徳島文理大学(学長:田村禎通)薬学部の深田俊幸教授らの研究グループは、亜鉛の欠乏がエピジェネティクス[1]による遺伝子の発現のしくみを撹乱し、細胞の機能を障害することを、ヒトの表皮細胞、ヒト臨床検体、バイオインフォマティクス技術によるデータベース解析を用いた研究から明らかにした。これは、高知大学医学部(佐野栄紀教授)、岩手医科大学(入江太朗教授)、亜洲大学校自然科学大学(賓範浩)との共同研究 [2]によるもの。この成果は『Journal of Dermatological Science』に掲載される。
【研究の背景】
生命の維持に必要な微量元素である亜鉛は、常に食物や飲料から摂取する必要のある栄養素の一つ[3]。亜鉛の摂取量の低下や栄養状態の変化などによって体内の亜鉛量が減少すると、皮膚炎、口内炎、褥瘡(床ずれ)、味覚の異常、成長遅延、易感染性、貧血をはじめとする亜鉛欠乏症[4,5]の症状が現れる。最近では、加齢に伴って体内の亜鉛量が減少する傾向があることが判明し、体内の亜鉛量の減少と老齢疾患との関わりが注目されている。
しかしながら、亜鉛の欠乏が細胞の機能にどのような影響を与えるのか、まだ十分に解明されていない。研究グループは、亜鉛が食事や飲料といった体の外から摂取する物質であることや、亜鉛の欠乏が多様な障害をもたらすことに着目。本研究を実施した。
【研究手法と成果】
具体的には、環境要因に対する遺伝子発現の対応機構であるエピジェネティクスが、亜鉛の欠乏に対してどのような影響を受けるのか検討した。その結果、エピジェネティクスの制御に重要なヒストンアセチル化酵素の活性が低下して表皮細胞のヒストンアセチル化が減弱化し、表皮形成が障害されること、さらに、炎症に関連する遺伝子発現が上昇する一方で、皮膚の形成に関わる遺伝子の発現が顕著に抑制されることを確認した。
すなわち、亜鉛の欠乏がエピジェネティクスを撹乱してさまざまな病気の発症に関与することを示しており、言い換えれば、亜鉛が細胞のエピジェネティクスに深く関わっていることを示唆している。
【今後の展開と期待】
今回の成果は、亜鉛がエピジェネティクスの制御に関わる新たな環境因子であることを示している。今後の研究から、体内の亜鉛量を調整してエピジェネティクスを正しく制御する薬剤が開発され、亜鉛欠乏症に対する新しい治療方法が確立されることが期待される。
なお本研究成果は、『Journal of Dermatological Science』から発表される。
※研究の詳細および[1]~[5]の解説は、添付PDFを参照。
▼本件に関する問い合わせ先
徳島文理大学薬学部(病態分子薬理学研究室)
深田俊幸
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FAX:088-655-3051
メール:fukada@ph.bunri-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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