高齢者の骨折と嚥下障害・うつ・記憶障害との深い関係

~健康な高齢者を守る新たな視点~

藤田医科大学整形外科学の藤田順之教授と認知症・高齢診療科の武地一教授らの研究チームは、2022年12月から2023年1月にかけて、愛知県豊明市の地域在住高齢者※1を対象に、豊明市が実施した約1万6千人規模のアンケート調査から、骨折と健康状態の関連を明らかにしました。
この結果、要介護認定を受けていない、いわゆる“お元気高齢者”のうち、15%が65歳以降に骨折を経験しており、骨折の回数が多いほど、日常生活動作の低下、身体機能の衰え、うつ傾向、記憶障害といったさまざまな健康問題が有意に増加する傾向が確認されました。
特に「嚥下障害※2(飲み込みづらさ)」との関連は強く、骨折経験者ではその発症率が最大2倍以上に達しました。高齢者の健康寿命を延ばすためには、骨折の予防のみならず、骨折歴のある方への早期の健康支援や介入が重要であることが、本研究から示唆されました。今後は、自治体と医療の現場が連携し、地域全体で骨折を防ぎ、支える仕組みを築くことが求められます。

本研究成果は、英国のBioMed Central(BMC)によって発行されているオープンアクセス学術雑誌「BMC Geriatrics」オンライン版で2025年4月10日に公開されました。
論文URL : https://bmcgeriatr.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12877-025-05876-y


<研究成果のポイント>
  • 65歳以上の地域在住の高齢者約1万6千人を対象にした大規模調査で、骨折と健康状態の関連を明らかにしました。
  • 骨折は、要介護認定を受けていない「お元気高齢者」においても、日常生活動作(ADL)※3や身体機能、うつ症状、記憶障害など多くの健康指標と関連していました。
  • 特に「嚥下障害(飲み込みづらさ)」との関連が最も強く、骨折歴のある高齢者ではその発生頻度が有意に高いことが判明しました。

<背 景>
日本は世界でも有数の長寿国であり、高齢者の健康寿命の延伸が大きな課題となっています。中でも「骨折」は要介護状態への移行や死亡率の上昇につながる重大な健康リスクですが、要介護認定を受けていない比較的健康な高齢者における骨折の影響については十分に解明されていませんでした。藤田医科大学と愛知県豊明市は、これまでも連携して地域の健康課題に取り組んできましたが、本研究では、豊明市が実施した地域在住高齢者へのアンケート調査の貴重なデータを活用し、両者の協力体制のもと、骨折と健康状態の関連を詳細に分析しました。


<研究手法・研究成果>
2022年12月から2023年1月の期間に、豊明市に居住する65歳以上の高齢者のうち、要介護認定を受けていない方、約1.6万人に対して調査票を郵送。有効回答約1.1万人(回収率71.6%)のうち、65歳以降の骨折歴があるか否かを尋ねた結果、15%が「骨折あり」と回答しました。
さらに、骨折回数に応じた健康状態との関連を統計解析したところ、以下のことが分かりました:

・骨折回数が多いほどADL、身体機能、うつ症状、記憶障害のいずれも悪化傾向を示しました。
・呼吸器疾患、眼科疾患、うつ病などの疾患が骨折回数の増加とともに有意に多くみられました。
・「嚥下障害」は骨折回数との関連が特に強く、骨折が1回、2回以上あるグループでは、嚥下障害の報告率がそれぞれ1.34倍、2.24倍と高くなる傾向が確認されました。
 

<今後の展開>
この研究結果は、骨折が「お元気高齢者」にも広範な健康への影響を示唆するものです。今後は、骨粗鬆症の早期発見や転倒予防のための地域での運動指導、住環境の整備、適切な薬剤管理など、多方面からの介入が求められます。また、今回の横断研究を基盤として、今後は追跡調査を通じて骨折がもたらす健康への影響をより明確に解明する予定です。


<用語解説>
※1 地域在住高齢者:病院や施設ではなく、自宅などで自立して生活している高齢者のこと。
※2 嚥下障害:食べ物や飲み物をうまく飲み込めない状態。高齢者では誤嚥性肺炎のリスク因子となる。
※3 日常生活動作(ADL):食事や入浴、トイレなど、日常生活を送るために必要な基本的な動作のこと。


<文献情報>
●論文タイトル
Association between fractures and health status among independent older adults: Insights from a suburban cohort in Japan

●著者
辻村俊造1、道川武紘2、都築晃3、黒岩宇1、川端走野1、河野友祐1、森田充浩1、早川和恵1、金子慎二郎4、武地一5、藤田順之1

●所属
1 藤田医科大学 医学部整形外科学
2 東邦大学 医学部 社会医学講座 衛生学分野
3 藤田医科大学 保健衛生学部リハビリテーション学科
4 藤田医科大学 医学部脊椎外科学
5 藤田医科大学 医学部認知症・高齢診療科

●DOI
10.1186/s12877-025-05876-y 
本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp

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組織名
学校法人藤田学園
ホームページ
https://academy.fujita-hu.ac.jp/
代表者
星長 清隆
資本金
19,209,900 万円
上場
非上場
所在地
〒470-1192 愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1番地98
連絡先
0562-93-2800

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