成功裏に収めた2021年度 - 不確実性とコスト増が通期見通しの懸念材料に
- 2021年の売上高:787億ユーロ / EBIT(支払金利前税引前利益):32億ユーロ
- 140億ユーロ規模の水電解水素製造市場に参入 - ボッシュは2030年までに新事業分野に約5億ユーロを投資
- eモビリティの受注高が初めて100億ユーロを突破
- ロバート・ボッシュGmbH取締役会会長 シュテファン・ハルトゥング:「電動化はクライメートニュートラルへの最短ルートです」
- ロバート・ボッシュGmbH財務担当取締役 マルクス・フォーシュナー:「ボッシュは2021年の課題をうまく乗り越えましたが、収益に対する圧力は強まっています」
- ロバート・ボッシュGmbH人事担当取締役 フィリズ・アルブレヒト:「変化の時代における社会的責任とは、一人でも多くの従業員を新しい事業分野へ導くことです」
- ロバート・ボッシュGmbH取締役会副会長 クリスティアン・フィッシャー:「ボッシュは2025年までにヒートポンプ事業に3億ユーロを投資します」
- ロバート・ボッシュGmbH産業機器テクノロジー事業セクター担当取締役 ロルフ・ナヨルク:「エネルギー管理のネットワーク化は、工場にエネルギーの効率化をもたらします」
- ロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバー兼モビリティ ソリューションズ事業セクター統括部門長 マルクス・ハイン:「ボッシュは電動パワートレインのトップサプライヤーです」
シュトゥットガルト/レニンゲン – 厳しい市場環境にもかかわらず、ボッシュは2021年度に売上高と利益を大きく伸ばしました。グローバル規模で革新的なテクノロジーとサービスを提供するボッシュの売上高は前年比10.1%増の787億ユーロ、支払金利前税引前の営業利益(EBIT)は50%以上増加して32億ユーロに達しました。支払金利前税引前利益率は前年の2.8%に対し、4%に改善しました。「2021年を成功裏に収めたことが、今年の厳しい環境も乗り越えられるという自信に繋がっています」と、ロバート・ボッシュGmbH取締役会会長のシュテファン・ハルトゥングは、年次記者会見にて述べています。
ウクライナにおける戦争は著しく大きな不確実性のひとつであり、あらゆる面に影響が及んでいます。ボッシュは従業員に対する責任を非常に重く受け止めると同時に、攻撃が始まった当初から、特に避難される方々の苦難を和らげるための人道支援を展開しています。ハルトゥングは、「私たちは戦禍の地にいる方々に想いを寄せ、どれほど不安に過ごされているか思案しています」と述べ、戦争は政治的紛争を解決する手段ではないと指摘しています。現在の状況は、政策立案者や社会が化石燃料への依存度を下げ、新エネルギー源の開発を強力に推進しなければならないという圧力を浮き彫りにしていると、ハルトゥングは考えています。加えて、ボッシュ・グループは電動化や水素といったクライメートニュートラルな技術に3年間で約30億ユーロを投資することを明らかにしました。
ハルトゥングは、この戦争が気候変動対策に与える影響として、短期的にはCO2排出量削減のペースが落ちるものの、長期的には特にヨーロッパで技術変革が加速すると見ています。「政策立案者はこれをきっかけに、建物の省エネ改修に向けたインセンティブ提供や、再生可能エネルギー発電の大幅拡大などに、より強い決意を持って取り組むことが出来るでしょう」とハルトゥングは述べています。ハルトゥングは、グリーン電力の利用を前提条件に、電動化はクライメートニュートラルへの最短ルートであると考えています。そのためにボッシュはサステイナブルなモビリティを推進しており、2021年にボッシュのeモビリティ関連の受注額は初めて100億ユーロを突破しています。一方で、ハルトゥングは水素の必要性も強調し、「産業政策の役割は、すべての経済セクターで水素を利用できるようにすることです」と主張しています。「電気ベースのソリューションが先行していますが、水素ベースのソリューションをさらに加速させる必要があります。地球上でサステイナブルな生活を実現するためには、両方が必要です」
