GP主導セカンダリー取引の複雑性プレミアム

GP主導の取引機会に内包される複雑性をうまく利用できる投資家は、プライベート・アセットのポートフォリオから超過収益を享受するのに最適な立場にあると言えるでしょう。


デビッド・グリン (左)
シニア・インベストメント・ディレクター、シュローダー・キャピタル

ペトル・ポルダウフ(右)
インベストメント・ディレクター、シュローダー・キャピタル


セカンダリー市場は、この20年間で進化を遂げました。伝統的なLP投資家の持分の取得に端を発したセカンダリー市場は、現在ではGP主導取引が大半を占めるようになっています。スポンサーはポートフォリオを管理し、LP投資家に新たな流動性オプションを提供するため、GP主導の取引をさらに活用するようになっています。
GP主導取引は幅広く利用されていますが、本質的に複雑性を伴います。投資機会の発掘と評価、そしてマクロ及びミクロのリスク要因の評価には、投資家には専門知識が必要です。GP主導取引が有する複雑性プレミアムは、セカンダリーの投資家がこれらの複雑な要素をうまく活用することで追加的に享受できるリターンです。
GP主導取引はプライベート・エクイティの中で成長している領域ですが、その複雑性を上手に利用できる投資家のみが、このような魅力的な投資機会から超過収益を得ることができるでしょう。


GP主導の取引とは何でしょうか?
GP主導の取引とは、既存のファンドから新設ファンドへ1つまたは複数のポートフォリオ資産を売却し、既存のスポンサーがその運用を継続する取引です。GP主導取引は、スポンサーがさらなる時間と資金を提供することで、ポートフォリオの潜在価値を最大化するために行います。
GP主導取引を行うスポンサーは、企業に対してより長期的な視点を持つことができます。スポンサーは資産運用で培ったスキルや経験を生かし、通常の4~6年の資産保有期間を超えて、より長期的な視点から投資先企業の発展に貢献することができます。投資先企業にとっては、自社をよく知るGPとの関係性を維持することができるほか、売却によって新たなオーナーシップになることによる、潜在的な混乱を回避できるというメリットがあります。
GP主導取引は、GPから他のGPへ売却される伝統的な取引の代替手段となります。また一般的なプライマリー投資よりも魅力的な手数料と経済構造をLP投資家に提供できるため、より強力な協力関係を実現することができます。これは最終的にプライベート・エクイティ業界の効率性を高めることにつながります。

LP投資家は、持分の全てまたは部分的な売却など、従来では得られなかったより多くのオプションを自由に使えるようになり、プライベート・エクイティの従来の出口戦略への依存度を下げることができます。また加速度的に進化する売却オプションにより、より広範なポートフォリオ管理の目的にもGP主導のセカンダリー市場を利用することができるでしょう。GP主導取引の、ファンドへのエクスポージャー分析の観点では、LP投資家は投資スキルを活かした具体的な直接投資のアプローチを取り、ロールインまたは売却の判断を下すことができます。

GP主導取引はプライベート・エクイティ全体のステークホルダーにプラスの影響を与えますが、それは投資家が主導する、相互に有益なソリューションという形で発展していくことでしょう。


GP主導取引における複雑性プレミアムの源泉
下の図は、GP主導取引における複雑性プレミアムの源泉を分析したものです。この複雑性プレミアムは、適切なスキルと組み合わされることで、投資プロセス全体を通じて価値が生み出されます。
各投資案件は、それぞれ独自の手法により複雑性プレミアムを獲得していますが、現在の環境下では、セカンダリーの投資家はGP主導取引において、主に以下に示す3つの要因から超過収益を得ることができるでしょう。
  -専門的なスキルセット
  -投資案件へのアクセス
  -迅速な投資プロセスと実行力

プライベート・アセットの複雑性プレミアムの源泉

GP主導の取引には、上記3つの要因以外にも様々な要因が存在し、互いに重複することもあります。例えば、以下のようなものがあげられます:

―セカンダリーの投資家は「案件ストラクチャリング能力」を活かし、ファンドの目的により合致するように、カスタマイズしたソリューション(繰延支払、アーンアウト(クロージング後、一定期間内に対象会社の業績指標等の目標の達成度合い等に応じて追加的な対価を支払う規定)、リファイナンス、優先株など)を提供します。ストラクチャリング能力と密接に関連するトピックであるGP主導取引の契約書は、「特殊なスキル要件」も必要とするでしょう。

―投資家は、事業単独での価値創造の潜在性に期待する「オーガニック・ロールアウト戦略」と、逆にアドオン投資によって獲得する価値の増加に期待する「コンソリデーション/バイ・アンド・ビルド戦略」に焦点をあてていますが、特に後者はM&Aに向けた追加資本を伴う現在のGP主導の取引環境でよく見られる動きです。

