絶滅危惧種「タンゴスジシマドジョウ」の遺伝的特徴を解明 今後の保護活動につながる研究成果



近畿大学大学院農学研究科博士前期課程2年の石原雅子(指導教員:准教授 北川忠生)は、自然環境研究センター、信州大学との共同研究によって、京都府丹後地方の一つの河川だけに生息する淡水魚「タンゴスジシマドジョウ」の遺伝的な特徴を明らかにしました。研究によって遺伝的な特徴が明らかとなったことで、タンゴスジシマドジョウの保護につながることが期待されます。
本研究に関する論文が、令和2年(2020年)8月5日(水)に、魚類学の国際誌 “Journal of Applied Ichthyology”に掲載されました。




 近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)博士前期課程2年の石原雅子(指導教員:准教授 北川忠生)は、自然環境研究センター、信州大学との共同研究によって、京都府丹後地方の一つの河川だけに生息する淡水魚「タンゴスジシマドジョウ」の遺伝的な特徴を明らかにしました。タンゴスジシマドジョウは、国際的なIUCN※1 のレッドリスト※2 、日本の環境省のレッドリスト、京都府のレッドリスト、それらすべてにおいて、最も絶滅リスクが高いとされる「絶滅危惧IA類」として掲載されています。研究によって遺伝的な特徴が明らかとなったことで、タンゴスジシマドジョウの保護につながることが期待されます。
 本研究に関する論文が、令和2年(2020年)8月5日(水)に、魚類学の国際誌 ''Journal of Applied Ichthyology''に掲載されました。

1. 本件のポイント
● 絶滅危惧種のタンゴスジシマドジョウが雑種由来の4倍体であることを証明
● タンゴスジシマドジョウの種の同定を確実かつ迅速に判定できる簡易DNA分析法を開発
● 最も絶滅リスクが高いとされるタンゴスジシマドジョウの遺伝的な特徴をとらえることで保護活動につながる

2. 本件の背景
 タンゴスジシマドジョウ(学名:Cobitis takenoi)は、平成22年(2010年)に近畿大学農学部准教授の北川忠生の研究チームが丹後地方の1つの河川から発見した新種で、未だに他の河川からは見つかっていません。国際的なIUCNのレッドリスト、日本の環境省のレッドリスト、京都府のレッドリストにおいて、最も絶滅のリスクが高いランクである「絶滅危惧IA類」として掲載されており、平成30年(2019年)には種の保存法※3 が定める国内希少野生動植物種※4 にも指定され、捕獲や飼育などが禁止されています。日本国内だけでなく国際的なレッドリストでも「絶滅危惧IA類」として掲載されている魚類は、タンゴスジシマドジョウ、アユモドキ、ウラウチイソハゼ、ドウクツミミズハゼの4種しかいないということからも、タンゴスジシマドジョウの希少性がわかります。
 このように、タンゴスジシマドジョウは最も絶滅の危険性が高いにも関わらず、その遺伝的な特徴がほとんど知られていないため、保護活動を行うためにも詳しい研究が必要とされていました。

3. 本件の内容
 これまでの研究でタンゴスジシマドジョウが4倍体※5 であることはわかっていましたが、今回行った核DNA分析によって、近縁な2倍体の2つの種の交雑で新たに生じた雑種由来の種であることが確認されました。また、タンゴスジシマドジョウの生息河川には近縁な別種が生息しており、中間の形態的特徴を持つ個体が確認されていましたが、これらは雑種ではなく、その多くがタンゴスジシマドジョウの種内変異であることが確認されました。タンゴスジシマドジョウは元々、雑種を起源として誕生した種ですが、現在は独立した種として安定的に存在していることを示しています。さらに、DNAの塩基配列を直接調べなくても電気泳動だけでタンゴスジシマドジョウを種同定できる簡易分析法を確立し、今後の保護活動に役立つことが期待されます。

4. 論文掲載
・雑 誌 名:魚類学の国際誌''Journal of Applied Ichthyology''
 (インパクトファクター:0.910 2019-2020)
・論 文 名:Examination of unidentifiable spined loach individuals found in
the overlap zone of two tetraploid species within a single river in Japan
 (日本のある一河川において4倍体シマドジョウ2種の生息が重複する範囲で発見された識別不能な個体の調査)
・著 者 名:石原雅子1、森田圭吾1、入口友香2、高久宏佑2、高田啓介3、北川忠生1
・著者所属:1 近畿大学大学院農学研究科環境管理学専攻
 2 一般財団法人 自然環境研究センター
 3 信州大学理学部
・論文掲載: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jai.14081

5. 研究の詳細
 タンゴスジシマドジョウは、赤血球細胞の大きさから染色体数が多い4倍体種であることがわかっており、また、複数の種の形態学的特徴を合わせもつことから、雑種起源の4倍体種であると推定されていました。
 今回の研究の結果、核のDNAの分析によって、近縁な2倍体の2種のゲノムを併せ持つことが確認され、2種の交雑の結果生じた雑種由来の4倍体種であることが確認されました。
 タンゴスジシマドジョウの生息する河川には、オオシマドジョウという近縁な4倍体種が生息しており、一部の区間で両種が混成しています。この混成区間から、どちらの種であるか断定できない中間的な形態的特徴を持つ個体が複数得られことから、4倍体同士の両種が交雑して雑種を形成している可能性も示唆されていました。しかし、本研究におけるミトコンドリアDNAおよび核DNAの解析によると、2種がもつDNAの塩基配列の間には明瞭な違いがあり、形態的に中間的な形質を持つ個体も雑種ではなく、その多くがタンゴスジシマドジョウであることがわかりました。このことは、タンゴスジシマドジョウは元々、雑種を起源として誕生した種であるが、現在は独立した種として安定的に存在していることを示しています。また、タンゴスジシマドジョウは雑種由来の4倍体種で異なる種のゲノム情報を持ち合わせていることから、形態変異の幅が広いと考えられます。
 今後、絶滅危惧種であるタンゴスジシマドジョウを保護するにあたっては、同種を確実に同定する必要がありますが、形態変異の大きさから困難を伴います。DNAによる同定方法は有効ですが、通常、4倍体生物の種を同定するためのDNA分析には、最短で4日という日数と高額な分析装置を要します。本研究では、今回得られたDNAの塩基配列の情報に基づき、たった1日で、しかも簡単な電気泳動のみでタンゴスジシマドジョウ(および他種との雑種)を簡易に判別できるDNA分析法(PCR-RFLP法)を確立しました。迅速に種が同定できることにより、今後のタンゴスジシマドジョウの保護に役立つことが期待されます。

6. 用語解説
※1 IUCN:国際自然保護連合の略。国際的なレッドリストを作製している機関。
※2 レッドリスト:絶滅の恐れがある野生動物のリスト、国際的には国際自然保護連合(IUCN)が作成しており、国内では、環境省のほか、地方公共団体なども作成。
※3 種の保存法:平成5年4月に施行された希少な野生生物を守る日本の法律。
※4 国内希少野生動植物種:種の保存法により人為の影響により生息・生育状況に支障をきしているものの中から指定し、個体の取り扱い規制、生息地の保護、保護増殖事業の実施など保全のために必要な措置を講じる種。
※5 4倍体:生物の染色体数が基本数nの4倍を有する倍数体。通常の生物は2倍体であり、特に脊椎動物における4倍体は珍しい。


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