昭和大学(東京都品川区/学長:久光 正)の高山靖規講師(医学部生理学講座生体制御学部門)は、自然科学研究機構生理学研究所の丸山健太医師らを主とするグループの共同研究により、生体のセロトニン産生を制御する新たな仕組みを解明しました。本研究結果は米科学誌の『Cell』(2020年8月6日号掲載予定)に掲載されます。
我々の血圧は常に一定範囲に保たれるよう調節されていますが、こうした恒常性の維持には、血管に発現するPiezo1(ピエゾ ワン)と呼ばれる機械刺激受容体(注1)が中心的な役割を担っています。Piezo1は血管のみならず腸でも発現していますが、腸でのPiezo1の役割は不明でした。
今回、Piezo1をマウスの腸管上皮細胞でのみ欠損させたマウスを作製したところ、このマウスでは、(1) 腸の蠕動運動が低下すること、(2) 薬剤性腸炎に耐性を示すこと、(3) 骨量が増加することが観察されました。この一見、無関係に思われる複数の現象を説明するメカニズムを探索した結果、「マウスの糞便中に含まれる腸内細菌由来のRNA分子が腸のPiezo1受容体を活性化し、セロトニン(注2)ホルモンの産生を誘導している」という全く新しい事実がわかりました。
つまり、Piezo1が欠損することで、腸内でのセロトニンの産生が減少し、腸や骨といった本来セロトニンが作用する臓器に影響が及んだと考えられました。これらの結果は、糞便中の細菌RNA(注3)がPiezo1を介して腸と骨の恒常性を維持していることを示唆すると同時に、腸内RNA量の制御によって便秘、腸炎、骨粗鬆症などの治療を開発できることを意味しています。
※研究内容の詳細は添付PDF参照
■用語解説
注1)機械刺激受容体:細胞に加わる機械刺激を生物学的シグナルに変換するための受容体で、臓器や組織が圧力を感知して応答するための中核分子。
注2)セロトニン:腸に90パーセント、脳に2パーセント、残りは血小板や血液中に分布するホルモン。腸上皮にあるエンテロクロマフィン細胞で作られ、腸蠕動を促進したり腸炎を増悪させる作用がある。セロトニンの一部は血中に放出されて骨髄に到達し、骨を作る骨芽細胞の働きを抑制することで骨量を低下させる。脳に存在するセロトニンは脳幹で作られ、気分を安定させる作用を持つ。
注3)RNA:リボヌクレオチドがホスホジエステル結合でつながった核酸のこと。DNAの遺伝情報を発現させるための枢軸分子。
■論文タイトル・著者情報
RNA sensing by gut Piezo1 is essential for systemic serotonin synthesis.
Erika Sugisawa, Yasunori Takayama, Naoki Takemura, Takeshi Kondo, Shigetsugu Hatakeyama, Yutaro Kumagai, Masataka Sunagawa, Makoto Tominaga and *Kenta Maruyama *責任著者
Cell(米国時間2020年7月7 日午前11 時オンライン版掲載予定)
■お問い合わせ先
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自然科学研究機構 生理学研究所 生体機能調節研究領域
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<広報に関すること>
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