大学通信から中学・高校のニュースリリースをお送りします。
日本学園中学校の卒業生で、昨年11月に文化勲章を受章された甘利俊一博士(東京大学名誉教授・国立研究開発法人理化学研究所栄誉研究員)が2月13日(木)、母校の日本学園中学校・高等学校(東京都世田谷区 学校長:水野重均)を訪問。同校の生徒や、甘利博士の同窓生の方々を前に、「人工知能と社会」をテーマとした記念講演を開催した。講演終了後は生徒らからの活発な質疑応答ににこやかに応対。水野校長の謝辞のあと、生徒会長からの花束贈呈を受け、会場は大きな拍手に包まれた。
甘利俊一博士は1951(昭和26)年3月、日本学園中学校を卒業。都立戸山高等学校、東京大学工学部を経て、同大学院で数理工学を専攻した。情報幾何学や、脳機能をモデルとする神経回路網理論の研究によって国際的に知られ、近年大きく飛躍しているAI研究の分野における先駆者の一人として世界をリードしている。
記念講演には日本学園中学校の1~3年生68名、高等学校1・2年生340名および、甘利博士と同時代に中学時代を過ごした同窓生16名が参加。およそ70年前、日本学園中学校で学んだ当時の思い出話から始まり、1950年代の本格的なコンピューターの登場以来、「人間に代わって知的な作業を行う」人工知能の実現に挑む科学者たちの歴史が紹介された。
甘利博士の講義は138億年前の、ビッグバンによる「宇宙の誕生」から語り始められる。地球は46億年前に誕生し、最初の生命は36億年前に生まれた。その後、猿人、原人、旧人類を経て、私たち現代人と同じ「新人類」が登場する。あらゆる生物の中で、知的活動を行うのは人間だけだ。その人間は「学習」を通じて知的能力を培ってきた。
そこで、科学者たちは人間の脳をモデルとした神経細胞(ニューロン)からなる回路網を作り、それを学習させれば、人間のような知的作業を行える「人工知能」ができるのではないかと考えた。しかし、1950年当時のコンピューターの処理能力は低く、実現できなかった。この人工知能とニューラルネットワークの挑戦は1970年代にも再燃したが、やはり実現できず、ブームは沈静化した。
しかし、2000年代に入り、コンピューターの能力が飛躍的に高まったことで、人工知能は急速に進展。「この画像の中には何があるか」を判定するような、機械には困難と思われていた「パターン認識」も、人間よりはるかに速く、高い精度で実行できるようになった。
甘利博士の趣味でもあり、''人類が生み出した最高のゲーム''とも評される「囲碁」の世界でも、コンピューターがついにプロ棋士を打ち負かし、世界に大きな衝撃を与えたことは記憶に新しい。また、言語は人間だけが操れる非常に高度で知的なもので、文法構造や意味論なども求められる分野だが、今日ではある自然言語(英語など)を別の自然言語(日本語など)に自動変換するといった「機械翻訳」の技術も実用化に至っている。
甘利博士は、こうした人工知能の研究に重要な「脳機能をモデルとする神経回路網理論」の先駆的研究で世界的に知られるが、その道に進むきっかけとなったのが、日本学園中学時代に出会った数学の恩師、荒井好雄先生だ。当時、同校は週5日制で、木曜日が休みだった。大学を出て着任したばかりの荒井先生は、その休日を利用して、「中学の数学は幼稚なので高校レベルの数学をしよう」と高校の数学を教えてくれ、それがきっかけとなり数学の世界に魅せられたという。
「数学の力で、物事のいろいろな仕組みを調べてみたい。その中の一つに、脳がなぜあのようにうまく働くのか、その原理を数学的に調べてみたいという気持ちが生まれました」と、甘利博士は当時を振り返る。
また、1時間にわたる講演後に行われた質疑応答では、「私は数理工学という、当時はあまり人のやらない分野を、面白そうだからと研究してきましたが、10年、20年経つとそれが最先端の学問として盛んになっていきました。大事なのは、自分のやりたいことを貫くこと。型にはめられて、やりたいことができない社会では人間は伸びないのです」とも語った。
