発表のポイント
- 日本の大規模コホート研究において、果物および野菜の摂取量と全死因死亡リスクおよび特定原因による死亡リスクとの関連について調べました。
- 果物・野菜摂取量が少ないグループに比べ、果物摂取量が多いグループ、野菜摂取量が多いグループでは全死亡リスクが低いことがわかりました。しかし、摂取量が多いほどリスクが下がるという結果ではありませんでした。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、所在地:東京都中央区)と横浜市立大学(学長:相原 道子、所在地:横浜市金沢区)などで構成される研究グループは、研究開始から5年後に行った食事調査票に回答し、がん、循環器疾患、肝疾患になっていなかった約9万5千人を、平成30年(2018年)まで追跡した調査結果にもとづいて、果物と野菜の摂取量と死亡リスクとの関連を調べました。その結果、果物・野菜摂取量が少ないグループに比べ、果物摂取量が多いグループでは全死亡リスクが約8-9%、心臓血管死亡リスクが約9%低く、野菜摂取量が多いグループでは全死亡リスクが約7-8%低いことがわかりました。
本研究は、「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」(主任研究者:澤田 典絵 国立がん研究センターがん対策研究所)の成果で、研究成果は国際学術誌「Journal of Nutrition」にて発表されました(2022年6月28日WEB先行公開)。
研究背景
果物と野菜は、ビタミン、ミネラル、食物繊維、カロテノイド、ポリフェノールなどが豊富であり、主に欧米人で行われた前向きコホート研究では、果物や野菜の摂取量が多いと全死因による死亡や循環器疾患による死亡のリスクが低いことが報告されています。一方で、アジア人は、食習慣、その他の生活習慣、遺伝的背景が欧米人と異なり、果物や野菜の摂取と死亡リスクとの関係はまだよくわかっていませんでした。そこで、本研究では、果物および野菜の摂取量と全死因死亡率および特定原因による死亡率との関連を検討しました。
調査方法
平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)にお住まいだった40~69歳の方々を対象に、研究開始から5年後に行った調査の食物摂取頻度調査票を用いて、果物と野菜の摂取量と死亡リスクとの関連を調べました。
妥当性の確認された食物摂取頻度調査票から果物や野菜摂取について、一日当たりの摂取量を算出し、グループごとの人数が均等になるように5分位でグループ分けしました。それぞれ果物・野菜摂取量が最も少ないグループ(第1・五分位)を基準として、その他のグループにおけるその後の全死亡・がん死亡・心血管死亡・呼吸器疾患死亡のハザード比
※を算出しました。分析にあたっては、年齢、性別、居住地域、体格指数(body mass index: BMI)、高血圧既往の有無、糖尿病既往の有無、身体活動量、喫煙状況、飲酒状況、独居状況、婚姻状況、就労状況、食生活の影響を統計学的にできるだけ取り除きました。
研究結果
約20年間の追跡調査中に、23,687人が死亡しました。内訳は、がん死亡が8,274人、心血管死亡が5,978人, 呼吸器疾患死亡が1,871人でした。
-果物摂取について-
男女合算した全体のコホートでは、果物摂取量が最も少ないグループと比較して、多いグループでの全死亡ハザード比は第4・五分位0.91(95%信頼区間 0.87–0.95)、第5・五分位0.92 (0.88–0.96)でした(図1-A) 。原因別死亡においては、果物摂取量が少ないグループと比較して、多いグループでの心血管死亡ハザード比は第4・五分位0.87(95%信頼区間 0.79–0.94)、第5・五分位0.91(0.83–0.99)でした。男女別に解析を行ったところ、男女ともに果物摂取量が多いと全死亡リスクが低いという結果が得られました(図1-A)。また男性では、果物摂取が多いと呼吸器死亡のハザード比が低い傾向を認め(第5・五分位:ハザード比0.74; 95%信頼区間 0.61-0.90)、女性では、果物摂取が多いと心血管死亡のハザード比が低い傾向を認めました (第5・五分位:ハザード比0.84; 95%信頼区間 0.74-0.96)。
-野菜摂取について-
野菜摂取量の男女別の解析では、統計学的に有意ではありませんでしたが、野菜摂取量の多いグループで全死亡のハザード比が低い傾向を認めました。男女合算した全体のコホートでは、野菜摂取量が少ないグループと比較して、多いグループでの全死亡ハザード比は第4・五分位0.92(95%信頼区間 0.88–0.97)、第5・五分位では0.93 (0.89–0.98)であり、野菜摂取量が多いと全死亡リスクが低いという結果が得られました (図1-B)。
図1-A 果物摂取量と死亡の関連
図1-B 野菜摂取量と死亡の関連
まとめ
本研究から、果物・野菜摂取量が少ないグループに比べ、果物摂取量が多いグループでは全死亡リスクが約8-9%低く、心臓血管死亡リスクが約9%低く、野菜摂取量が多いグループでは全死亡リスクが約7-8%低いことがわかりました。