ハルトゥングは同時に、今後3年間でさらに100億ユーロを投じてビジネスのデジタライゼーションを推進することを発表し、「デジタライゼーションはサステナビリティの実現において特別な役割を担っており、当社のソリューションはこれを前提としています」と述べています。ボッシュのポートフォリオにおける例としては、スマートホームエネルギーマネジメントシステムやコネクテッドマニュファクチャリングエネルギープラットフォームなどが挙げられます。
2022年の展望:厳しい環境で依然として高い不確実性
ボッシュ・グループは、第1四半期に売上高を前年同期から5.2%伸ばしました。「2022年は堅実なスタートを切り、これまでのところ、売上成長率は事業報告で予想した6%を上回ると見込んでいます」と、ロバート・ボッシュGmbH取締役会財務担当取締役のマルクス・フォーシュナーは述べています。「しかし、今年度のより正確な通期予想は、不確実性が大きいため困難な状況です」。フォーシュナーによると、売上高は増加が見込まれるものの、支払金利前税引前利益率は前年並みという目標には及ばず、3%から4%の間となる見通しです。「特にエネルギー、原材料、物流コストの上昇が業績への負担となっています」。特にモビリティ ソリューションズ事業セクターでは、コスト圧力が現在非常に高く、一部の原材料の価格は2020年以降約3倍に高騰しています。「価格の高止まりと非常に不安定な市場に適応していかなくてはなりません」とフォーシュナーは指摘します。「自動車メーカーだけでなく、サプライヤーも値上げ分の価格転嫁に頼らざるを得ません」
こうした状況を背景に、ボッシュは世界経済の見通しを大幅に修正し、年初には4%から4.25%の成長を見込んでいた今年の世界経済成長率を3.5%弱としました。自動車生産台数を前年比9%増の約8,800万台とする従来の予想も、達成は厳しいと見ています。その理由としてフォーシュナーは、中国での新型コロナウイルスの感染拡大と長引く半導体不足による新たな混乱を指摘しています。ただし全体として、フォーシュナーは楽観的な姿勢を崩していません。「ボッシュはこの困難な局面も乗り越えます。重要なのは、将来性のある製品と明確かつ長期的な戦略的方向性です。ボッシュは、そのどちらもしっかり備えています」
水電解:140億ユーロ規模の市場に参入
ボッシュは効果的な気候変動対策を実現するために、水電解装置のコンポーネント事業に参入します。ボッシュは2020年代末までに、この新事業分野に約5億ユーロを投資する計画で、その半分はすでに2025年に予定されている市場導入までに投じる計画です。ハルトゥングは、「私たちは水素技術を開発するための幅広い基盤を有しており、欧州での水素製造を推進したいと考えています」と述べています。「水電解装置のコンポーネント市場は、2030年には全世界で約140億ユーロ規模になると予想しています」。 ボッシュは水電解システムの中核となるスタックを供給し、パワーエレクトロニクス、センサー、コントロールユニットを組み合わせたスマートモジュールを構成します。水素製造用スタックは、早ければ2025年に量産が開始される予定です。
持続可能性:新エネルギー時代における社会的責任
ボッシュは欧州連合(EU)のグリーンディールを支持し、サステナビリティに特別な責務を負っていると考えています。ボッシュは2020年以降、世界400カ所の拠点でカーボンニュートラルを実現しており、カーボンニュートラルの質については予想以上に進展しています。ボッシュはすでに、2020年代末までに目指している節電量の3分の1を実現しています。「サステナビリティは一部で取り組むものではなく、すべての企業のコア事業の一部となる必要があります」と、ロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバー兼人事労使関係担当ディレクターであるフィリズ・アルブレヒトは説明します。ボッシュの企業としての社会的責任は、経済、社会、環境という3つの要素が含まれています。「このトライアングルをバランスよく維持するのは容易なことではありません。私たちの社会的責任とは、変革の時代において、一人でも多くの従業員を新しい事業分野へ導くことだと考えています」。アルブレヒトが指摘するように、ボッシュはこれまで内燃機関システムを生産してきた拠点を中心に、クライメートニュートラル技術の開発を進めています。リスキリングプログラムと社内公募プラットフォームを通じて、パワートレイン事業部では既に1,400人の従業員が、ソフトウェアやeモビリティなどの分野で新たなポストに就いています。「年末までに、約2,300人の従業員がモビリティ用途および定置用燃料電池に従事することになりますが、そのほとんどが社内公募によるものです」とアルブレヒトは述べています。加えて、「これはボッシュによる変革です。ボッシュは今年、世界中で1万人のソフトウェアエンジニアを新たに採用する意向です」と付け加えました。
