【立教大学】長鎖人工ゲノムDNAが自身の情報をもとに自らを複製するシステムを試験管内で構築~多数の遺伝子を持つ人工細胞の創出に期待~

立教大学(東京都豊島区、総長:西原廉太)理学研究科生命理学専攻の山岸勇太(博士後期課程)、末次正幸教授らの研究グループは、長鎖人工ゲノムDNAが自らを複製するシステムを試験管内で構築しました。


生物の細胞では、ゲノムDNAに書かれた情報をもとにタンパク質が作られ、そのタンパク質によってゲノムDNA自身が複製されます。人工細胞 (注1)を作るには、DNAに多くの遺伝子を入れ、そのDNAが遺伝子発現を通して自身を増やす自己複製の仕組みが必要です。しかし、長いDNAほど複製することが難しく、自己複製するシステムの構築が大きな課題でした。
本研究では、大腸菌がDNAを複製するときに使う26種類のタンパク質の情報を約5万3000塩基対(53 kb)の長鎖人工ゲノムDNA (注2)に組み込み、その遺伝子発現を介して試験管内でDNA自身を複製させることに成功しました。本成果は、多数の遺伝子を持ち、自らを複製できる人工細胞の構築に向けた基盤として期待されます。
 
本研究成果は、2026年7月6日(英国時間)に英国科学誌「Nucleic Acids Research」にオンライン版で公開されました。
 

■ポイント■
● 大腸菌がDNAを複製するときに使うタンパク質の情報をコードした、53 kbの長鎖人工ゲノムDNAをデザイン・構築した。
● 試験管内で長鎖人工ゲノムDNAから複製に必要なタンパク質を作り、そのタンパク質によってDNA自身を複製させることに成功した。
● 増えたDNAを次の反応へ移しても自己複製を繰り返すことができ、多数の遺伝子を持つ人工細胞の構築への展開が期待される。
 

【1.研究の背景と経緯 】
生命の大きな特徴の一つは、自分自身を構成する分子を作り、次の世代へ情報を受け継ぐことです。その中心にあるのがゲノムDNAです。生物の細胞では、ゲノムDNAに書かれた情報からRNA(リボ核酸)やタンパク質が作られ、その一部のタンパク質が再びゲノムDNAを複製します。このサイクルによって、生物は自分自身の情報を維持し、増やすことができます。
人工細胞研究では、生命を構成する分子を人工的に組み合わせ、細胞のような機能を試験管内で再現することを目指しています。中でも、ゲノムDNAを自ら複製する仕組みは、人工細胞が自律的に増殖するために欠かせない機能です。
これまでにも、ウイルス由来のDNA複製の仕組みを使って、短いDNAを試験管内で自己複製させる研究が報告されてきました。一方で、人工細胞に多くの機能を持たせるには、多数の遺伝子を搭載できる長鎖DNAを扱う必要があります。しかし、そのような長鎖DNAに、自分自身を複製するための複雑なタンパク質群をコードし、実際に自己複製させることは大きな課題でした。

本研究グループは、大腸菌のDNA複製を試験管内で再現するReplication-Cycle Reaction (RCR) (注3)を基盤として、この課題に取り組みました。このRCRは試験管内でゲノムレベルの大きなDNAを増幅することができるシステムです。本研究では、この複製システムに必要な遺伝子群を長鎖人工ゲノムDNAに搭載し、そのDNA自身から作られるタンパク質群によってDNA自身を複製できるかを検証しました。
 


【2.研究の内容 】
-参考図-

 
今回構築した長鎖人工ゲノムDNAの自己複製システムと実証したその安定的な繰り返し

●図説明
大腸菌型のDNA複製に必要な遺伝子群を、1つの長鎖人工ゲノムDNAに搭載した。このDNAからPURE systemで複製タンパク質遺伝子を発現し、作られたタンパク質群によって元のDNA自身を複製させた。さらに、増えたDNAを新しい反応液へ移すことで、自己複製を繰り返せることを確認した。