―セカンダリー投資家の中には、GP主導取引に対して「逆張り」のアプローチとなる、「ターンアラウンド/リストラクチャリング戦略」として市場で過小評価されていると思われる機会に着目する投資家もいます。

―既存の関係である「GPへのアクセス」を活用することで、「特権的な情報アクセス」が可能になります。

―セカンダリー市場のGP主導取引以外のプライベート・キャピタル全体において、これまで以上にESGとの関連性が高まってきています。

―事前交渉に基づくエグジットは、GP主導取引において主要資産の最終的な出口戦略がスポンサーによって事前に明確にされている場合(例:IPOの計画や戦略的売却など)、近い将来の分配金の見通しがつき、Jカーブ効果の抑制につながるでしょう。
このように、複雑性プレミアムの源泉はGP主導の取引においても様々な例が見られ、プライベート・エクイティ市場と並んで今後も進化していくものと思われます。


特殊なスキル要件
GP主導の取引では、オリジネーションからクロージングまで複数の要素を考慮して行う必要があります。 セカンダリーの投資家は最も魅力的な案件を選択した後、ポートフォリオに対して直接投資型のデューデリジェンスを実施します。 投資家は、各ポートフォリオ企業においてボトムアップとトップダウンのアプローチを同時に行い、資金需要、GPの能力、ファンドのパフォーマンス、LP投資家ベース、GPの連携などを評価します。

企業の価格は、保有資産、それぞれの業界、比較可能な類似ビジネス、市場動向、バリュエーションを統合して決められます。 さらにスポンサーの動機を理解することに加え、ロールされるクリスタライズド・キャリー(GP主導取引となることによる未実現キャリー)を用いてGPとの利益のアラインメントを図ること、セカンダリーの資本と同様の条件で新規資金を投資することが重要です。これらはすべて、最終的にこの取引に同意する必要のあるLP投資家との議論と並行して行われます。
GP主導取引の主要な条件について一般的な市場理解はありますが、各案件において、固有のメリットとリスクに見合ったストラクチャリング能力およびオーダーメイドの契約書を必要とします。セカンダリーの投資家は、これらの要素をパッケージとして捉え、リスクを軽減しながら案件の魅力を適切に評価する必要があります。

特殊なスキル要件の実例として、ある欧州のGPが、単一資産の継続ファンドを検討していました。そのポートフォリオ企業は、業界の追い風と新製品の投入で好調な業績を上げ、堅調な見通しを維持していましたが、企業価値を最大化するために、既存の投資期間よりも多くの時間を必要としていました。
スポンサーは、GP主導取引を検討し始めた当初から積極的に当社にコンタクトを取り、当社はスポンサーと共にその投資機会を形にしました。私たちは直接会社を訪問し、経営陣を評価し、第三者の推薦人にインタビューを行うなど、プロセス全体を通じて徹底的なデューデリジェンスを実施しました。また市場調査には外部のコンサルタントを起用し、当社の幅広いポートフォリオの中から類似資産に関する社内の知見を活用しました。
売却するファンドの目的とのバランスを取りながら、エントリー価格の交渉と新規ファンドの条件設定が重要となりました。このような複雑な案件では、価値創造の可能性を最大限に引き出すためのストラクチャリング能力に加え、様々な行動力やスポンサーとの交渉に対応するための「特殊なスキル要件」が必要とされました。

GP主導取引のスキーム例

投資案件へのアクセス
プライベート・エクイティは、制約の多い資産クラスです。最低限必要となる資本金、法律や規制要件、洗練された専門的な経験といった特定の属性を有する、投資に対し適格と認可された投資家のみに限定されます。さらに重要となるのは、GPと投資家の間の既存の信頼に基づく役割関係です。
他の条件が全て同じであれば、スポンサーは、自分たちのプラットフォームに付加価値を与えてくれる旧知の投資家と取引することを好みます。この傾向はスポンサーが長期的なパートナーとなるセカンダリーの投資家を探すGP主導取引においても同様です。理想的には、プライマリー投資や共同投資を行う能力を持ち、さらに戦略フォーカス(例:ロウアー・ミドルマーケット)を有し、ローカルチームやローカルオフィスなどを持つ投資家が望ましいとされています。

GP主導取引の複雑性プレミアムの源泉の1つである「案件へのアクセス」における最近の例としては、当社が長年にわたって関係を築いている、ロウアー・ミドルマーケットのソフトウェアに特化した欧州GPの例があげられます。このGPは複数の資産を継続ファンドに売却することを決めましたが、各ポートフォリオ企業、ファンド、スポンサーに関して既存の知識が豊富であった当社に、非常に初期の段階からコンタクトしてきました。
この案件では、GPは既存投資家のみに投資案件を持ち掛け、スポンサーと同じコア地域にローカルチームを持つ投資家を優先しました。対象のソフトウェア企業が欧州の特定の市場で事業展開していることまた将来のプライマリー投資や共同投資機会を通じた関係性の構築の観点でも、投資家の所在地が重要なポイントとなりました。私たちは、当初からスポンサーにとって最も重要と思われる資質を備えており、プロセス全体を通じて、有利な立場にありました。