記念講演を締めるに当たり、日本学園中学校・高等学校の水野重均校長は甘利博士に謝辞を述べるとともに、生徒には「甘利先生のお話の中から一つでもいいから、自分の心の中に小さなタネを植えてほしい。そのタネを本校でしっかり育てて、社会に出た時にいい花を咲かせてください」と呼びかけた。生徒会長の河元亮佑さんから贈呈された花束を手に、満場の拍手の中、甘利博士が退出し、記念講演は閉会となった。
【記念講演を聴講した生徒たちの声】
○高1A組 Tさん「AIについての考え方」
今回の発表で「AIの暴走の原因はAIではなく、人間の方にある」など、AI自体に問題があるのではなく、使う側が正しく使っていかなければならないということが、特に印象に残りました。
また、AIとの協力が大事ということやAIに対する考え方など、その職についているからこそのお話を聞くことが出来、AIに対する考え方が変わり、非常に興味深く、有意義だと思いました。
○高1B組 Mさん「AI」
人工知能の発達までの努力の過程を、力を入れて話されていたことが印象的でした。何気なく使用し、日々進化し続けているAIも、沢山の研究者の努力と苦労があったことがよく伝わりました。
今後の社会を作るのは、AIではなく人間である。今日、甘利先生に頂いたお言葉をもとに、今後の社会の一員として、AIとの付き合い方、活用の仕方をしっかり考えたいと思います。
○高2F組 Sさん「甘利俊一先生の講演会の感想」
「人は得意な道で成長すれば良い」という杉浦重剛先生の有名な言葉がありますが、この教えを見事に体現されたのが甘利俊一先生だと思いました。複雑で難しい内容の話を、我々高校生にも分かりやすく説明されていたことに感謝しました。私も日本学園の生徒であることに誇りを持ち、甘利先生のように得意な道で花を咲かせられるよう、精進していきたいと思います。
○高2F組 Yさん「甘利さんの話を聞いて」
今回、甘利さんの話を聞いて「AI」についての考えが変化した気がする。
人は何でAIを作ったのか、そこから数年、数十年かけて進化し続けたAIは、どうやって進化してきたのか。今では、AIは無くてはならない存在だと思うが、今後AIが人を超えた時、自分達人間は、どうやってAIと向き合っていくのか、不安にもなった。人間がAIを悪用することも考えると、未来がどうなるのか、とても考え深い話だった。
■甘利俊一博士 プロフィール
2019年11月に文化勲章を受章した、数理工学を専攻する研究者。情報幾何など、情報の数理を扱う数学理論を提唱し、人工知能の基礎理論を築く一方、脳の仕組みを数理の立場で明らかにする数理脳科学の建設に励む。
日本学園中学校、都立戸山高等学校、東京大学工学部卒業。同大学院で数理工学を専攻。九州大学助教授、東京大学助教授、教授を経て、現在同名誉教授。理化学研究所の脳科学総合研究センターのセンター長を5年間勤め、現在は栄誉研究員。
電子情報通信学会会長、国際神経回路網学会会長などを務め、文化功労者、日本学士院賞、IEEEピオーレ賞、神経回路網パイオニア賞、Gabor賞など受賞多数。囲碁6段、テニスやスキーを楽しむ。日本棋院の囲碁大使。
■日本学園中学校・高等学校について
日本学園は1885年(明治18年)、明治の偉人の一人である杉浦重剛によって創立された。
同校は「人は得意な道で成長すればよい」とする杉浦の精神を引き継ぎ、天性を尊重し、人格教育を重んじた教育を行っており、総理大臣の吉田茂、最高裁長官三好達、丸山ワクチン開発者の丸山千里、紀伊國屋書店社長高井昌史、俳優の斎藤工、アトランタオリンピック野球銀メダリストの西郷泰之など、様々な分野に多くの著名人を輩出している。
文化勲章受章者は、横山大観(画家)、鏑木清方(画家)、佐佐木信綱(歌人)、鈴木虎雄(中国文学)、永井荷風(作家)、岩波茂雄(岩波書店創立者)、長谷川如是閑(評論家)と今回の甘利俊一博士(数理工学)で8人目。
校舎1号館は今井兼次(同校OB・早稲田大学名誉教授)氏の設計により昭和11年に建設されたもので、国の登録有形文化財となっている。
世田谷の閑静な住宅街の一角に位置し(東京都世田谷区松原2-7-34)、京王線・京王井の頭線「明大前」駅より徒歩5分、京王線・東急世田谷線「下高井戸」駅より徒歩10分、小田急線「豪徳寺」駅より徒歩15分と、最寄駅から徒歩で通える地にある。
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/