―47都道府県・40年間のデータから成熟経済の「東京問題」を捉え直す―
横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科の大塚章弘教授は、1980~2019年の都道府県データを用い、人口集中と生産パフォーマンスの関係を検討しました。人口・就業密度と人口1人当たり・就業者1人当たりの生産との統計的関連を「密度プレミアム」
*1と捉え、それが1990年代以降に大幅に弱まったことを確認しました。
また、東京都では人口集中が続く一方、1人当たり実質県内総生産は伸び悩み、全国では都道府県間格差の縮小とキャッチアップがみられました。これらをBorrowed Size(借りた規模)三層モデル
*2で整理し、新経済地理学(NEG)
*3を補完する枠組みとして位置づけ、今後の検証課題を示しました。
本研究成果は、国際学術誌 Regional Studies, Regional Science に掲載されました(2026年9月10日)。
研究成果のポイント
- 人口・就業密度の「密度プレミアム」が1990年代以降に弱まる傾向
- 東京都では人口集中と1人当たり実質県内総生産の伸びが乖離
- Borrowed Size三層モデルから成熟経済における地域の生産パフォーマンスを解釈
研究背景
日本では、人口減少が進む一方で、東京圏への人口や経済機能の集中が続いており、東京一極集中と地方圏の縮小は長期的な政策課題となっています。新経済地理学(NEG)は、規模の経済、輸送費、労働移動などを通じて、人口や企業が特定の地域に集積する仕組みを理論的に説明してきました。この枠組みは、都市の形成や人口分布を理解するうえで大きな説明力を持っています。
一方、日本では1990年代までに、高所得化、急速な都市化、キャッチアップ型の工業化が概ね一巡し、その後は少子高齢化、サービス経済化、低成長が進みました。本研究では、こうした経済段階を「成熟経済」と捉えています。この段階では、地域の成長の源泉を、人口集積の規模だけでなく、産業構造や地域間の接続性などを含めて捉える必要があります。日本の1990年代は、こうした条件が定着し始めた移行期として位置づけられます。
本研究は、47都道府県の公式統計データ
*4を用いて、成熟経済下において東京圏への人口集中が続くなかで、地域の生産パフォーマンスにどのような変化が生じているのかを検討しました。具体的には、人口集積の中心である東京都が必ずしも生産パフォーマンスの成長拠点となっていないことや、東京都以外の地域で東京都を上回る伸びが観測される事実を、どのように説明できるかを明らかにしています。
研究内容
本研究では、47都道府県を分析単位とし、人口、実質県内総生産(GRP)、就業者数、可住地面積を用いて、1980~2019年の長期的な変化を分析しました。
観測の中心は、次の5点です。
① 東京都における人口密度の上昇と1人当たり実質GRPの伸びとの関係
② 都道府県間における人口増加率と1人当たり実質GRP成長率との関係
③ 1人当たり実質GRPの地域間格差の推移
④ キャッチアップがみられる地域
⑤ 人口・就業密度と生産パフォーマンスとの関係の長期的な変化
図1 東京都の人口密度と生産パフォーマンスの関係(1980~2019年)
(出典:Otsuka, A.(2026a)図1を基に作成)
東京都では、1990年代半ば以降も人口密度が上昇を続けた一方、1人当たり実質GRPの伸びはそれ以前と比べて大きく鈍化し(図1)、長期的には全国平均を上回る伸びを示しませんでした。また、1990~2019年の都道府県比較では、人口増加率と1人当たり実質GRP成長率との間に負の統計的関連がみられ、人口増加率の高い都道府県ほど1人当たり実質GRP成長率が低い傾向が確認されました。1人当たり実質GRPの地域間格差については、上位地域と下位地域の差は大きく縮まっていないものの、都道府県全体では格差縮小の動きがみられました。北関東3県(茨城県、栃木県、群馬県)、滋賀県、三重県などでは、東京都を上回る1人当たり実質GRPの長期的な伸びが確認されました。
さらに、1人当たり実質GRPと人口密度との関係、および就業者1人当たり実質GRPと就業密度との関係を、47都道府県を対象に各年について推計しました。その結果、人口密度の推定係数は1990年の0.175から2019年の0.076へ低下し、就業密度の推定係数も同期間に0.147から0.064へ低下しました(図2)。東京都と沖縄県を除いた推計でも同様の低下傾向がみられ、人口ベースと就業者ベースの双方で、密度プレミアムの低下が確認されました。
図2 密度プレミアムの推移(1980~2019年)
(出典:Otsuka, A.(2026a)図7を基に作成)
これらは人口の集中構造が維持される一方で、密度と生産パフォーマンスとの結び付きが長期的に弱まるという観測結果になります。この現象は、人口や経済活動の集積の形成を中心に説明する従来のNEGの標準的な枠組みだけでは、十分に整理しにくいものです。そこで本研究では、筆者が提唱するBorrowed Size(借りた規模)三層モデルを用いて、これらの現象を整理しました。
