新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の血清予後予測マーカータンパク質を発見

 横浜市立大学先端医科学研究センター プロテオーム解析センター 木村弥生 准教授、梁 明秀 センター長(大学院医学研究科 微生物学 教授)、同大学院医学研究科 救急医学 竹内一郎 教授、臨床統計学 山本紘司 准教授、免疫学 田村智彦 教授、呼吸器病学 金子 猛 教授らの研究グループは、質量分析計を利用したプロテオーム解析技術を用いて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症患者の予後と密接に関連する血清タンパク質を明らかにしました。これらのタンパク質の測定は、予測される予後に基づいた適切な治療の提供に役立つことが期待されます。この研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されました。(日本時間10月19日18時掲載)。

研究成果のポイント
  • プロテオーム解析技術を用いて、COVID-19の重症患者のうち、予後不良の患者と予後良好の患者の入院時血清中で27種類のタンパク質量が異なることを明らかにした。
  • COVID-19の重症患者の予後を高感度に予測する血清バイオマーカーとして、CHI3L1およびIGFALSが有用であることを明らかにした。

研究背景
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年に中国武漢で出現して以来、世界的な猛威を奮っています。COVID-19患者の多くは、軽度の呼吸器症状に留まり、治療の有無にかかわらず回復しますが、約20%の患者さんは呼吸不全を起こして酸素吸入が必要となります。これらの患者さんの一部は重篤な呼吸不全となるため、人工呼吸管理を含む集中治療が行われます。さらに、通常の人工呼吸管理でも不十分な場合、体外式膜型人工肺(ECMO)の装着が必要となることがあります。したがって、COVID-19では疾患の進行を正確に予測し、限られた医療資源を最も必要とする患者さんに配分することが極めて重要になります。

研究内容
 本研究ではまず、質量分析計を利用したプロテオーム解析技術により、COVID-19の重症患者の入院時血清において予後と密接に関連して増減する血清タンパク質を探索しました。その結果、COVID-19の重症患者のうち、予後不良の患者と予後良好の患者では、27種類のタンパク質の量が異なっていました(図1)。Ingenuity Pathway Analysisソフトウェア
*1を用いた解析により、27種類のタンパク質のうち、15種類はインターロイキン1(IL-1)、 IL-6、腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインシグナル*2によって制御されている可能性があり、その量的な違いは、全身の炎症反応や心血管障害に関与していることが示唆されました。
 さらに、ELISA法
*3により、血清中タンパク質濃度を測定した結果、CHI3L1とIGFALSが重症COVID-19患者の高感度の予後マーカーとして機能することが明らかになり、またこれらは、既存のバイオマーカーよりも疾患の予後に関連していることがわかりました(図2)。本研究成果は、予測される予後に基づく、限られた医療資源の適切な配分や、ハイリスク患者さんに的を絞った治療の提供に役立つと考えられます。


図1 プロテオーム解析技術を用いた血清タンパク質の定量解析
A:バイオマーカー候補を探索するための研究デザイン。
B:495種類のタンパク質の定量解析結果。横軸は量比[予後不良(Adverse)/予後良好(Favorable)]、縦軸は有意差[p-value]を示し、赤と青のドットは、予後不良の患者が予後良好の患者に比べて血清中の量が増加したタンパク質と減少したタンパク質を示す(量比> 2, p < 0.01)。


今後の展開
 本研究で新たに発見した、CHI3L1およびIGFALSのCOVID-19の予後予測血清バイオマーカーとしての精度や有用性を検証し、正確な予後予測に基づく適切な治療の提供に役立つことを証明するためには、サンプル数を増やした、より大規模なサンプルサイズによる前向き研究が必要となります。

研究費
 本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「COVID-19患者層別化による医療資源の最適分配とアウトカム向上(研究代表者:横浜市立大学大学院医学研究科 救急医学 竹内一郎教授)」および「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断法開発に資する研究(研究代表者:国立感染症研究所 感染病理部 鈴木忠樹部長)」の支援を受けて行われました。

論文情報
Identification of serum prognostic biomarkers of severe COVID‑19 using a quantitative proteomic approach
Yayoi Kimura, et al.
Scientific Reports(October,19 2021) https://doi.org/10.1038/s41598-021-98253-9

参考
用語説明
*1 Ingenuity Pathway Analysisソフトウェア:マイクロアレイやRNA-seq、プロテオーム、メタボロームなど様々な形式の解析データから、既知のパスウェイや上流因子、毒性や疾患との関連を探索するためのソフトウェアで、データに関わる分子を可視化する。

*2 サイトカインシグナル:細胞の防御力を高めるためのウイルス免疫応答として、細胞から放出されるシグナル伝達タンパク質。

*3 ELISA法(Enzyme Linked Immunosorbent Assay):抗原抗体反応を利用して微量生体物質を定量する方法。

図2 CHI3L1とIGFALSの予後バイオマーカーとしての有用性評価
A: ELISA法によるCHI3L1とIGFALSの血清中濃度。予後不良[Adverse] 15名、予後良好[Favorable] 46名、健常[control] 30名の結果。2群間の差はMann-Whitney U-testで比較した。***; p<0.001, ****; p<0.0001.
B: ROC曲線。CHI3L1またはIGFALSを用いて臨床的判断を下すための最適なカットオフ値(感度・特異度)は、それぞれ60.01ng/mL(0.867・0.600)および3.28µg/mL(0.867・0.689)であった。









本件に関するお問合わせ先
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E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp

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