかったもの。正確な位置が分からなかったため可視光などでの追観測ができず、正体不明天体となっている。MUSST天体の正体は、X線フラッシュ(ガンマ線バーストのX線版)や、近傍のdMe星からのフレアかもしれない。しかし、重い白色矮星上の急速新星爆発や宇宙最初の星である初代星が起こしたガンマ線バーストのような新しい天体現象の可能性も考えられている。玉石混交のMUSST天体の中から意中の天体を選り出すには、軟X線での即時観測が必要であり、OHMANによる調査が待たれる。MUSSTはMAXI unidentified short soft X-ray transientの略。


[4] 中性子星
太陽よりも十分重い星がその寿命を迎えると、超新星爆発を起こす。星の外側部分が吹き飛ぶ一方で、その中心部分は爆縮し、中性子星となる。これは質量が太陽と同程度、半径が10km程の高密度天体で、強い磁場を持っている。自転に伴い、周期的な電磁波のパルス放射が観測される場合、パルサーと呼ばれる。

[5] 超新星爆発
質量の大きい恒星が、星内部での核融合反応の燃料を使い果たし、重力崩壊を起こして潰れると超新星爆発が起きる。超新星は可視光で明るく輝くだけでなく、X線や電波まで多波長での観測が行われ、超新星SN1987Aでは超新星ニュートリノも検出された。超新星爆発の後には、中性子星やブラックホールが残されることがあり、周囲には超新星残骸が形成される。




5.発表者・機関窓口
<発表者> ※研究内容については発表者にお問い合わせください。
理化学研究所 開拓研究本部 玉川高エネルギー宇宙物理研究室
 専任研究員    三原建弘(ミハラ・タテヒロ)

中央大学 理工学部
 助教       岩切 渉(イワキリ・ワタル)

日本大学 理工学部
 教授       根來 均(ネゴロ・ヒトシ)

青山学院大学 理工学部 物理科学科
 助教       芹野素子(セリノ・モトコ)

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
 主任研究開発員  中平聡志(ナカヒラ・サトシ)


<機関窓口>
理化学研究所 広報室 報道担当
 Tel: 050-3495-0247
 Email: ex-press [at] ml.riken.jp

中央大学
 Email: kk-grp [at] g.chuo-u.ac.jp

日本大学
 Tel: 03-3259-0514 Fax: 03-3293-7759
 Email: cst.koho [at] nihon-u.ac.jp

青山学院大学

 Tel: 03-3409-8159 Fax: 03-3409-3826
 取材申込: https://www.aoyama.ac.jp/companies/interview.html

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 広報担当
 Email: isas-kouho [at] ml.jaxa.jp

宇宙航空研究開発機構 広報部 報道取材対応窓口 
 Tel. 050-3362-4374
 〒101-8008 東京都千代田区神田駿河台4-6 御茶ノ水ソラシティ

※上記の[at]は@に置き換えてください。



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