大妻女子大学の清原准教授らによる研究で、健康な成人向けの健康行動介入の有効性および有効な介入要素が明らかに



国立大学法人筑波大学(所在地:茨城県つくば市、学長:永田恭介)体育系 中田由夫教授と大妻女子大学(所在地:東京都千代田区、学長:伊藤正直)家政学部 清原康介准教授および国立大学法人島根大学(所在地:島根県松江市、学長:大谷浩)人間科学部 辻本健彦講師は、健康な成人向けの身体活動促進介入の効果や有効な介入要素を評価した116件の文献について、システマティックレビューとメタ分析を行いました。その結果、介入の効果は小さく、介入プログラムの改善の重要性が示唆されました。また、有効または阻害要因となりうる介入要素を明らかにしました。




●研究成果の概要
 身体不活動(身体活動の不足)は、全死因死亡率、心血管疾患、糖尿病、肥満を引き起こす重大な公衆衛生課題であり、全人口の約65%を占める労働人口世代の身体活動量を増加させることで、健康改善や疾病の早期予防が期待されます。今まで、身体活動量を増加させるための多くの介入研究が実施されてきました。本研究では、健康な成人向けの身体活動促進介入の効果および有効な介入要素を評価した文献のシステマティックレビューおよびメタ分析を行い、健康な成人向けの身体活動促進介入の有効性を検証するとともに、行動変容技法分類に基づいて、各介入要素の有効性を評価しました。
 2つの論文データベース(PubMedと医中誌Web)を使用し、2024年5月31日までに出版され、対象者を18歳以上、65歳未満の健康な成人とした、運動または身体活動に関連するランダム化比較試験を対象文献(116件)としました。メタ解析の結果、成人向けの身体活動促進介入の効果は小さく、介入プログラムを改善することの重要性が示唆されました。また、メタ回帰分析により、行動変容技法分類のうち「行動目標の見直し」が有効な介入要素として認められました。そのほか、いくつかの介入要素が潜在的な有効または阻害要素となることが分かりました。
 今回のメタ回帰分析の結果で関連性が示された介入要素を考慮したプログラムを構築することで、より効率的な身体活動促進介入の実施につながると期待されます。

●研究代表者
・国立大学法人筑波大学 体育系
 中田 由夫 教授
・大妻女子大学 家政学部食物学科
 清原 康介 准教授
・国立大学法人島根大学 人間科学部
 辻本 健彦 講師

●研究の背景
 身体不活動(身体活動の不足)は、全死因死亡率、心血管疾患、糖尿病、肥満を引き起こす重大な公衆衛生課題です。労働人口は全人口の約65%を占め、社会の生産性や発展のためには極めて重要です。その多くが若年~中年の成人であり、この世代の身体活動量を増加させることで、健康改善や疾病の早期予防が期待されます。今まで、身体活動量を増加させるための多くの介入研究が実施されてきましたが、健康な成人向けの身体活動促進介入の効果および有効な介入要素を評価したシステマティックレビュー 注1)はほとんどありませんでした。そこで、本研究では、これまでに報告された論文を対象に、システマティックレビューおよびメタ分析 注2)を用いて、健康な成人向けの身体活動促進介入の有効性を検証するとともに、行動変容技法(Behavior Change Technique)分類法 注3)に基づき分類された介入要素の有効性を評価しました。


●研究内容と成果
 2つの論文データベース(PubMedと医中誌Web)を使用し、2024年5月31日までに出版され、18歳以上、65歳未満の健康な成人を対象とした、運動または身体活動に関連するランダム化比較試験を対象文献としました。検索の結果、116件の文献を分析対象として採択し、メタ分析を用いた採択文献の全体的な介入効果の評価を行うとともに、メタ回帰分析 注4)を用いて介入要素の有効性を2つの方法(方法Ⅰ:介入群で特定された介入要素を投入する、方法Ⅱ:対照群になく、介入群に使用された介入要素のみを投入する)で評価しました(添付図1)。いずれの分析においても、主要分析では、総合的な身体活動指標アウトカム 注5)に対する介入効果を、サブグループ分析 注6)では、各身体活動アウトカムに対する介入効果を評価し、得られた結果を感度分析 注7)で再検証しました。本研究の感度分析は、メタ分析においては、質が低い研究を除外した上で、trim-and-fill法 注8)を使用するか異常値を除外して、また、メタ回帰分析においては、質の低い研究を除外して、再分析を行いました。
 メタ分析の結果(添付表1)、中高強度身体活動と仕事および余暇時間の身体活動以外のアウトカムについては、介入効果の有意性が認められましたが(全てp<0.05)、感度分析では、身体活動指標アウトカム(標準化平均差SMD 注9)=0.19)と総身体活動(SMD=0.32)のみ、有意な介入効果が認められました(全てp<0.005)。メタ回帰分析の結果(添付表2)では、行動変容技法分類法のうち「行動目標の見直し」が有効な介入要素(2つの方法とも回帰係数>0,p<0.05)、「ソーシャルサポート(感情的)」が潜在的な有効要素(方法IIのみ回帰係数>0,p<0.05)として認められた一方、「ソーシャルサポート(実践的)」が潜在的な阻害要素(方法IIのみ回帰係数<0、p<0.05)であることが分かりました。また、感度分析では、「ソーシャルサポート(実践的)」が潜在的な阻害要素(方法IIのみ回帰係数<0,p<0.05)と示されました。さらに、「行動目標の見直し」(方法Ⅰ回帰係数>0,p=0.012;方法Ⅱ回帰係数>0,p=0.055)と「ソーシャルサポート(感情的)」(方法Ⅱ回帰係数>0,p=0.054)は有効と見られる傾向にありました。サブグループ分析および感度分析から、「行動に対するフィードバック」、「行動のセルフモニターリング」、「習慣形成」も潜在的な有効要素であり、「問題解決」および「促し/きっかけ」は潜在的な阻害要素であることが明らかになりました。


