16名のファイナリストはすでに6名が脱落し、現在10名。暫定10位の本田孝幸が、今回戦いたい相手として指名したのは3位の高木祐輔と、5位の井上豪希。
3人が今回挑んだテーマは「和牛の薄切り」。牛肉は海外では主にステーキ用としてブロックや厚切りなどで売られており、薄切りにして調理するのは実は日本独自のスタイル。すき焼きやしゃぶしゃぶなどが日本の食文化を豊かにしてきた。今回使ったのは、三重県の中尾教昭さんが飼育した極上の松阪牛。きめ細かいサシと甘みの強い脂が特徴だ。美食家で知られるゲストの高嶋政宏は、その肉を見て思わず「焼きしゃぶで食べたい」と口走り、MC山里が「調理時間、異様に余るでしょうけどね(笑)」とツッコむ一幕も。
まず、中華の高木は、鰹節をまぶして寝かせた牛肉をバーナーで炙る。さらに花山椒などのスパイスを次々と投入する。一方、料理界の新人類、井上は、57度の低温で松阪牛を調理。またオブラートの上に粉末にした飴をのせたり、緑の液体を調合するなど、その様子はまるで実験。見たこともない近未来の「すき焼き」に挑むという。そして現在最下位、そば職人の本田は、肉を炭火焼きに。さらに、そば粉を練りあげていく。
今回、料理を試食したのは、須賀シェフのほか、高嶋政宏、中国料理研究家の小薇(シャウ・ウェイ)、松阪牛を提供してくれた中尾教昭さんの4人。
◆口の中で完成する近未来のすき焼き、ふんだんに使ったスパイスが絶妙な牛肉巻き、薄切り肉とカブの握りなど、驚きの料理が次々と誕生!
最初に料理を披露したのは、中華の高木祐輔。世界最高峰と言われるペニンシュラホテルの中華料理店で7年間修業し、腕を磨いた高木。己の料理道を極めるため、現在は小さなカレー屋でシェフとして働き、世界各地のスパイスを勉強しているという。
そんな高木が今回作った料理は、薄切り肉で野菜を巻いて食べる「水煮牛肉巻」。花山椒や唐辛子などのスパイスと香味野菜で作ったピリ辛だれに、鰹節で風味をつけた肉を漬け込んだ後、バーナーで炙り、焼き肉仕立てに。付け合わせにナスとマコモダケ、チシャトウをのせ、カレーに使われるスパイスを用いた香味油でパンチを効かせた。試食した高嶋は、「スパイスの奥深さを感じる」と気に入った様子。小薇も「中国料理は薄切り肉を使うのが難しいが、これはスパイスが牛肉本来の甘みを生かしている」と讃えた。
2人目は、ファイナリスト唯一のそば職人、福島代表の本田。東京での修業を経て、およそ40年続く蕎麦屋を受け継いだが、その味をめぐって、父からは連日厳しい言葉が。ドラゴンシェフへの参加も反対している父に、何とか認めてもらいたいと、今回ついに蕎麦で勝負に出た。
本田が作ったのは、2品で表現する「松阪牛の懐石」。1品目は、「すき焼き握り」。炭火で焼いた薄切り肉をタネに、塩昆布をまぜたかぶのすりおろしをシャリに見立て、寿司のように握った。卵黄とダシ、甘夏ミカンの酸味を加えたソースをかけ、仕上げはさっぱりと。試食した高嶋は「かぶのおろしがなめらかで、やさしい味」と唸り、小薇も「夏みかんを使ったソースがとてもさわやか」と語った。
本田の2品目は、薄切り肉のお椀「牛南蛮蕎麦」。キモは今大会で初めて用いた、そば粉で作ったそばがき。炭火で焼いて香ばしさを加えた。さらに塩、醤油、みりんで味付けしたかつおだしで、肉とこしあぶらをしゃぶしゃぶに。最後にダシを注ぎ、腕物に仕立てた。試食した中尾は、「香ばしくて、うまい!」と満足げ。しかし須賀は、「松阪牛をおいしく頂くという観点でいうと、ちょっと味が複雑。お椀自体に雑味が出てしまっていて、もったいない」と指摘した。
3人目は料理界の新人類、井上豪希。飲食店を経営していた父の影響で、幼い頃から包丁を握り、独学で料理を覚えたという井上。現在は、料理人や食材の生産者とともに、新商品の開発をプロデュースしている。
そんな井上が今回作ったのは、「松阪牛の冷やしすき焼き」。まず、すき焼きの要素を一度、分解。割り下は、トマトのダシに台湾茶を加えた冷たいジュレ。そこに57度の低温で調理した薄切り肉と、油で炒めた白ネギをのせ、イチジクの葉で作った香味油で香りをつける。最後にすき焼きの砂糖の代わりに、粉末状の飴を溶かしパリパリに仕上げたオブラートを載せ、いわゆるトマトすき焼きを井上流に再構築した。見た目はすき焼きとは程遠いが、甘いオブラートと一緒に食べると、口の中ですき焼きになる仕掛けになっている。試食した小薇は、「すごく新しい。お茶の香りもちゃんとして、東洋と西洋が交わったとてもユニークな発想」と賞賛。須賀は「まさに井上ワールド」と斬新さは認めつつ、「でもちょっと甘さが口に残る。もう少し試作を重ねたら、完璧なものになったのかな…」と話した。
◆今回涙を飲んだのは?
高嶋、小薇、中尾の意見を参考に、最終的なジャッジを下したのは、総監督・須賀。審査結果は、1位が高木、2位が井上。脱落した本田は、福島にいる父親に電話をかけ、負けた事を報告。反対していた父も、「よく頑張りました。ご苦労さん」と息子をねぎらった。
MC山里と敗者が最高の闘いに乾杯する「Last Skål(ラストスコール)」。山里から今の気持ちを聞かれた本田は、「悔しいけど、やっぱり力不足だった」と反省しつつ、「これまで課題がある料理を作ったことがなかったので、吸収できたものは沢山あります」と、ドラゴンシェフに参加できた喜びを語った。
◆次回の「DRAGON CHEF」
次回5月29日(土)は、元大工の異端イケメンシェフ、キッチンに舞い降りたジャンヌ・ダルク、北の個性派フレンチシェフがバトル初参戦!
総監督・須賀の師匠である料理の神様、ジョエル・ロブションが、そのシンプルな調理法で世界を驚かせた食材『ジャガイモ』で、シェフたちはどんな料理を作るのか!?