サーモ テクノロジー:ヒートポンプ事業に3億ユーロを投資
「CO2排出量の3分の1以上は建物から発生しているため、自宅でも気候変動対策が必要になります」と述べるのは、ロバート・ボッシュGmbH取締役会副会長、消費財事業セクターおよびエネルギー・ビルディングテクノロジー事業セクター担当取締役のクリスティアン・フィッシャーです。「空調システムにおけるCO2削減策としては、まずヒートポンプへの代替が考えられ、それもグリーン電力による駆動だと理想的です」。国際的にも、新しい建物に対応した基準を策定する動きが盛んになっています。たとえばドイツでは、2024年までに新しい空調システムの65%を再生可能エネルギーで賄うとしています。「そのため、ボッシュはヒートポンプ事業に2025年までに3億ユーロを追加投資する予定です」とフィッシャーは述べています。「市場は2025年までに年率15~20%成長していく見込みで、私たちは市場の2倍のスピードで成長することを目指します」。ボッシュは既存の建物にも貢献したいと考えており、空調システムの天然ガスから水素への切り替えを、水素対応ガスボイラーによって支えようとしています。さらに、ビルディングシステムを接続、統合することで、ボッシュは同時にサービスを通じてコンスタントに収益を上げるという目標にも近づいています。「ビルディングシステム事業では、すでに売上高の約半分をサービスが占めています」とフィッシャーは述べています。「私たちの戦略的目標である気候変動対策への貢献とサービス事業の拡大は、相互を補完する関係にあります」
産業機器テクノロジー:デジタライゼーションによるエネルギー効率化
工業生産の面では、ボッシュは工場におけるエネルギー効率とコスト効率のさらなる向上に取り組んでいます。「工業生産のデジタライゼーションは気候変動対策に貢献します」と述べるのは、ロバート・ボッシュGmbHの産業機器テクノロジー担当取締役のロルフ・ナヨルクです。「エネルギー管理をネットワーク化することで、生産部門の年間エネルギー消費量を平均5%削減できています」。インダストリー4.0ポートフォリオの一部であるエネルギープラットフォームは、すでに80件の顧客プロジェクトと120カ所のボッシュ拠点で活用されています。同時に、ボッシュ・グループは産業機器テクノロジーで電動化にも注力している、とナヨルクは続けます。2030年には移動型作業機械の30%が電動化されると予想されています。これは、高電圧システムの市場規模がさらに15億ユーロ拡大することを意味します。ボッシュはまた、産業機器テクノロジーを通じて電気自動車(EV)走行もさらに推進したいと考えています。「VWとの合同プロジェクトで、欧州のバッテリーセル工場に設備を提供する会社の設立準備を進めています」とナヨルクは説明します。「私たちの共通の目標は、バッテリー生産の工業化においてコストとテクノロジーの両面で主導的な地位を確立することです」。バッテリーセルの生産技術の場合、2030年までに全世界で市場規模が累計で500億ユーロに達すると専門家は予想しています。
代替モビリティへの移行:バッテリーおよび燃料電池による電動化の促進
ボッシュは、EUのグリーンディールが道路交通の電動化を大きく後押しすることを期待しています。「すべての自動車メーカーが、成長を続ける電気自動車市場で可能な限り高いシェアを確保できるよう尽力しています」と、ロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバーでモビリティ ソリューションズ事業セクター統括部門長を務めるマルクス・ハインは述べています。「ボッシュは、電動パワートレインのトップサプライヤーであると自負しています」。この分野における大きな技術的課題は、パワートレインをバッテリーも含めて適切な温度に保ち、快適な車内環境を実現することですが、インテリジェントな熱管理だけで、EVの航続距離を25%伸ばすことができる、とハインは述べています。