徳島文理大学(学長 桐野豊)薬学部の深田俊幸教授(昭和大学歯学部兼任講師・理化学研究所客員研究員)、昭和大学(学長 小出良平)歯学部の美島健二教授、理化学研究所(理事長 松本紘)らの共同研究グループ[1]は、生体内の亜鉛が健康的な皮膚コラーゲンの維持に重要であることを、マウスを用いた研究で明らかにした。この成果は米国および欧州皮膚科学会の雑誌『Journal of Investigative Dermatology』の電子版に米国東部時間5月22日に掲載された。
【研究成果のポイント】
・亜鉛の輸送体「ZIP7」は皮膚線維芽細胞の増殖に必要
・「ZIP7」は小胞体ストレスを抑制して幹細胞の増殖を支持する
・皮膚のコラーゲン維持における亜鉛の新たな役割解明に貢献
亜鉛は生命活動に必要な微量元素の1つで、毎日の食事から摂取されている。生体内における亜鉛は、皮膚・骨・筋肉に多く存在することが知られており、何らかの原因によって生体内の亜鉛量が一定値を下回る「亜鉛欠乏状態」になると、創傷治癒の遅延・味覚の異常・免疫機能の低下など、さまざまな異常が生じる。中でも、皮膚症状は亜鉛欠乏によって現れやすい症状の一つと考えられており、亜鉛が皮膚の維持に重要な役割を果たしていると考えられている[2]。しかし、これまで皮膚を形成する細胞での亜鉛の働きは十分に解明されていなかった。
共同研究グループは、皮膚における生理機能が不明であった亜鉛の輸送体(亜鉛トランスポーター)[3]「ZIP7」に注目。その役割について、マウスと培養細胞を用いた検討から解明に挑んだ。その結果、ZIP7が欠損するとコラーゲンを産生する線維芽細胞が減少し、皮膚が著しく薄くなることが分かった。さらに詳細に調べると、ZIP7の欠損によって線維芽細胞のもとになる間葉系幹細胞[4]の小胞体に亜鉛が蓄積し、小胞体内にあるタンパク質の形作りに関わるプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)[5]が不活化されて、小胞体ストレス[6]が過剰に亢進することによる細胞死が誘導されることが分かった。
今回の成果は、亜鉛トランスポーターZIP7が皮膚のコラーゲン維持に必要であることを示している。今後、ZIP7の機能を詳細に調べることで、加齢による皮膚の変化や皮膚がん・アトピー性皮膚炎といった皮膚に関連する病気において、ZIP7が有用な治療ターゲットとなることが期待される。
【背 景】
亜鉛は必須微量元素の1つであり、食事によって摂取された亜鉛は全身の細胞内に取り込まれ、さまざまな生理応答を制御するために使われる。これまでの報告から、生体内に摂取された亜鉛は、皮膚・骨・筋肉に多く蓄積されていることが知られており、これらの器官を形成する細胞で重要な働きをしていると考えられている。
私たちは毎日の食事から亜鉛を摂取しているが、何らかの原因によって生体内の亜鉛量が低下する亜鉛欠乏状態が生じると、皮膚疾患・味覚異常・生殖機能低下・免疫不全などの症状が現れることが知られている。従って、生体内の亜鉛は常に適切なレベルで調節されている必要があり、それを担う生体内の分子が亜鉛トランスポーターと呼ばれる亜鉛の輸送体である。亜鉛トランスポーターによって運ばれる亜鉛は、シグナル因子(亜鉛シグナル)として細胞内情報の伝達制御に重要な役割を果たし、さまざまな生理応答を調節していると考えられている[3]。
これまでに報告されている亜鉛トランスポーターの機能として、例えば亜鉛トランスポーター「ZIP13」は、骨などの形成に関わる増殖因子BMP[7] や組織発生で重要な役割を持つ増殖因子「TGF-β」[8]の情報伝達制御に関わることが示されている[9]。また、亜鉛トランスポーター「ZIP10」はBリンパ球の維持と機能を制御し、獲得免疫に重要であることが分かっている[10,11]。このように、それぞれの亜鉛トランスポーターが制御する機能には、生物学的な特異性があることが示されている[3]。
しかし、亜鉛が皮膚においてどのような役割をもっているのか、特に「皮膚のコラーゲン産生や維持に亜鉛がどのように関わっているのか」については、その詳しいメカニズムは明らかにされていなかった。
