このたび、同志社大学大学院脳科学研究科の廣川純也准教授と米国コールドスプリングハーバー研究所のAdam Kepecs教授らの研究グループは、脳の前頭葉における意思決定の構造基盤に関する研究発表を行いました。この内容は日本時間12月5日(木)午前3時に「Nature」に掲載されました。
【本研究のポイント】
・脳の前頭葉(眼窩前頭皮質)が、意思決定についての情報(報酬の量、自信、経験等)を適切に統合していることを明らかにしました。
・眼窩前頭皮質は、それら基本的な意思決定情報を持つ少数の均質な集団から構成されていることを明らかにしました。
・そのような集団の中で、統合された情報を持つ神経細胞集団は特定の経路による出力(線条体投射)を持つことを発見しました。
・本研究成果は、依存症などの特定の心的機能に関わる症状に対し、前頭葉から特定の出力経路に標的を絞った治療法を開発することに役立ちます。
【本研究の内容】
ひとは日常、様々な情報を統合して意思決定を下し行動しています。夕食に何を食べるのかをとってみても、財布の中身、健康、前日の献立など様々なことを考慮します。これまでの研究から、脳の前頭葉に障害を受けるとこのような情報の統合がうまくいかなくなり、不適切な行動をしてしまうことがわかっていました。しかし前頭葉での情報処理は複雑で、人為的にその過程に介入し特定の認知障害を取り除くことは不可能であると考えられてきました。
廣川准教授らの研究グループはこの問題の解決につながる、二つの現象を発見しました。まず、ラットが様々な情報を統合して意思決定を行っている際、前頭葉(眼窩前頭皮質)の多数の神経細胞の活動を解析しました。その結果、眼窩前頭皮質は最適な意思決定を行うために必要な基礎的な情報を持ついくつかの細胞群に分けられることを発見しました。二つ目に、光遺伝学と呼ばれる最新の方法を利用することで、その中の特定の細胞群が脳の線条体に出力していることを発見しました。これらの発見は、特定の認知機能が前頭葉からの特定の出力構造とリンクしていることを意味しています。このことから、個々の認知機能にリンクした出力経路を標的とすることで、意思決定に障害を示す依存症等の精神神経疾患を、より効果的に治癒することが可能になると考えています。
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