そのためにボッシュは、フレキシブルサーマルユニット(FTU)を用いた事前統合型ソリューションを開発しました。このFTUを通じて、2020年代末には35億ユーロの規模に達すると予想される市場を開拓しようとしています。燃料電池をベースにしたeモビリティについては、年内にトラック向けの燃料電池パワートレインの量産を開始します。「バンベルクの拠点では、2025年までに1ギガワット分の出力のスタックを生産したいと考えています」と、ハインは将来を見据えています。「2030年には燃料電池トラックの運用コストをディーゼルトラック並みにすること、それが私たちの目標です」。ボッシュはモビリティ用途の燃料電池への投資をさらに増やし、2021年から2024年にかけて約10億ユーロを投じる予定です。
2021年度:厳しいコスト圧力にもかかわらず課題をクリア
「ボッシュ・グループは2021年の課題をうまく乗り越えることができました」とフォーシュナーは総括しました。「売上高は10.1%増加し、EBITを50%以上伸ばすことができました」。この数字は、新型コロナウイルスの感染拡大、半導体の継続的な供給不足、すでに著しく上昇していた原材料価格という背景があったにもかかわらず、達成することができました。「好調な売上高に加え、徹底したコスト削減対策が奏功しました」とフォーシュナーは説明します。「将来を見据えたボッシュの姿勢は、事業年度決算の手堅さにも表れています」。ボッシュ・グループの研究開発費は61億ユーロ(2020年:59億ユーロ)と安定的に推移し、投資額は39億ユーロ(2020年:33億ユーロ)とやや増加しました。研究開発費の重点は、eモビリティ、運転支援システムだけでなく、産業の電動化や空調技術にも及んでいます。自己資本比率は1.3ポイント改善し、45.3%となりました。
2021年度:事業セクター別の業績
すべての事業部門が好調な業績に貢献しました。最大の売上高を生み出す事業セクターであるモビリティ ソリューションズは、売上高が前年比7.6%増の453億ユーロとなりました。為替調整後では7.9%の増加となります。支払金利前税引前利益(EBIT)は前年の赤字から一転、若干の黒字となり、支払金利前税引前利益率は0.7%でした。「モビリティ ソリューションズは特に半導体供給不足の影響を受けやすく、モビリティの大きな変化に適応していかなくてはなりません」とフォーシュナーは説明します。「同時に、この事業セクターはeモビリティや自動運転に多額の先行投資を行っており、すでに原材料や物流コストの大幅な上昇にも対応しなくてはなりませんでした」。フォーシュナーによると、産業機器テクノロジー事業セクターは、重要な機械工学市場の回復の恩恵を受け、売上高は18.9%増の61億ユーロとなりました。為替調整後の売上高は19.4%の増加、支払金利前税引前利益率は8.4%でした。消費財事業セクターは、好調だった前年から売上高をさらに伸ばし、12.7%増の210億ユーロ、為替調整後では14.4%増となりました。支払金利前税引前利益率は10.2%と、再び2桁を達成しました。エネルギー・ビルディングテクノロジー事業セクターの売上高は7.8%の増加、為替調整後では8.8%の増加を達成しました。総売上高59億ユーロに対して支払金利前税引前利益率は5.1%に改善しました。フォーシュナーは、「私たちの気候にやさしい空調技術が、この成功に大きく貢献しました」と述べています。
2021年度:地域別の業績※
ボッシュ・グループは全地域で売上増となりました。ヨーロッパの売上高は8.9%増の413億ユーロ、為替調整後では10%増となりました。北米の売上高は6.5%増の114億ユーロ、為替調整後では9.3%増となりました。南米の売上高は32%増の14億ユーロで、為替調整後では45.1%もの伸びとなりました。アジア太平洋とその他の地域の売上高は245億ユーロでした。これは13.1%の増加で、為替調整後では11.7%増でした。
2021年の従業員数:全地域で増加
2021年12月31日時点でボッシュ・グループの従業員数は全世界で40万2,614人と、前年から7,580人の増加となりました。ヨーロッパ、南北アメリカ、アジアの3地域すべてで増加しました。ドイツ国内の従業員は13万1,652人で安定しています。研究開発部門の従業員は2,949人増加し、7万6,121人となりました。
※四捨五入により、2021年の総売上高との差が-1億ユーロ