研究グループはまず、大腸菌型のDNA複製(RCR)に必要な26種類のタンパク質遺伝子をすべてコードした53 kbの長鎖人工ゲノムDNAを設計・構築しました。次に、この長鎖人工ゲノムDNAを、細胞を使わずにDNAからタンパク質を作ることができる無細胞遺伝子発現系(注4)に加え、DNAにコードされた複製タンパク質群を試験管内で作り出しました。
しかし、長鎖人工ゲノムDNAには多くの遺伝子がコードされているため、すべてのタンパク質を十分な量で作らせることは簡単ではありません。多数の遺伝子を一つのDNA上で発現させ、機能させるには、遺伝子の並び方や発現のバランスが重要になります。特に、必要なタンパク質の一部が不足すると、複製反応全体が進まなくなります。

そこで研究グループは、まず、どのタンパク質が不足しやすいかを調べました。その結果を基に、長鎖人工ゲノムDNAの設計を改良し、反応条件を見直すことで、自己複製に必要な複製タンパク質群を適切に発現させる条件を整えました。
この改良によって、発現した複製タンパク質群が元の長鎖人工ゲノムDNAに作用し、DNA自身が複製されることを確認しました。さらに研究グループは、1回の反応で増えた長鎖人工ゲノムDNAを新しい反応液に移し、再び自己複製させる継代反応 (注5)を行いました。その結果、自己複製を繰り返し維持できることが確認されました。

この結果は、長鎖人工ゲノムDNAが次の反応へ引き継がれながら自己複製を続けられることを示しており、多数の遺伝子をコードした人工ゲノムDNAを用いて、多くのタンパク質を持つ人工細胞を構築するための基盤となります。
 

【3.今後の展開 】
現在の長鎖人工ゲノムDNAには、大腸菌型のDNA複製に必要な遺伝子群が搭載されています。今後、このDNAに転写、翻訳、代謝などを担う遺伝子群を追加していくことで、人工細胞に必要な機能を段階的に組み合わせられる可能性があります。
将来的には、低分子化合物やアミノ酸、エネルギー源などを与えるだけで、自分自身の構成要素を作りながら増殖する人工細胞の構築につながることが期待されます。



【4.用語解説 】
(注1) 人工細胞
生命を構成する分子を人工的に組み合わせ、細胞のような振る舞いを再現しようとする研究対象。ゲノム複製、遺伝子発現、代謝、膜形成などの機能を段階的に組み合わせ、自律的に増殖する人工システムの構築を目指す。
(注2) 長鎖人工ゲノムDNA
本研究で構築した、多数の遺伝子を搭載した環状DNA。大腸菌型のDNA複製に必要なタンパク質群と複製開始配列を含み、自身から作られたタンパク質群によって自分自身を複製できるように設計されている。
(注3) Replication-Cycle Reaction (大腸菌型DNA複製システム)
大腸菌がゲノムDNAを複製するときに使う仕組みを、試験管内で再現したシステム。本研究では、26種類のタンパク質が協調してDNAを複製するRCR system (Su’etsugu et al., NAR, 2017) を基盤としている。
(注4) 無細胞遺伝子発現系
細胞を使わずに、DNAからRNAとタンパク質を作る反応系。本研究では、構成成分が明確な再構成型の無細胞遺伝子発現系のPURE system (Shimizu et al., Nat Biotech, 2001)を用いて、長鎖人工ゲノムDNAから複製タンパク質群を作り出した。
(注5) 継代反応
1回の反応で得られた産物の一部を新しい反応液へ移し、同じ反応を繰り返す操作。自己複製を繰り返し維持できるかを調べるために用いた。
 

【5.論文情報 】
●雑誌名: Nucleic Acids Research
●論文タイトル:
A self-replicating artificial module-genome that generates bacterial chromosome replication system in vitro (試験管内で細菌染色体複製システムを生成する自己複製型人工モジュールゲノム)
●著者: 山岸勇太、園山能基、川上直貴、長谷部友憲、末次正幸
●DOI: https://doi.org/10.1093/nar/gkag663
●掲載日: 2026年7月6日
 
 
 

▼本件に関する問い合わせ先
立教学院企画部広報課
メール:koho@rikkyo.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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組織名
立教大学
ホームページ
https://www.rikkyo.ac.jp/
代表者
西原 廉太
資本金
0 万円
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非上場
所在地
〒171-8501 東京都豊島区西池袋3丁目34-1

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