がん治療を阻む副作用「化膿性肉芽腫」の制御へ 既存の緑内障点眼薬による有効性を世界で初めて客観的に立証

 東京慈恵会医科大学皮膚科学講座の延山嘉眞教授らの研究グループは、爪周囲の化膿性肉芽腫に対する緑内障の点眼薬外用の効果を世界で初めて客観的データから証明しました。

 がん治療に用いられる分子標的薬などの副作用として、爪の周囲に「化膿性肉芽腫(かのうせいにくげしゅ)」が高頻度で発生することが知られています。この病変は激しい痛みや出血を伴い、歩行などの日常生活に支障をきたすだけでなく、最悪の場合はがん治療そのものの中断を余儀なくされる重大な課題でした。しかし現在まで、安全で非侵襲的な標準治療は確立されていません。
 一部の症例報告で緑内障点眼薬に用いられるチモプトール(β遮断薬)の有効性が散発的に語られていましたが、本研究ではその効果と安全性を客観的かつ統計的に証明することを目的に臨床研究を実施しました。この研究では、チモプトール外用の爪囲化膿性肉芽腫に対する効果と安全性を客観的かつ統計的に証明する目的で行われました。
 分子標的薬による爪囲化膿性肉芽腫を有する患者12名を対象に、0.5%チモプトール点眼液を1日2回患部に外用したところ、病変サイズは経時的に縮小し、8週後には統計学的に極めて有意な縮小を確認しました。同時に痛みスコアも大幅に改善しました。また、血圧や脈拍の変動、局所の接触皮膚炎などの有害事象は一切認められず、高い安全性が示されました。
 本成果は、がん治療を阻む副作用「化膿性肉芽腫」を制御するための画期的な一歩です。今後は、さらに高度なエビデンスを構築するため、二重盲検比較試験による検証を進め、本療法の標準化と普及を目指します。
 本研究の成果は、2026年7月13日に国際学術雑誌であるJournal of Dermatology誌に掲載されました。

メンバー:
東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座 助教 渡邉淑識
東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座 研究技術員 冨永美菜子
東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座 准教授 勝田倫江
東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座 准教授 出来尾格
東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座 講座担当教授 朝比奈昭彦
東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座 教授 延山嘉眞

研究の詳細

1.背景
化膿性肉芽腫(下記参照)は易出血性の腫瘍性病変です。分子標的薬の副作用として爪周囲に出現し、歩行などの日常生活に支障をきたすだけでなく、最悪の場合はがん治療の中断を余儀なくされる重大な課題です。簡便、安全、非侵襲的な治療法は確立していません。
近年、緑内障点眼薬チモプトール(β遮断薬)(下記参照)の化膿性肉芽腫に対する効果が散発的に報告され、また24例のまとまった報告ではガーター法(下記参照)との併用の効果が主観的方法で示されています(Yenyuwadee, 2025)。しかし、同薬の効果と有害事象について客観的な方法で証明されていませんでした。この研究では、効果と安全性を客観的かつ統計的に証明する目的で行われました。

2.手法
3名の非分子標的薬投与患者を含む12名の爪周囲化膿性肉芽腫を有する患者を対象としました。投与前、投与開始4週後、投与開始8週後において腫瘍のサイズ、痛みスコア(visual analog scale:VAS)(下記参照)で評価しました。

3.成果
化膿性肉芽腫のサイズは経時的に有意に縮小しました(p = 0.003:Friedman検定(下記参照))。平均縮小率は4週時点で48.6%、8週時点で60.3%でした。8週時点では投与前のサイズに比べ有意に縮小していました(p = 0.002:Friedman検定)。また、疼痛スコアは経時的に有意に改善していました(p < 0.001:Friedman検定)。平均疼痛減少率は4週時点で36.7%、8週時点で65.5%でした。
安全性については、収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍ともに投与による変化はみられませんでした。また、接触皮膚炎などの局所の有害事象もみられませんでした。

4.今後の展開
今後は、さらに高度なエビデンスを構築するため、二重盲検比較試験による検証を進め、本療法の標準化と普及を目指します。

5.用語説明
化膿性肉芽腫:急速に発生する易出血性隆起性の良性腫瘍。疼痛を伴うことがある。
β遮断薬:アドレナリン作用をブロック。心拍数を減らし、心筋の収縮力を抑える。
チモプトール:β遮断薬の一種。眼内β受容体を遮断することにより眼球を満たす液体の生成を抑制することにより眼圧を下げる。
ガーター法:爪が周囲組織に食い込まないように爪の側縁をカバーする方法。
Visual analog scale:感覚や症状の度合いを、1本の直線上に印をつけて測定する方法。
Friedman検定:単一の変量を解析する統計学的解析。

以上
本件に関するお問合わせ先
学校法人慈恵大学 広報課
メール:koho@jikei.ac.jp
電話:03-5400-1280

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