北里大学 海洋生命科学部 廣瀬雅人助教らの研究グループは、日本の沿岸域に生息するツブナリコケムシの仲間の新種を3種発見しました。これまで日本に生息するものは海外で報告されたものと同種と考えられてきましたが、日本各地の沿岸域における野外調査や博物館における標本調査を実施し、詳細な形態観察を行った結果、これらが名前の付いていない未記載種であることが判明しました。
この研究成果は、2020年2月20日付で、動物分類学に関する学術誌『Zootaxa』に掲載されました。
【新種の学名】
◆Amathia reptopinnata
◆Amathia brevisilva
◆Amathia fimbria
【研究の背景】
コケムシは、苔虫動物門(外肛動物門)に分類される無脊椎動物で、水中の貝殻や海藻の上に植物のコケのような群体をつくる動物です。体長1mm弱の小さな個虫が無性生殖を繰り返し、海藻状やサンゴ状などさまざまな形の群体をつくります。個虫はそれぞれ触手がカップ状に並んだ触手冠をもち、これを使って水中の微生物などを濾過して食べています。現生種約6,000種のうち大半が海に生息しており、日本の海にも1,000種以上が生息していると考えられています。
ツブナリコケムシの仲間は、枝分かれした柔らかい海藻状の群体をつくるグループで、透明な細い軸の周りに個虫がらせん状に並びます。これまで日本に生息しているものは海外で報告されたものと同種であると考えられていました。
【研究内容と成果】
日本各地の沿岸域における野外調査や博物館における標本調査を実施し、詳細な形態観察を行った結果、ツブナリコケムシの仲間の新種を3種発見しました。
今回、新種として発表した3種はいずれも、身近な沿岸域に生息している種です。このうちAmathia reptopinnata (図1)は、これまで「ツブナリコケムシ」の和名で知られてきた種です。本種は宮城県松島湾で養殖しているカキにも多く付着しており、その生態や生息環境に関する知見が、これらの付着を抑制するためにも求められています。本種の学名は基質への付着部位で個虫が羽状に並ぶことにちなんでいます。
2種目の新種であるAmathia brevisilva(図2)は、磯などの潮間帯にも生息している種です。本研究では、2017年の海洋生命科学部海洋実習(臨海生物学実習)の中で神奈川県真鶴町の磯で採集された標本をタイプ標本(新種の基準となる世界で唯一無二の標本)として登録しました。本種の学名は、海岸の石の裏などに小さな茂みのような群体をつくることにちなんでいます。
3種目の新種であるAmathia fimbria (図3)は、昭和天皇が1934年~1987年にかけて相模湾で採集されたコケムシ標本の中から見つかりました。昭和天皇は、ヒドロ虫類(クラゲの仲間)の分類に取り組み、コケムシを含むさまざまな分類群の生物を採集しました。本種は群体が細かく三叉に枝分かれする様子から、着物の房飾りに見立てた学名を付けました。
なお、本論文では、フランスの国立自然史博物館の海藻コレクション中から発見されたAmathia acervata という種の乾燥状態のタイプ標本についても掲載しています。この標本は1804年にTilesiusによって日本で採集されたもので、長年所在が不明だったため第二次世界大戦で焼失したとも考えられていたものでしたが、古いラベルの情報などから今回の再発見に至りました。なお、通常ツブナリコケムシの仲間は乾燥してしまうと重要な形質の観察が困難となりますが、本研究では乾燥状態の標本をリン酸ナトリウム溶液に浸すことで乾燥状態から復元して観察しています。
【今後の展開】
日本に1,000種以上が生息すると考えられているコケムシですが、その多くが未だ名前も付けられていない未記載種です。コケムシの中には有用な生理活性物質が得られる種も知られており、さまざまな応用研究の発展も期待されます。これらの生物を対象とした研究の発展に向けても、今後も日本のコケムシ類の多様性を明らかにしていきたいと考えています。
【論文情報】
掲載誌:Zootaxa(Magnolia Press/ニュージーランド)
論文名:New seriated Amathia species in Japan, with a redescription of A. acervata Lamouroux, 1824 (Bryozoa: Ctenostomata)
著者:Hirose M., Gordon D.P., d'Hondt J-L.
DOI:10.11646/zootaxa.4742.2.5
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