●今後の展開
 本研究により、成人向けの身体活動促進介入の効果は小さく、介入プログラムを改善することの重要性が示唆されました。今後、メタ回帰分析の結果で得られた有効要素や阻害要素を考慮したプログラムを構築することで、より効率的な身体活動促進介入の実施につながると期待されます。


●用語解説
注1)システマティックレビュー
過去に独立して行われた複数の研究のデータを収集・選択・評価・統合する研究手法。
注2)メタ分析
システマティックレビューによって得られた複数の研究のデータを、統計学的方法を用いて量的に統合する解析手法。
注3)Behavior Change Technique分類法
多分野・多国の専門家が共同で作成した、行動変容技法の標準化された分類法。
注4)メタ回帰分析
各個体の情報ではなく、研究ごとに平均結果を投入する回帰分析の手法。
注5)総合的な身体活動指標アウトカム
本研究では、身体活動の促進効果を全般的に分析するために、報告されたアウトカムから中高強度身体活動、歩行および総身体活動を「総合的な身体活動指標アウトカム」と定義し、複数報告の場合はそれぞれ、各身体活動指標アウトカムとして採択した。
注6)サブグループ分析
特定の条件で対象文献を分類した後、条件別で分析すること。本研究では身体活動アウトカムの種類により、中高強度身体活動、歩行、総身体活動、座位行動の減少、運動行動、仕事時間の総合的な身体活動指標アウトカムおよび余暇時間の総合的な身体活動指標アウトカムに対する介入効果をそれぞれ評価した。
注7)感度分析
特定の条件で対象文献を絞り、分析結果の頑健性を検証する分析手法。
注8)Trim and fill法
否定的な結果、低い効果などの理由で公表されていない研究の存在を仮定し、採択文献から一部の文献を取り除く(trim)、もしくは、仮定した未公表の研究を追加する(fill)補正手法。
注9)標準化平均差(SMD:Standardized mean difference)
平均差(ベースラインから介入終了までの変化量または介入終了時の値の差)を当該研究における対照群の標準偏差で割ることによって、平均差を標準化した値。


●研究資金
 本研究は、厚生労働科学研究費補助金(研究代表者:澤田亨、助成番号JPMH20FA1006)の支援を受けて実施されました。

●掲載論文
【題 名】 Effectiveness and Components of Health Behavior Interventions on Increasing Physical Activity Among Healthy Young and Middle-Aged Adults: A Systematic Review with Meta-Analyses
(健康な若中年成人における身体活動を高める健康行動介入の有効性およびその要素:システマティックレビューおよびメタ分析)
【著者名】 Jiawei Wan, Jihoon Kim, Takehiko Tsujimoto, Ryoko Mizushima, Yutong Shi, Kosuke Kiyohara, Yoshio Nakata
【掲載誌】 Behavioral Sciences
【公開日】 2024年12月19日
【DOI】 10.3390/bs14121224


●問い合わせ先

▼研究に関すること
・中田 由夫(なかた よしお)
 筑波大学体育系 教授
 TEL: 029-853-3957
 Email: nakata.yoshio.gn@u.tsukuba.ac.jp
 URL: https://sportsmed.taiiku.tsukuba.ac.jp/nakata-yoshio/

▼取材・報道に関すること
・大妻女子大学 広報・入試センター 広報・募集グループ
 TEL:03-5275-6011
 E-mail: opr@ml.otsuma.ac.jp
・筑波大学 広報局
 TEL: 029-853-2040
 E-mail: kohositu@un.tsukuba.ac.jp
・島根大学 企画広報課 広報グループ
 TEL: 0852-32-6603
 E-mail: gad-koho@office.shimane-u.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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組織名
大妻女子大学
ホームページ
https://www.otsuma.ac.jp/
代表者
伊藤 正直
上場
非上場
所在地
〒102-8357 東京都千代田区三番町12

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