帝京大学医学部(東京都板橋区)内科学講座の片岡明久助教は、日本人の奇異性低流量低圧較差―重症大動脈弁狭窄症は経皮的大動脈弁留置術後の中期的予後は不良であることを明らかにした。これは、9施設合同のOCEAN-TAVIレジストリーの共同研究の成果。研究結果は、国際科学雑誌『JACC:Cardiovascular Imaging』オンライン版に2017年5月17日に発表された。
【ポイント】
・日本人の奇異性低流量低圧較差―重症大動脈弁狭窄症は、世界のエビデンスと違い自然予後は良いとされていた。また、経皮的大動脈弁留置術患者に対しては過去本邦のエビデンスはなかった。
・日本人の奇異性低流量低圧較差―重症大動脈弁狭窄症は、経皮的大動脈弁留置術を施行しても中期的予後は不良であることを初めて明らかにした。
・本成果によって、経皮的大動脈弁留置術術後も厳格な内科的管理の必要性があることが分かった。
【研究の背景】
欧米のコンセンサスと反対に体格が小さい日本人では、奇異性低流量低圧較差―重症大動脈弁狭窄症の自然歴は良いとされていて、専門家のなかでもどのような病態か分かっていなかった。
そこで、OCEAN-TAVIレジストリーに登録された723名の経皮的大動脈弁留置術を施行した体格の小さい日本人の高齢者のコホートで、奇異性低流量低圧較差―重症大動脈弁狭窄症患者の予後を調査した。
【研究成果の概略】
日本人のコホートでの奇異性低流量低圧較差―重症大動脈弁狭窄症は、既知の欧米のエビデンスと同様に、経皮的大動脈弁留置術を施行しても、通常流量高圧較差―重症大動脈弁狭窄症と比較して中期的予後が悪い結果だった。また、低流量は手術後の心血管死亡の独立した予測因子でもあった。
さらに全死亡、心血管死亡を予測する低流量の定義である拍出係数は35.3 ml/m2であり、欧米のガイドラインが推奨する35.3 ml/m2未満は体格の小さな日本人にも適切であると考えられた。
【研究成果の意義】
奇異性低流量低圧較差―重症大動脈弁狭窄症と一概には言っても幅が広く、経皮的大動脈弁留置術の適応となるようなより重症の病態では、求心性肥大を呈している割合が多く、大動脈弁狭窄症解除後も左室駆出率が保持された心不全状態と考えられる。そのため、術後も厳密な内科的な管理が必要であると考えられた。
●片岡明久助教プロフィール
2003年高知医科大学卒。聖路加国際病院、榊原記念病院で研修後、千葉大学でPhD取得。2012~2014年ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院に留学して心エコーを学ぶ。2014年12月から現職。また、欧州心血管画像学会の若手の日本代表や『JACC:Cardiovascular Imaging』誌の編集コンサルト委員も務める。
●論文のHP
http://www.imaging.onlinejacc.org/content/early/2017/05/10/j.jcmg.2016.12.028?download=true&sso=1&sso_redirect_count=1&access_token
・TAVI(Transcatheter aortic valve implantation)または(TAVR)Transcatheter aortic valve
replacement
重症の大動脈弁狭窄症に対する新しい治療法、経カテーテル大動脈弁植え込み術のこと。胸を全く切開しない、または大きく切開せずに人工弁を設置。従来の弁置換術のように心臓を停止する必要がなく人工心肺を使用しなくて済むことから、患者の体への負担が少ない。帝京大学医学部附属病院でも積極的に行っている。
http://www.teikyocard.com/medical_care/tavi/
・大動脈弁狭窄症
心臓の出口にある大動脈弁が加齢や動脈硬化によって狭くなる病気。進行すると狭心痛や失神、さらには心不全を起こす。
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【リリース発信元】 大学プレスセンター
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