東京医科大学が、「摂食抑制ニューロンの産生制御シグナルを解明 -- メタボリックシンドローム予防へ向けた新たな展開 --」(医学科学生も研究に参加)



 東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)組織・神経解剖学分野 大山恭司准教授、金城ありさ、中村剛(ともに同大学医学科第5学年)の研究グループは、英国Sheffield大学Place博士、Manning博士、米国Johns Hopkins大学Kim博士と日英米共同プロジェクトを推進し、その結果、ソニックヘッジホッグ(SHH) とノッチ(NOTCH)タンパク質が、POMCニューロン産生維持のカギを握るシグナル伝達因子であることを明らかにしました。その研究成果が、国際神経科学専門誌である「Frontiers in Neuroscience」に、2022年8月11日(日本時間)掲載されました。




【概要】
 メタボリックシンドロームは心筋梗塞や脳卒中などを引き起こす最も大きな健康・社会問題の一つです。その発症には食事量が深く関係し、摂食を抑制するプロオピオメラノコルチン(POMC)発現ニューロンの産生低下がメタボの一因として知られています。
 東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)組織・神経解剖学分野(主任教授:高橋宗春)大山恭司准教授、金城ありさ、中村剛(ともに同大学医学科第5学年)の研究グループは、英国Sheffield大学Place博士、Manning博士、米国Johns Hopkins大学Kim博士と日英米共同プロジェクトを推進し、その結果、ソニックヘッジホッグ(SHH) とノッチ(NOTCH)タンパク質が、POMCニューロン産生維持のカギを握るシグナル伝達因子であることを明らかにしました。
 本研究の成果は、国際神経科学専門誌である「Frontiers in Neuroscience」に、2022年8月11日(日本時間)掲載されました。本研究の成果をもとに、摂食抑制POMCニューロンを維持することにより食欲を制御し、メタボ発症を防ぐ、という新しい予防法の確立が期待されます。

【本研究のポイント】
 脳の発生において、脳室帯(VZ)に存在する神経幹細胞は、中間帯(IZ)において神経前駆細胞、辺縁帯(MZ)においてニューロンへと分化します。我々は、こうした分化の過程と発生過程における上皮―間葉転換 (EMT) との類似点に着目しました。そこでEMT関連転写因子発現の経時的変化を、我々が確立したニワトリ胚視床下部シングルセルトランスクリプトームデータベース (Kim et al. Cell Rep, 2022) を用いて解析しました。その結果、以下の点を明らかにしました。
(1) VZにEMT関連転写因子SOX9、IZにPROX1とISL1、MZにISL1とSOX11が順次発現する。
(2) SHHおよびNOTCHシグナルがこれら転写因子の発現を制御し、神経幹細胞の増殖・維持、また、POMCニューロン産生を制御する。

SHHとNOTCHによるPOMCニューロン産生制御(下図)
1) SHH、NOTCHはともに VZに存在する神経幹細胞(SOX9陽性)の増殖、維持、生存に必要である。
2) その結果、SHHはPOMCニューロン産生を正に制御する。
3) NOTCHはIZに位置する神経前駆細胞(PROX1陽性)の分化を抑制する。
4) その結果、NOTCHはMZにおけるPOMCニューロン産生を負に制御する。
5) これらの結果から、SHHシグナルの促進とNOTCHシグナルの阻害により、POMCニューロン産生が亢進することが明らかとなった。

【研究の背景】
 POMCニューロンは摂食を抑制する働きがあり、最近、POMCニューロンの産生が胎生期のみならず成体においても継続していることが明らかにされました。正常では、こうしたPOMCニューロンの持続的産生によって摂食量が制御され、恒常性が保たれます。一方、POMCニューロンの産生低下が高脂肪食の長期摂取などにより引き起こされ、その結果、摂食異常を起こしメタボの一因となることが知られています。ところが、POMCニューロン産生がどのような機序で制御されているか、その分子メカニズムに関してはこれまで明らかにされていませんでした。

【本研究で得られた結果・知見】
 本研究は、ニワトリ胚視床下部において、まず、SHHおよびNOTCHシグナルがともにSOX9陽性の神経幹細胞の増殖、維持、生存に必要であることを見出しました。一方、NOTCHシグナルを阻害すると、神経幹細胞(SOX9陽性)から神経前駆細胞(PROX1/ISL1陽性)への分化が促進され、その結果POMCニューロン産生が亢進することを明らかにしました。このように、POMCニューロン産生において、神経幹細胞レベルではSHHと NOTCHが協調的に作用する一方で、神経前駆細胞に対してはそれぞれ正と負の制御をすることを世界に先駆けて示しました。

【今後の研究展開および波及効果】
 今後はSHHとNOTCHの下流ではたらく上記EMT転写因子群の機能を詳細に解明する必要があります。具体的には、ニューロン特異的遺伝子発現、細胞周期制御における各転写因子の役割を明らかにする予定です。これらの知見は、将来、継続的なPOMCニューロン産生を可能にするとともに、メタボ予防のための標的分子の同定につながることが期待されます。

【掲載誌名・DOI】
掲載誌:Frontiers in Neuroscience, 16:855288.
DOI: https://doi.org/10.3389/fnins.2022.855288

【論文タイトル】
SHH and NOTCH regulate SOX9+ progenitors to govern arcuate POMC neurogenesis

【著者】
Elsie Place, Elizabeth Manning, Dong Won Kim, Arisa Kinjo, Go Nakamura, *Kyoji Ohya



■東京医科大学の学生への研究活動支援について
 東京医科大学医学科では、入学時に研究室の紹介がなされ、希望する学生は研究室にて指導教官のもとで研究をすることができます。カリキュラムとしても、基礎医学の講義・ 実習と臨床医学が終了した第4学年で、「グループ別自主研究」のコースにおいて、希望する研究テーマを選び、約3週間基礎医学の研究室に所属し、研究者の考え方や方法論などを体験し、研究マインドを育んでいます。また2022年4月からは自由科目として「リサーチ・ コース」が導入され、さらに学生の主体的な学びを後押しする体制になっています。
 実際に、コロナ禍でも学生が主体的に研究活動に取組み、経済産業大臣賞、肉眼解剖学トラベルアワードなど各種賞の受賞や、英語原著論文発表による学長賞受賞などその成果が出てきています。
 【学生の活躍】 https://www.tokyo-med.ac.jp/news/student-active/

▼本件に関する問い合わせ先
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【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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