日本獣医生命科学大学(東京都武蔵野市)の長谷川大輔教授(獣医学部獣医学科 獣医放射線学研究室)を代表とする犬猫のてんかん外科共同研究プロジェクトはこのたび、犬猫の難治性てんかんに対する脳波やMRIを駆使した外科治療の症例を世界で初めて報告した。これまで難治性てんかんは患者と飼い主両方にとって負担の大きい治療であったが、外科手術を行うことで発作頻度の減少やQOL(生活の質)の改善が認められた。この成果はオープンアクセス学術誌「Frontiers in Veterinary Science」に近日掲載される。
【プロジェクトについて】
てんかんは人を含むほぼ全ての動物種で見られる脳の機能異常であり、ペットの犬猫でも最も発生頻度の高い脳疾患である。また、そのうち約3割は、内科治療での発作コントロールが難しい難治性てんかんであるといわれる。
これまで難治性てんかんの犬猫は、複数の抗てんかん薬による多剤治療や、それによる副作用や脳障害などに苦しんできた。さらに飼い主にも精神的、経済的負担がかかり、動物と飼い主の両方に著しいQOL(生活の質)の低下をもたらしてきた。
難治性てんかんは人のてんかんでもほぼ同率に認められるが、人では「てんかん外科」とよばれる脳外科手術が確立し、比較的良好な治療成績を達成している。
こうしたことから長谷川大輔教授らは、科学研究費補助金*の助成を受け、犬猫のてんかん外科の実現を目指したプロジェクトを2017年よりスタート。プロジェクトのメインである臨床試験では、複数の獣医神経科専門医による厳格な審査と発作動画記録、脳波および高磁場MRIを用いた診断に基づき、飼い主の同意の下、てんかん外科の適応とされた難治性てんかんの手術を行っている。
【今回の症例報告について】
てんかん外科は、発作を起こす原因となっている部位(発作焦点)を切除する「切除外科」、発作焦点が不明あるいは切除不能部位に焦点が存在する場合に発作の拡がりを抑える「遮断外科」、そして特定の神経を刺激して発作の発生を抑える「神経刺激療法」の3つに分類される。
今回、学術誌「Frontier in Veterinary Science」に掲載される2つの症例報告は、同大で行われた猫の切除外科例(片側海馬切除術)と、麻布大学(齋藤弥代子准教授)にて行われた犬の神経刺激療法(頚部迷走神経を刺激する装置を埋め込む迷走神経刺激療法)。いずれも、術後において顕著な発作頻度の減少が認められた。そのうち迷走神経刺激療法を行った例では、患者と飼い主ともにQOLの改善も認められた。
獣医療における脳波やMRIを駆使したてんかん外科はこれまで例がなく、今回のような人医療と同等の評価と1年以上の追跡期間のあるてんかん外科の報告は世界初の事例である。
【てんかん外科共同研究グループ】
長谷川大輔(代表 日本獣医生命科学大学 獣医放射線学研究室,生命科学総合研究センター脳研究分野 教授)
齋藤弥代子(麻布大学獣医学部 小動物外科学研究室(神経科) 准教授)
北川勝人(日本大学生物資源科学部 獣医神経病学研究室 教授)
金園晨一(どうぶつの総合病院 神経科主任)
内田和幸(東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医病理学研究室 准教授)ほか
【掲載論文】
1. Hasegawa D, et al. Focal cortical resection and hippocampectomy in a cat with drug-resistant epilepsy. Front Vet Sci 2021.
DOI: 10.3389/fvets.2021.719455
2. Hirashima J, et al. One-year follow-up of vagus nerve stimulation in a dog with drug-resistant epilepsy. Front Vet Sci 2021.
DOI: 10.3389/fvets.2021.708407
* 平成29年-令和3年度科学研究費補助金基盤研究(A) 課題番号17H01507
【更新】タイトルを一部変更し、添付PDFを差し替えました。(2021/07/09 09:50)
■研究に関するお問い合わせ
日本獣医生命科学大学 獣医学部獣医学科
獣医放射線学研究室 教授 長谷川 大輔
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