案件へのアクセスが有する複雑性プレミアム


迅速な投資プロセスと実行力
GP主導取引の投資プロセスは、特に優良な資産とスポンサーが関与する場合、迅速に進むことがあります。投資家は既存スポンサーとの関係を活用し、早い段階からGP主導取引のプロセスに入ってデューデリジェンスを行い、取引に関与することができます。カバレッジを持たない投資家は本質的に不利であり、時間内にデューデリジェンスを完了できない場合、需要が旺盛なGP主導取引には参加できない可能性もあります。
すべての投資家にとってリスクとなるのは、大きな関心が寄せられているにもかかわらず、トップクオリティのGP主導取引の規模が縮小することです。このような貴重な投資機会に対して、迅速かつ徹底的なデューデリジェンスと投資の実行ができる投資家(GPと既存の関係がなければ難しい)は、GPのストラクチャリングをサポートすることで優先的な案件フローを生み出し、より広範な市場に対して競争力を維持できる立場にあります。

当社の「迅速な投資プロセスと実行力」は、直近の例では当社のコアな、米国ロウア・ーミドルマーケットのマネージャーの1社との、優良な資産の取引で発揮されました。この案件では、資産を完全売却して全株主に流動性を提供、また債務の借換えによりバランスシートを整理し、アドオンのための追加資本を投入しました。同社はこのプロセスでアドオンを完了させ、案件クロージング後の豊富な追加M&Aのパイプラインを獲得することができました。さらにGPの後継ファンドが、継続ファンドと並行して同社に投資しました。
GPが主導する案件は、多くの不確定事項が同時に発生する複雑性の高い取引であり、新規の投資家は資産の評価に加えて、各利害関係者の主要な動機を理解する必要があります。私たちは、プライマリー投資と共同投資を通じて、この企業との既存の関係性や知識を生かし、この投資機会が市場に出る前にデューデリジェンスを開始しました。またGPとの既存の関係性を利用し、早期の段階から調整を含むディールのストラクチャリングに積極的に関与しました。
当社はスポンサーや第三者アドバイザーとの一貫した対話を通じて、常にプロセスの先陣を切っていました。このように組成からクロージングまでの迅速なアプローチにより、当社はアロケーションと良好なガバナンスを確保し、GPと優良な資産の取引を推進することができました。

GP主導取引での迅速な投資プロセスと実行の複雑性


セカンダリーGP主導取引が全体として有する複雑性プレミアム
GP主導取引はセカンダリー市場で進化し続けており、今後もその取引が有する複雑性を通じてリターンがもたらされると考えています。GP主導取引は参入障壁が高く、対象となる投資家はプライベート・エクイティの一角をなすセカンダリーファンドと、GP主導取引に特化した専門チームやリソースを持つ会社に限定されます。

GP主導取引は本質的に複雑であり、セカンダリーの投資家は最終的にGP主導取引のポートフォリオを構築するためには、適切なスクリーニング、評価、ストラクチャリング、および主導できるための「特殊なスキル要件」を有する必要があります。
既存スポンサーとのネットワークを活用し、そのプラットフォーム(プライマリーおよび共同投資能力、戦略的なアングル、複数地域に拠点を持つチームなど)を基に付加価値を提供できる投資家は、より広範な市場から、限られた質の高いGP主導の案件フローに「アクセス」できる立場にあるでしょう。
「迅速な投資プロセスと実行能力」は、投資家の価値を引き出す能力にも直接影響を与えます。規律あるアプローチを維持しながらGPのディールモメンタムを促進し、プロセスの先陣を切る投資家は、スポンサーに好まれます。ディールテーブルの席を確保することは、GP主導の案件やアロケーションの確保にも好影響を及ぼし、貴重な競争優位性をもたらすでしょう。
GP主導取引の複雑性は、しばしば相互に絡み合っており、単独で存在するわけではありません。GP主導取引が全体として有する複雑性を効果的に利用できるセカンダリーの投資家は、複雑性プレミアムをリターンの源泉としてとらえ、超過収益を生み出し、ポートフォリオの価値創造を最大化するのに最適な立場にあると言えるでしょう。




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組織名
シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
ホームページ
https://www.schroders.com/ja-jp/jp/asset-management/
代表者
黒瀬 憲昭
資本金
49,000 万円
上場
非上場
所在地
〒100-0005 東京都千代田区丸の内一丁目8番3号丸の内トラストタワー本館21 階
連絡先
03-5293-1500

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