「FIST-AID」は、ライダーと防災の可能性を広げるプロジェクト
災害時に力を発揮するライダーたち
「機動力の高いオートバイは災害発生時に有効」という認識が広がったのは、1995年に発生した阪神・淡路大震災の時でした。この災害を機に発足した静岡市オフロードバイク隊では、毎年秋、自衛隊や消防局、電力会社などとともに合同訓練を実施しています。
「印象深かったのは、『どうか我々を頼りにしないでほしい』という自衛隊員の言葉でした」。そう話すのはこの訓練を取材した小川岳大さん(当社クリエイティブ本部)。「同時に、『過酷な訓練を重ねても、救える命には限りがある。災害の現場では自助意識の高いボランティアライダーが頼りになる』という実情を聞いて、これを契機に、私たちがすべきことを考えようと、社内各所から有志が集まってきた」そうです。
社内のデザイナーやIT専門家などによって企画された「防災ライダー FIST-AID(フィスト エイド)」は、ライダーと防災の可能性を考え、探り、広げていこうというプロジェクト。志のあるライダーとともに「防災ライダー」を共創していこうとクラウドファンディングを展開し、目標額500万円を超える727人からの応援購入(663万円)で成功を収めました。
防災ライダーの経験と知恵をまとめたブックレット
共感と実践の輪を広げていきたい
プロジェクトのメンバーがまず取り掛かったのは、社内に埋もれたさまざまな知見を集めること。イントラネットを通じて防災に関する体験談を募ったところ、震災時にボランティアとして救援活動に参加したライダーなどたくさんの社員から有用な情報が寄せられました。
「ライダーは一見気難しく声をかけにくそうに見えるけど、じつは気立てのいい力持ち。人々に危険が迫ると我先にと駆けつける仮面ライダー」、「バイク乗りとして身に着けたたくましさや経験値は、たとえバイクに乗っていない時でも有用」、「大切な人を守るには、まずは自分を守る意識や術を身に着けないと……」。集めた情報をテーブルに乗せては議論を重ね、「大切な人は自らの手で守る」というプロジェクトの骨子を形づくっていったそうです。
メンバーによる取材の成果や、ウェブサイトに寄せられた情報をノウハウとしてまとめた「防災ライダーブックレット」には、「ワセリンを主成分とするリップクリームをいつも携行しよう。傷口保護のほか着火剤としても代用可能」など、災害時に役に立つ幅広い知恵やアイデアを収録。一方、「I’ll be back kit」と名づけた車載工具には、日常でも使える充実の多機能ラチェットに緊急用ブランケットなどをパッケージして、困難な状況でも「無事に帰る」ことを主眼とした工夫が凝らされています。
「ライダーと防災には間違いなく親和性があります。でも、私たちだけでできることには限界がある。ライダーとともに価値を築き、共感と実践の輪を広げていきたい。ここからが始まりと考えています」(小川さん)
「無事に帰る」ことを主眼とした車載工具「I’ ll be back kit」(動画)
■広報担当者より
「FIST-AID」が発したメッセージはSNS等を通じて広く共有され、Facebookのシェアはすでに2,000件を超えています。「共感をしていただき、さらにこのメッセージを広げたいと感じてくれた方がこれだけ存在することが励みになる」と小川さん。災害に対して多くのライダーが関心を持っているのと同時に、仮面ライダー気質というのもバイクに乗る人々の本質を突いているのかもしれません。