我が国では、食事バランスガイド(農林水産省・厚生労働省)で、1日350g以上の野菜摂取と1日200g程度の果物摂取が推奨されており、健康日本21(第2次)でも1日350g以上の野菜摂取が目標とされています。今回の研究では、野菜摂取量や果物摂取量の第4・五分位と第5・五分位の全死亡のハザード比が同程度で、摂取量が多いほどリスクが下がるという結果ではありませんでした。本研究で用いた食事摂取頻度調査票から摂取量を正確に推定することは困難です。しかし、今回の研究で用いた食事摂取頻度調査票から得られた結果を、一部の集団で行われたより詳細な食事記録の摂取量にあてはめて推定すると、野菜は300g以上、果物は140g以上摂取することが望ましいと考えられました。
一方、欧米を中心とした過去のコホート研究では、果物や野菜の摂取は、がん死亡や呼吸器疾患死亡の低下とも関連を認めていましたが、本研究ではそれらの関連を認めませんでした。今回のコホート研究では呼吸器疾患死亡が少なかったために、果物・野菜摂取量と呼吸器疾患死亡との関連を認めなかった可能性があります。また欧米人と比較して、がん罹患率が異なることやアジア人ではがんの原因に感染症が多いことが、果物や野菜の摂取とがん死亡との関連が認められなかった理由と考えられます。中国のコホート研究でも同様に果物・野菜摂取とがん死亡の関連が認められませんでした。果物や野菜の摂取と死亡リスクとの関連における人種差について更なる検討が必要と考えられます。
今回の研究では、約20年間の追跡期間中に起こりうる果物や野菜の摂取量の変化は考慮できていません。また、解析では、関係する要因を可能な限り統計学的に取り除いて解析しましたが、参加者の社会経済的状況等を十分に考慮に入れることができず、未測定の交絡因子の影響を除き切れていない可能性があります。
多目的コホート研究(JPHC研究)について
コホート研究とは、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、疾患の罹患率や死亡率を比較することで、要因と疾患との関連を調べる観察研究です。観察研究にはいくつかの手法がありますが、コホート研究は他の観察研究よりも時間とコストがかかる一方、曝露要因(原因)と疾病の罹患や発症(結果)を時間の流れに沿って追跡することから、因果関係を明らかにする手法としてより望ましいと考えられています。
国立がん研究センターを中心に、日本人での食習慣・運動・喫煙・飲酒等とがん・心筋梗塞・脳卒中等の関係を明らかにし、生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるために2つのコホート研究を行っています。
一つは、1990年に開始された多目的コホート研究です。戦前、戦中、戦後すぐに生まれた日本各地の約14万人を対象に、20年以上にわたって生活習慣や生活環境と疾病の発症について追跡調査をしています。全国の11保健所や国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などと共同で実施しており、日本における大規模で、かつ長期追跡を行っているコホート研究のひとつです。これまでに多数の生活習慣病における予防要因・危険要因を明らかにしています。
もう一つは、戦後の新たな生活習慣との関連についても調査するため2011年から開始した次世代多目的コホート研究になり、約11万人を対象としています。
多目的コホート研究
https://epi.ncc.go.jp/jphc/index.html
次世代多目的コホート研究
https://epi.ncc.go.jp/jphcnext/index.html
用語解説
※ハザード比
時間当たりの死亡のリスクの比。ハザード比が1を超えている場合は、その比率だけ比較対象よりもリスクが高いことを示しています。また、95パーセント信頼区間の全体が1を超えている場合は、統計学的に有意にリスクが高いと言えます。
発表論文
雑誌名: Journal of Nutrition
タイトル: Inverse Association between Fruit and Vegetable Intake and All-Cause Mortality: Japan Public Health Center-Based Prospective Study
著者名: Yuki Sahashi, Atsushi Goto, Ribeka Takachi, Junko Ishihara, Kumiko Kito,
Rieko Kanehara, Taiki Yamaji, Motoki Iwasaki, Manami Inoue, Tsugane Shoichiro, and Norie Sawada
DOI:
https://doi.org/10.1093/jn/nxac136
URL:
https://academic.oup.com/jn/advance-article-abstract/doi/10.1093/jn/nxac136/6619074?redirectedFrom=fulltext&login=true