【研究手法と成果】
共同研究グループは、皮膚における役割が不明であった亜鉛トランスポーターZIP7が、線維芽細胞に存在することを見出した。そこで、1型コラーゲン遺伝子が発現する線維芽細胞でZIP7遺伝子が欠損するマウスを作製し、皮膚の特徴を解析した。その結果、ZIP7遺伝子を欠損したマウスでは皮膚の薄弱化が生じ、コラーゲン線維の顕著な減少が認められた(図1)。さらに、皮下脂肪の減少・骨密度の低下・歯牙の形成異常・軟骨組織の異常も確認された。これらの組織を形成する細胞はいずれも間葉系幹細胞[11]から分化することから、間葉系幹細胞におけるZIP7の役割を検証した。間葉系幹細胞におけるZIP7の遺伝子を不活化させたところ、細胞増殖が抑制され、さらに線維芽細胞や骨芽細胞への分化誘導が著しく阻害された。以上のことから、ZIP7は間葉系幹細胞の増殖や分化に関係していることが示唆された。
次に、間葉系幹細胞の増殖と分化に、ZIP7がどのようなメカニズムで関係しているか検証した。その結果、ZIP7の欠損により小胞体ストレスに応答する遺伝子の増加と、細胞の増殖と分化に関連する遺伝子の減少が認められた。つまり、ZIP7の欠損によって、小胞体ストレスを介する細胞死(アポトーシス)が亢進していることが示された。
さらに、ZIP7の欠損による小胞体ストレス応答の上昇が、どのようなメカニズムで起きているのか検証するために、小胞体でのタンパク質の品質管理に関わるPDIを解析した。その結果、ZIP7の欠損によって小胞体内に亜鉛が過剰に蓄積していること、この過剰な亜鉛がPDIを凝集させてその活性を抑えていることが確認された。これらの結果から、ZIP7は小胞体内の亜鉛量を調節し、PDIの活性を適正化することで、小胞体ストレス応答の上昇を制限していることが明らかになった。
今回の結果は、皮膚のコラーゲン産生とその維持において、ZIP7が極めて重要な制御因子であることを示している(図2)。
【今後の期待】
今回の解析から、皮膚のコラーゲンを維持するためには、細胞内の亜鉛を制御する亜鉛トランスポーターZIP7の働きが重要であることが明らかとなった。このことは、ZIP7の働きによって運ばれる亜鉛が、皮膚の形成に必須であることを示している。皮膚のコラーゲンは皮膚の弾力性や強靭性に関与し、加齢による皮膚の変化にも影響を及ぼす。今後、ZIP7の機能を制御するしくみや化合物を見つけることで、加齢による変化への対策や、皮膚疾患の治療法の開発に繋がることが期待される。
【補足説明】
[1]~[11]および図1、2は添付資料参照
【原論文情報】
著者: Bum-Ho Bin, Jinhyuk Bhin, Juyeon Seo, Se-Young Kim, Eunyoung Lee, Kyuhee Park, Dong-Hwa Choi, Teruhisa Takagishi, Takafumi Hara, Daehee Hwang , Haruhiko Koseki, Yoshinobu Asada, Shinji Shimoda, Kenji Mishima, Toshiyuki Fukada
論文タイトル: 「Requirement of zinc transporter SLC39A7/ZIP7 for dermal development to fine-tune endoplasmic reticulum function by regulating protein disulfide isomerase」
論文および雑誌情報等: Journal of Investigative Dermatology 2017, DOI: 10.1016/j.jid.2017.03.031
URL:
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昭和大学歯学部 口腔病態診断科学講座 口腔病理学部門 兼任講師
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