三層は次のとおりです。
① 産業別の集積外部性の生成
② 交通、通勤、取引、情報通信などのネットワークを介した外部性の伝達・再配分
③ 効果の変換・持続を左右する制度や地域間関係
この枠組みを用いることで、人口集積の中心と生産パフォーマンスの成長拠点が一致しないことや、東京都への人口集中が続く一方で、一部地域によるキャッチアップが進むことを、一つの分析枠組みの中で解釈できます。
今後の展開
今後は、Borrowed Size三層モデルを構成する各要素について、より直接的に検証する必要があります。第1層については、産業別の付加価値や労働生産性を用いて密度との関係を精査します。第2層については、交通、通勤、地域間取引、デジタル接続性などのデータを用いて、集積外部性が地域間でどのように伝達・再配分されるのかを分析します。第3層については、財政移転、公共投資、地域政策をはじめとする制度的要因や地域間関係が、集積外部性の変換とキャッチアップの持続性に与える影響を検討することが課題です。
また、都道府県とは異なる空間単位である機能的都市圏や、より細かな市町村データを用いた分析も必要です。さらに、居住者ベースの所得指標を用いた分析や、人口減少と高齢化が進む他国との国際比較も重要な課題となります。これらの分析を通じて、人口集中が続く成熟経済において、集積の利益と不利益が、どの地域に、どのような条件のもとで現れるのかを明らかにすることを目指します。
研究費
本研究は、JSPS科研費 JP22K01501の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:Revisiting New Economic Geography: Borrowed Size in Japan’s Mature Economy
著者:Akihiro Otsuka
雑誌名:Regional Studies, Regional Science
出版社:Taylor & Francis
DOI:
https://doi.org/10.1080/21681376.2026.2722818
*1
密度プレミアム:人口密度が高い地域ほど1人当たり実質県内総生産が高く、就業密度が高い地域ほど就業者1人当たり実質県内総生産が高いという統計的な関連。本研究では、各年の47都道府県を対象とした横断回帰における密度変数の推定係数として測定しており、因果効果を意味するものではありません。
*2
Borrowed Size(借りた規模)三層モデル:地域が自らの人口規模や経済規模だけに依存せず、大都市圏や他地域とのつながりを通じて、外部の市場、知識、機能などを利用するというBorrowed Sizeの考え方を、筆者が三層の分析枠組みとして整理したもの。第1層は産業別の集積外部性、第2層は交通、通勤、取引、情報通信などのネットワークを介した外部性の伝達・再配分、第3層はその効果の変換や持続を左右する制度・地域間関係を表す。
*3
新経済地理学(New Economic Geography:NEG):規模の経済、輸送費、企業立地、労働移動などを組み込み、経済活動が特定の地域に集積する仕組みを説明する空間経済学の理論的枠組み。
*4
公式統計データ:分析で使用した政府による公開データは以下の通り。
都道府県別経済財政モデル・データベース(内閣府)
https://www5.cao.go.jp/keizai3/database.html
社会・人口統計体系(総務省)
https://www.e-stat.go.jp/regional-statistics/ssdsview
参考文献など
[1] Otsuka, A. (2026a). Revisiting New Economic Geography: Borrowed Size in Japan’s Mature Economy. Regional Studies, Regional Science, 13(1), 2722818.
https://doi.org/10.1080/21681376.2026.2722818
[2] Otsuka, A. (2026b). Borrowed Size and Regional Resilience: Lessons from Japan. New Frontiers in Regional Science: Asian Perspectives, Vol. 86. Springer Nature Singapore.
https://doi.org/10.1007/978-981-95-7016-4
[3] 大塚章弘 (2026c). 人口減少下の日本における地域経済パズル:集積の経済から地域間ネットワーク経済を経て Borrowed Size へ至る読解地図. Jxiv,
https://doi.org/10.51094/jxiv.6184